◆読書忘備録



▽過去

▽’03年8月


○三池崇史「監督中毒」 ★★★

日本一忙しい監督こと三池崇史の初自伝。今月は三池崇史強化月間。
三池監督の、TVドラマの現場に手伝いとして入ってから今に至るまでを振り返る本。壮絶に忙しい現場の話、現場で出会った監督や助監督や
俳優の話など、今日の三池監督を形成するに至る断片をかいま見れる。
そして培われてきたものは最後に
「極道恐怖大劇場 牛頭」という作品に収束して、自伝は終わる。やはりあの作品にはそれだけのものが
あったのだ。だよなあ。オイラ一晩に(オーディオ・コメンタリーも含めてだが)3回も見ちまったもんなあ。


実際の所ちゃんとした映画を圧倒的に見てないしクラシックの名作どころなんて言わずもがなというオイラなのだが、会社の命令でピクチャー
ムービーを矢継ぎ早に量産させられながらもどこに己れの色をくっきりと混ぜ込んでいき(つーか型破りな展開をブチ込み)その名を
知らしめていった
という三池監督の流れは鈴木清順翁を思い起こさせるというのは、独りよがりな解釈?




○富野由悠季「だから僕は…」 ★★★

「ガンダム」、「イデオン」などで知られる”皆殺しのトミノ”こと富野由悠季の自伝
とはいえ本自体は「ガンダム」の一大ブームの時に書かれたもので、最近のトミノ再ブームに乗って復活したもの。
なのでヒゲやブレンやキンゲの話はなし。古い本だが、主義主張は今でも通用するわけで、ろくでもない出来の深夜アニメ作っているヤツら
の鼻の穴にこの本突っ込んでやりてえ


富野氏のデビューは虫プロ・「鉄腕アトム」だったのだが、そこで社長と作家との板挟みになって苦しむ手塚治虫のエピソードが印象的
だった。
あとは中学時代の習作。…こんなん読ませられたらそりゃあ先生絶句しますわい。しかもあんな挙動不審な動きとかしゃべり方だろ。




○京極夏彦「陰摩羅鬼の瑕」 ★★★★
STORY:春に伊豆で起きた事件の痛手から回復しつつあった関口は信州の山中にいた。仕事に赴いた探偵・榎木津が発熱で倒れたために、
その付き添いとして。二人が招かれたのは元華族・由良公允、通称”伯爵”の屋敷、通称”鳥の城”。彼の五度目の結婚式が行われるのだ。
そして、過去四度とも、新婦は初夜の翌朝、殺されていたのだった。伯爵は、初対面の関口に、開口一番、ある問い掛けをした…。



実に5年ぶりの京極堂シリーズ最新刊。「宴の始末」を読んでた頃って、まだ正社員じゃなかったよな、オイラ…。
現実世界ではそれだけ時間が経ったというのに、作中ではようやく第1作「姑獲鳥の夏」から一年が経過というのがなんだか。あれだけ事件
があって
まだ一年しか経ってないのか…。


つーか、新キャラ続出に加え、旧キャラもほとんどが参戦して大宴会状態だった「塗仏の宴」がゲップが出るほどボリューム満点すぎたので、今作
の薄さ(それでも他の小説と比べれば十二分に厚い)にちょっと肩すかし。
が、初期に返ったような少ない主要面子による物語は十二分に楽しかった。語り手が関口だったり、「姑獲鳥の夏」を彷彿とさせる(姑獲鳥の話も
出てくるし)話。…少々飛び道具気味なトリックも。まあ、犯人は予想通りで、動機も漠然と考えていたものに近かったが。
たとえば、果たしてあなたが何気なく行っているトイレでのケツの拭き方、またはエロ本左手右手はナニにもってってハァハァするそのやり方、
誰かにきちんと教わったことがありますか?それは本当に正しい方法のですか?実は他の人は始末にもっと大量の、あるいは逆に少量の
トイレットペーパーしか使ってないのかもしれませんよ、ということですね。(なんてろくでもないたとえだ!


シンプルで読みやすいが故に少々インパクトに欠けるか。

新キャラの中では大鷹という長野県警のスットコドッコイな刑事が目立っていたので、次作にも登場しそうだなあ、と思っていたら、すでにネットで
発表された短編に出ていましたかそうですか。




○栗本薫「グイン・サーガ 91 魔宮の攻防」 ★★
STORY:こちらへ。


魔道の力強すぎて萎え。アレクサンドロスが実は豹頭だった!なんて、今まで全く伏線も張ってないのにそんなこと言われても。(他の星から来た
というのは無論バレバレだったとはいえ)
どうも演技だったようだが、グインが防戦一方でストレスが溜まった巻。




○佐藤友哉「フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人」 ★★★
STORY:狂人揃いの鏡家の中で唯一まともだった妹の佐奈が自殺した。呆然とする兄・公彦の前に現れた謎の男・大槻は彼に一本のビデオを
見せる。そこには、佐奈が三人の男にレイプされる場面が映っていた。さらに大槻が公彦に渡したのは、ビデオに映っていた三人の男たちそれ
ぞれの娘の詳細な行動予定表だった。一方、公彦の幼なじみの明日美は連続女性殺人鬼・突き刺しジャックを追っていたが…。



第21回メフィスト賞受賞作
かわいい妹をレイプされ自殺に追い込まれた主人公が、何者かの手引きによって、報復のためレイプ犯の娘たちを誘拐監禁するというあまり
気持ちのよくない話と、うら若き女性ばかりを狙う連続殺人鬼・突き刺しジャック(すでに77人ほど屠っている)と時折視界がリンクしてしまう主人公
の幼なじみのヒロインの話が、キチガイ揃いの鏡家の人々を交えてからみ合っていくわけだが、オカルトや超能力という要素が強くて推理ものと
してはアンフェアかと。かといって、妹萌え小説として読むにはてんで萌えが足りねえ(笑)(紹介文には、「本書は『ああっ、お兄ちゃーん』
と云う方に最適です(嘘)」
とある)


しかし曲者揃いの鏡家の兄弟たちは魅力的に思えるので、今後彼らが活躍する続編に期待して★3つ。

この作品の最たる特徴の一つは、文中にサラリと書き流されるオタ用語かと。主人公の姉・綾子ロリ系同人作家、「カードキャプター
さくら」本書いてるし
。大泣きするのに
「トニオの水を飲んだ億泰ぐらいに」という表現をしたり、二人で包丁と拳銃を突きつけ合って固まって
「スパイクとビシャスみたいね」とか言ったり…(苦笑)


あと、事件の背景に件(くだん)の話があってビビッた。同時期に見たのがコレだったんで。なんでこんな牛の化け物ばかり…。
………ああ、アフタヌーンの「空談師」って”くだん”のもじりなのか。だから牛だったのか。つーか最近いらんもん付けてるせいで立ち読みでき
ないからどーなってるのかわからんけれど。
さらに脱線すると件(くだん)いうたら小松左京の「くだんのはは」という傑作ホラーですな。でも小松左京と牛といえば、やはり
最恐ホラー「牛の
首」
でせう。どんな恐ろしい話かというと………………いや、思い出しただけでも寒気がするんで…やっぱりやめる。