◆読書忘備録
▽’03年7月
○杉江松恋「バトル・ロワイアルU 鎮魂歌」 ★★★
STORY:映画のノベライズなんでそっちを参照。
映画のノベライズである。間違っても原作ではない。間違っても高見広春の「バロル・ロワイアル」の続編ではない。勘違いしてるヤツには
先生ナイフ投げるからな。
つーわけでこれは原作が存在しない映画「BRU」の副読本という位置づけで読むとかなりいい。誰が誰だかわからないままにあっという間
に残り10人以下まで虐殺されまくった鹿ノ砦3−B42名のことがだいぶわかる。誰が誰だかわからないままに次々と戦死していった”ワイルド
セブン”こと七原秋也と愉快な仲間たちのことがだいぶわかる。男子5番桜井晴哉がワイルドセブンのスナイパー・桜井サキと姉弟なんてことを
それまで一言も触れなかったのにいきなり「姉ちゃん!」「…!!」なんてやりとりを見させられて、見てるこっちの方が驚いたっつーか呆れた
わいボケが!などと罵らなくても済む。
それよりも何よりも、映画本編でただボケッと見ているだけなのに次々と脳裏に湧いてくる疑問に対して、片っ端から的確なフォローが入れ
られているのは評価すべきであろう。
Q、原作の熱血バカのシュウヤならともかく、映画版の後ろ向きなシュウヤがあんなどでかいテロをやっちまうなんてどうしちゃったのよ?
A、あの都庁爆破はサニー千葉が暴走してやっちまった(流石だ)もので、犯行声明は政府の捏造なのだよ。
Q、なんでパートナーが死ねばもう片方も爆破というタッグマッチなんて効率悪いことするの?
A、教育上、助け合いの精神を学ぶため。
Q、なんで敵がかつての自分たちと同じ境遇の中学生だと知りながらテロリストたちはあんなに全力攻撃したの?
A、まさか大人たちがそんな汚いことしてくるとは思わなかったんで、中学生だとわからずに殺しまくっちゃいました、てへ。
Q、なんで補給の弾丸に当たり外れなんて付けるの?つーかウルトラクイズかよ!
A、ゲームを盛り上げるためです。
Q、そもそも厨房なんて攻め込ませても大して効果上がるわけないんだから、最初からミサイル撃ち込めばいいじゃん。
A、一つはRIKI先生も仰られていた通り、金を掛けたくなかったから。
もう一つは、厨房たちが残虐非道なテロリストどもに次々殺されていく様をTV番組にして高視聴率を稼ぐ気なんで、一回で成功されては
困るんスよ。(「バトル・ランナー」かよ!)
Q、どうやって青井拓馬(男子一番)とシュウヤはあの状態から生き残ったの?
A、崖から飛び降りて泳いで逃げた(木亥火暴)
という案配で、映画を見て抱いてしまったかなりの数の疑問点が氷解していくこと請け合いである。
この本って、映画より先行して発売されてるはずだから、映画を目にして浮かんだ疑問をフォローしたわけではなく、元々の脚本とかプロットには
ちゃんと答えが用意されていたということになるんだよな。そうすると作中できちんと語るべき所を全然やっていないということで、ますます
映画の製作者たちの評価は落ちるなあ。つーかダメじゃん。
つーわけで、本来映画を見る前に予習のために読んでおくべきなのだが、それはオススメしない。先に映画を見るべし。
どうしてかって?
そりゃあRIKIのあのシーンのインパクトが薄れちまうからじゃあ!!!
前作以上に登場人物が多いためにキャラの掘り下げが弱いが、そこそこ楽しめる。ただ、ページが足りなくなったのか後半やたら駆け足に
なって盛り上がりに欠けるのはマイナス。そこを映画版は逆に長々ダラダラやってやはりマイナスだったりするのだが。
○殊能将之「鏡の中は日曜日」 ★★★
STORY:名探偵・石動戯作に依頼されたのは、14年前に、鎌倉に建つ、”魔王”と呼ばれた仏文学者・瑞門龍司郎の邸宅・梵貝荘で起きた
殺人事件の再調査だった。当時その事件を解決したのは石動が敬愛してやまない名探偵・水城優臣だったのだが、石動は小説として世に出て
いたその事件の顛末に疑問を感じ、事件の関係者を訪ねることにするが、梵貝荘で彼を待っていたのは…。
傑作「ハサミ男」で鮮烈デビューを飾った殊能将之の第4作。
主人公は「美濃牛」、「黒い仏」に続いて名探偵・石動戯作。ところが本のオビに「名探偵最後の事件!」とか書いてあるじゃないですか!まあ
ある意味前作「黒い仏」で世界は一度終わったような気もするが、今度こそこのうざったい探偵がお亡くなりにでもなるのかと思ったら…。
物語は過去の梵貝荘で起きた事件と現在の石動の調査が交互に書かれ進行していく。
過去の奇怪な事件を名探偵・水城優臣が華麗に解決するのだが、まあそっちのパートは、ああそうなんスか、くらいしか感想のつけようが
ない。しかし、そこで残った謎を石動が解決するラスト二段のどんでん返しには見事にやられた。
この、見切った!と読者に思わせておいて、そこからさらにひっくり返す手法は綾辻行人の「迷路館の殺人」を思い出させたのだが、最後
の参考文献にその「館」シリーズがズラリと載っていてビックリ。
どの辺を参考にしたのかと思っていたのだが、作者HPに衝撃の謎解きがあって唖然。
つーか石動の活躍よりも水城優臣の他の事件の方が興味あるなあ。
○「三池崇史の仕事 1991−2003」 ★★★★
”日本一忙しい映画監督”三池崇史の全作品解説(本人コメント付き)、プロデューサー・編集・音楽・CGデザイナーといった”三池組”への
インタビュー、インタビュー・ウィズ・三池崇史などで構成されている初の三池崇史読本。
なかなかに濃ゆい。三池初心者には冒頭のYES−NOチャート式の三池作品オススメ判定が役に立つ(かもしれない)し、マニアには全
作品リストが非常にうれしい。昨年までのビデオ化本数56本中、オイラがすでに見たのはわずかに14本、25%しかなく、猛省。もっと
頑張ります。
m@stervision氏の(HPに載っていたのをまんま持ってきた)「荒ぶる魂たち」の名レビューを始めとして珠玉のレビューが並んでいるが、
三池リスペクターの映画秘宝誌ライター・ギンティ小林氏のレビューは褒めちぎりすぎていてむしろ信用ならないのがちょっと残念。だって、
レビュー読むと「漂流街」めっちゃ面白そうだもん!(笑)
▽’03年6月
○王城舞太郎「煙か土か食い物」 ★★★★
STORY:「生きていても虚しいわ。人間死んだら煙か土か食い物や。火に焼かれて煙になるか、地に埋められて土んなるか、下手したらケモノに
食べられてまうんやで」。サンディエゴで救命医をしている奈津川四郎は、母親が連続主婦殴打生き埋め事件の被害者となったため、一度は
捨てた故郷に舞い戻る。そこで待っていたのは愛すべきかつファッキンな家族との再会と、異常な犯人との頭脳遊戯と、暴力と流血だった…。
第19回メフィスト賞受賞作品。
とにかく文章が口汚い。カタカナ英語で罵りまくっている。のべつ幕なく憤りまくっている。とにかく圧倒的ビートで畳み込んでくる。結果、非常に
テンポよく読み進められる。下品な言葉が嫌いじゃなければ。バイオレンスな展開が嫌いじゃなければ。
連続主婦殴打生き埋めというなかなかに類を見ない事件の現場は、ある法則に沿って選ばれていた。さらに、そこには幾重にも犯人の挑戦
的なメッセージが隠されていた。
複雑な暗号を解いて現れた文字は…ドラえもん、のび太、しずか、スネ夫、ジャイアン…って、なんじゃそりゃあ!!!
さらに遺留品のぬいぐるみ。羊象ライオンコアラ羊猿…って、なんじゃそりゃあ!
という謎の事件を横軸に、主人公・奈津川四郎と家族の確執を縦軸に、過剰な暴力の結果ドバドバあふれ出た血で貼り合わせた物語。
読んでいて最初はハードボイルドかな、と思ったのだが進んでいくうちにそうでないことがわかってくる。主人公が本能的すぎるし感情的すぎる
のだ。しかしその理不尽で脆くて情けないところがいい。強いし名医だしスラスラ謎を解くしのスーパーマンなのにその強さを、それを体現する
文章の爆発的な勢いを生み出しているのは実は大いなる不安の裏返しなのだという弱さがいい。
この作品は、そんな彼の人生の岐路を血なまぐさく描く物語であって、ちゃんとした推理小説を期待してしまうと肩すかしになるかも。確かに着眼
点はすごいのだが、まっとうな推理小説には組み込みようのない、んなアホな、というものばかりであるからして。
▽’03年5月
○乙一「天帝妖狐」 ★★★★
2ちゃんを覗いた後だと思わず「乙ー」と読んでしまいそうな乙一の「夏と花火と私の死体」に続く第2短編集。
表題作は妖しのものにそそのかされて生者の体を奪われ、この世のものならぬ体でさすらい続ける男と心清らなる少女のつかの間のふれ合いを
描いた切ねえ話。
個人的にお気に入りは、同時収録の「A MASKED BALL〜及びトイレのタバコさんの出現と消失」の方。
STORY:高校2年生の上村は息抜きに学校の隅のトイレでタバコを吸うのが日課。ある日、その個室の壁のタイルに「ラクガキスルベカラズ」と
いう落書きが書き込まれる。それに反応して翌日3つの落書きが書き込まれていた。マジックで書いても簡単に消して書き直せるその壁面を
使って、いつしか上村ら5人はたわいのない雑談をするようになった。しかし、カタカナの男の落書きの内容は次第にエスカレートしていき…。
とまあ、まず目を引くのはトイレの壁のタイルを使った文通というアイディア。つーか、匿名で日頃の自分を隠して書きたい放題…って、これ
まんまBBSじゃん、と脱帽。お互い顔を知らない間柄という今時な設定と、学校には欠かせないトイレの怪談というマッチングが楽しい。
そして登場人物たちが皆すっとぼけていて素敵。物語の語り部たる主人公の語り口の軽快さもヒロイン?の宮下昌子も親友の東も皆いい
キャラ。そしてH.N(マジックで書いてるんだからP.Nか)V3にちょっと胸が熱くなっちまいましたよ。
○乙一「失踪HOLIDAY」 ★★★★★
STORY:一人暮らしを始めた”ぼく”は、前の住人が殺されて、家財道具が置きっぱなしの一軒家を借りることになった。が、そこには先住者が
いた。前の住人が飼っていた子猫だ。さらに、その飼い主、雪村サキも幽霊になって住み着いていたのだ…。 「幸せは子猫のかたち」
14歳の冬休み、”わたし”は義父とその再婚相手の住む、誰も血の繋がっている家族がいない家を飛び出した。が、すぐ戻ってきた。しかし、
あまり心配されていないようだったので、使用人のクニコの部屋に居座って、誘拐を偽って脅迫状を出したのだが…。 「失踪HOLIDAY」
ふう、面白かったあ。幸せじゃ。
…今更ながら、自分は一人称の青春小説にめっぽう弱いことが発覚。なんだろうなあ、貧しい青春時代を送ってしまった反動なのかのう。
短編「幸せは猫のかたち」はその後ろ向き加減に激しくシンパシーを覚える”ぼく”と子猫とその飼い主の幽霊の不思議な生活を描いた
小品。
なんとも奇妙な、幽霊と暮らす風景。そして明かされる殺人事件の真相、そして別れ。うううううううう、切ねえ!!!10代の頃に読んだらたぶん
号泣してたであろう。
まあ今となっては、そんな奇跡のような日々など起こる由もなく過ぎ去ってしまった遠い日を回顧して複雑な心境になってしまったわけだが。
そして表題作「失踪HOLIDAY」は、それと比べると切なくもほろ苦くもなく、話自体も冷静に言ってしまえば「なんてはた迷惑な!」で片づけ
られてしまうような作品かもしないが…いや、もう、これは断じてそういうわけではないのである、という楽しい一品。
主人公の14歳の少女・”わたし”のハチャメチャぶりが実に楽しい。相棒となるノッポでトロいクニコさんもユーモラスな父親も、実に暖かい人
たちばかりでうれしくなってしまう。「ドカベン プロ野球編」とか読んでドス黒くなった心が洗われていくのが自分でもわかるぜ。
田中哲弥や火浦巧を彷彿とさせるあとがきの語り口の軽快さも楽しいし、いよいよもってツボ。さあ、次読むぞ!
○乙一「きみにしか聞こえない−CALLING YOU−」 ★★★★
STORY:同級生とうまく話を合わせられない、携帯電話など持っても掛けてくる相手がいない、内気な高校生の”わたし”は、いつしか頭の中で
理想の携帯電話を妄想し始める。ところがある日、実在しない頭の中の携帯電話が頭の中で鳴りだした…。 「CALLING YOU」
最低な父親のせいで暴力的に育った”オレ”は特殊学級に入れられたが、そこで転校生のアサトと出会った。内気で無垢な心を持つアサトは、
他人の傷を自分の体に移し替える不思議な力を持っていた。そして逆に自分の傷を誰かに移すこともできた…。 「傷 −KIZ/KIDS−」
事故で、連れ合いと、これから生まれてくるはずだった子供を失い、傷ついて入院中の”私”。希望を失っていた私はある日、病院の裏の森で
ハミングする少女の頭を咲かせた小さな植物を見つける。その歌声は私や病室の仲間たちの心を癒していったが…。 「華歌」
ふうう。今作もえがった。幸せ。
”せつなさの達人”なる微妙な異名をつけられている乙さん(おっさんではない)、今回の短編集も切なさ炸裂で、30近いおっさんの乙さん
読者も、仕事の休憩中にページをめくりながら瞳をウルウルさせがちであったことですよ。
脱線するが、一度だけ職場で休憩中に小説を読んで号泣してしまったことがあったわけで。
「グイン・サーガ 67巻 風の挽歌」がそのタイトル。
ギネスブックにも載っている世界最長のこの小説の、第一歩目、第一巻で交わされた約束が、作中で約5年、現実の時間にして20年の時
(途中から読み始めた自分にとっても、丸10年が経過していた)を経て、ついに果たされて、あまりの感動で目から水があふれ出して
止まらなくなってしまった。うれし泣きの一種だな。あの時ばかりは、途中中ダレもあったけれど我慢して読んでてよかったと感無量だった。
ちなみにたまたま入ってきた同僚に目撃されてビビらせてしまった。
脱線終わり。
表題作「CALLING YOU」は例によって主人公が極めて後ろ向きな性格。しかも、頭の中で携帯電話をリアルに妄想してしまう辺りはさすが
に痛々しさを感じてしまったが、同じような境遇の男子から電話が掛かってきてしまう甘酸っぱい展開から、落涙ものの最後までは実にいい流れ。
そう、いい故に切ねえ。
話が優等生すぎて、故意に切なくなるように仕組んであるんだからあざとい、という意見もあるだろうが、今の世の中、故意に仕組んでそういった
話を作れる人自体多くないわけで。小説と映画とズレるが、映画版「黄泉がえり」とかそんなダメな例がゴロゴロしてるわけで。
「傷 −KIZ/KIDS−」。この短編集では一番のツボ。
短気だけど純粋という乙一の話としては珍しい主人公と、内気だけど無垢なそりゃもう天使のようなアサトという、小学校高学年の二人の硝子の
少年のお話。つーかこれはもう羽住都氏の挿し絵が神々しくてショタ魂所有者は鼻息荒くなること必至。グレイト!
内容はその純粋さ故に(文字通り)傷ついていく少年たちの切ねえ話で、綺麗なハッピーエンドで本ッッッ当によかった。
ラストの「華歌」は青春とは外れた、ちょっと毛色が違う話。無論切ないわけだが。
挿し絵はもちろん綺麗なのだが、人面植物というある意味薄気味悪い(笑)設定や、要となる”歌”が文章だけではちょっと想像しきれないこと、
最後のちょっとしたどんでん返しがさほど効果的ではなかったこと(あれだけ挿し絵でガンガン描いときながら…)などで若干低評価。まあ元々が
高水準なのだが。構成とかほんまうまいわー。
さて次行ってみよー!
○乙一「さみしさの周波数」 ★★★
STORY:”僕”と清水は近所同士だったが、別段親しいわけでもなかった。小学校高学年の頃、近所に古寺という変わり者が転校してきた。
彼は”未来予報”を告げた。「お前たち二人、どちらかが死ななければ、いつか結婚するぜ」 「未来予報 あした、晴れればいい。」
”俺”は時計のデザイナーをやっている。資金に困った俺は、映画のロケを見に近くの旅館に泊まりに来た金持ちの伯母から盗もうと考えた。
深夜、外から壁に穴を開けて、押し入れに突っ込んだ俺の左手がつかんだものは、若い女性の右手だった…。 「手を握る泥棒の話」
”私”は大学の映研の部室で、封印された8ミリフィルムを見てしまいました。そこに映っていたのはトンネルの中に後ろ向きで立つ少女でした。
そして、二回目にフィルムを見たとき、少女の向きが少し変わっていたのです。こちらを振り向こうとするかのように…。 「フィルムの中の少女」
”自分”は交通事故で全身麻痺となった。五感をすべて失い、唯一残っている感覚は右腕の肘から下の触覚だけ。動かせるのは右手の人差し
指だけ。音楽教師だった妻は献身的に私を看病してくれた。そして数年が過ぎ…。 「失はれた物語」
うーん、今回はちょっと肌に合わず。
切ないだけでやり切れない話ばかりというか。
「手を握る泥棒の話」はまあまあ面白かった。
そうすると一番面白かったのはあとがきか…。
○乙一「暗いところで待ち合わせ」 ★★★★★
STORY:本間ミチルは事故で視力を失い、保険金で一人静かに暮らしている。家のそばの駅で人身事故があってから、彼女はかすかに家の
中で人の気配を感じるようになった。侵入していたのは大石アキヒロ、駅で起きた殺人事件の容疑者。職場での人間関係に悩んだ末の事件
だった。ミチルは身の安全のため彼の存在に気づかぬようにふるまう。だが、アキヒロは事故を起こしそうになった彼女をつい助けてしまい…。
乙一なのに長編、乙一なのに三人称しかも主人公が二人、と少しとまどいながら読み始めたのだが、読み進めていけば主人公は二人そろって
例によってダウナー系だったので安心して読めた(笑)
盲目の妙齢の女性が家の中で感じる謎の気配というサスペンスと、殺人事件の隠された真相というミステリに、いつもの切なさ成分を加えて煮
込んだ結果、いつもの如く後ろ向きな青少年たちの成長物語となったわけだで、さほど斬新さとかはないのだが清々しいので万事オーケイ。
「たぶんこうなるだろう」という大まかな予想とさほど違わずに話は進んでいくが、それでもミチルが意を決して外に出るシーンには震えた。
上手いッス。
ラスト近辺の「そこが空いてますよ」というセリフがすっとぼけていてえらくツボに入った。
○西尾維新「クビキリサイクル」 ★★★★★
STORY:大富豪・赤神イリアに招かれた天才技術屋・玖渚友の付添人として孤島の豪邸にやって来た凡人の”ぼく”。島には他に、天才画家と
その付添人、天才料理人、天才占術師、天才科学者、メイド長と3つ子のメイド、合計12人がいた。そして天才画家・伊吹かなみが密室で首を
切られて殺され、その第一容疑者の天才科学者・園山赤音も同じく密室で同じく首なし死体で発見された…。
乙一の青春ミステリにハマッているところにもう一撃強烈なのをもらってしまった。
去年のメフィスト賞受賞作を書いたこの作家もまた若干20歳。
若さ故の屈折感が気持ちいい素敵な一人称青春ミステリ(ただし血まみれ死体だらけ)。
最大の特徴はそのマンガ的あるいはティーンズ小説的な(=リアリティの薄い)奇天烈なキャラたち。最近めっきり”ふじみふぁんたじあ”とか
”かどかわすにーかー”とか読まなくなってしまったので、その柔らかい文体に、最初は読んでいて頭痛が起きそうになったが、慣れてしまえば
それもまたよい味。
登場人物は皆強烈に猛烈なキャラ立ちっぷりだが、中でもその屈折して鬱血したダメ人間マインドが親近感を誘う(そんなのばっかり読んでる
なあ)主人公の”虚言遣い”いーくんと、その相棒すなわちヒロインの、天才故に社会不適応者な、一人称「僕様ちゃん」の玖渚”青色
サヴァン”友(くなぎさ・ゆう)がいい感じ。「さんくー」って、…かわええなあ。
つーか謎だらけな設定がこの話だけではまるで解き明かされてないというのが続編を期待させまくりで、うーんイケズ。
脇キャラでは無口な眼鏡メイドさんにしてその正体は…なてる子さんがイカス!イカサー!!イカセスト!!!
で、これだけ設定がマンガマンガしているのにトリックは実にしっかりしているのがまたうれしい。さて2巻目買わねば!
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