▽’04年2月
○津村巧「DOOMSDAY−審判の夜−」(講談社ノベルス) ★★★
STORY:アメリカの平穏な田舎町・フラートンに元SEAL(海軍特殊部隊)隊員で”少女レイプ魔”で刑務所に送られた経歴を持つコウイチ=
ハヤシが引っ越してきた翌日の夜、町は異星人の襲撃を受けた。巨大な二体の宇宙人は町をバリアで外界から隔離し、レーザー光線銃で住民
を殺戮し始める。事態を知り駆けつけた軍がバリアを破れないでいる中、ハヤシは隣人たちと生き残るための闘いを始めるが…。
第22回メフィスト賞受賞作。ちょうど佐藤友哉と西尾維新の間ですな。で、表4の紹介文にはっきり”SF”と書いてあるのだが、メフィスト賞って
そんな賞だったっけ?(笑)
アメリカの田舎町がエイリアンの侵略を受け、バリアで逃げ場を失った町民たちはどんどん狩られていき、君は生き残ることができる
か?というサバイバルな話で、感触としては多種多様な登場人物が死に駆り立てられていくという点で高見広春「バトルロワイアル」に近い
がそれよりも、絶対的強者による一撃で犠牲者の地位も栄誉も夢も哀しみも過去も現在も未来も失われていくという積み重ねは手塚一郎
「ワードナの逆襲」を思い出すかも。
かように宇宙人(「グイン・サーガ」のカナンを蹂躙した宇宙人に似ている)は強力なのだが、武器はレーザー銃オンリーなため殺し方がワン
パターンなのが惜しい。一瞬で焼き殺されるだけでなく叩かれたり斬られたり潰されたりするともっと盛り上がると思うのだが。加えてやたらに頭
を吹き飛ばされて死亡というパターンばかりで、教師RIKIでなくても「みなさん死に様に個性がありませーん!」と苦言を労したくなる。
また、殺される人たちが皆典型的な田舎の白人といった偏見的な書かれ方をしているので揃いも揃って魅力的でないのも惜しい。前述した
2つのジェノサイド小説の死者たちは魅力的な人間たちだったからこそその死が切なく痛ましく、話も盛り上がり印象に残っているわけで。
とはいえ、べらぼうな住民の殺されっぷりはなかなか楽しい。(まさに外道!)
主人公の、一見弱そうな小柄な日系人だが実は元特殊部隊のハヤシは(唯一)なかなか魅力的なキャラクター。
アメリカで”エイリアン”いうたら不法移民のことなのね、へえ。(6へえ)
○西尾維新「零崎双識の人間試験」(講談社ノベルス) ★★★★★
STORY:”殺し名”の第3位に名を連ねる”零崎一賊”の長男にして特攻隊長、”二十番目の地獄”零崎双識は行方不明の弟・人識を捜す旅の
途中、突如ナイフで襲ってきた級友を一突きで返り討ちに遭わせた女子高生・無桐伊織と出会う。彼女は零崎=殺人鬼たる性質を生来持ち
合わせていたのだ。その二人を”殺し名”第1位・匂宮の分家・早蕨家の兄弟が急襲する。彼らは人識に妹を殺され、復讐に燃えていたのだ。
戯言シリーズ番外編。描かれるは”戯言使い”にして”欠陥製品”たる本伝の主人公の待遇・”人間失格”零崎人識と彼のファミリー・零崎
”一賊”。
戯言を垂れる語り部がいないため話はスムーズに進むのがちょっと新鮮。
内容はミステリではなく、伝奇アクションだなあ。あるいは「ジョジョ」か。殺人鬼の集団である零崎一賊と殺し屋集団の早蕨兄弟の死闘の話。
そこに”死者の深紅”を筆頭に、”人喰い”やら”策師”やら危険人物ばかり加わった結果全編そりゃもう血みどろの話に。
主人公は人識の兄・双識。金子一馬がデザインしたような風貌。初めて闘う薙刀使いに苦戦したり”人類最強”にボコられたり貧乏クジ。
ヒロインは零崎になりかけている(「ガンパレ」の”芝村になる”、芝村”一族”と同じ使い方やね)女子高生・無桐伊織。かわいいのだが、
萌えキャラはいたたまれない目に遭わされるの法則が適用される。作者は鬼畜ですかそうですね。
○栗本薫「グイン・サーガ93 熱砂の放浪者」(ハヤカワ文庫) ★★★★
STORY:こちら。
今回のタイトルを見て、17巻「三人の放浪者」を思い出してしまったわけだが、↓のムックを見たら17巻の発売は奇しくもちょうど20年前の
2月。これもまたヤーンの紡ぐ糸なのか…。
92巻はグインとアモンが古代機械によりいずこともなく転送されてしまうというモーレツな引きで、喉から手が出るほど待望した2ヶ月後の新刊
がナリスが主人公のしょーもない外伝で発狂しそうになって更に2ヶ月、ようやっと続きが出ましたよ。
しかもノスフェラスに飛ばされたグインがグラチウス・ロカンドラスと”グル・ヌー”に眠る”星船”の謎を解きに行くなんて鼻血噴き出しそうなときめく
話で、一気に読破してまた2ヶ月悶絶して暮らさねばならんのかトホホ。
ここに来てグインが核融合炉搭載のロボット説浮上で爆笑。
○「グイン・サーガ PERFECT BOOK」(宝島社) ★★★
何故かこの時期に何故か宝島社から出た「グイン・サーガ」のムック。つーかなんで「僕たちの好きなグイン・サーガ」じゃないんだ?
まあ、同社のこの手の本なんで、広く浅く薄っぺらく紹介されている初心者向けの本っつーか結局買うのは部屋の本棚丸々一つ「グイン」
に占拠されているような人なんで縁起物程度の位置づけかと。
見所は栗本薫インタビューと、グイン50巻記念ミュージカル「炎の群像」の台本。
後者はグインの豹頭とマッスルぶりはリアルでは表現不可能なため、主人公抜きで書かれた本編序盤(16巻まで)のミュージカル。
ああ、なるほどうまくまとめてあるなあ。フロリーとかカースロンとかランとか出てるし。…アストリアスは死ぬけど(笑)
○舞城王太郎「世界は密室でできている」(講談社ノベルス) ★★★★★
STORY:福井県西暁町。12歳の僕こと西村友紀夫とルンババこと番場潤二郎の前で、ルンババの姉の涼ちゃんが家の屋根から飛び降りて
死んだ。それから3年して修学旅行で上京した僕たちはひょんなことから埼玉在住の井上ツバキ・エノキの美人なれど変わり者姉妹と知り合いに
なり、奇妙な密室殺人事件に巻き込まれる。名探偵ルンババの名推理で事件は解決したかのように見えたが…。
舞城王太郎の「奈津川家サーガ」のスピンアウト作品。主人公の親友の名探偵ルンババ12は奈津川三郎の友人にして彼のミステリ作品
の登場人物。この作品のルンババは時系列的に後者っぽいがそれでも違和感があるので、名前だけ借りたパラレルな話かと。
さておき、名探偵たるルンババの前に立ちふさがるのは(この本が”密室本”という企画だっただけに)密室殺人事件のつるべ撃ち。これがまた
例によって例の如く良識溢れるミステリ好き読者が読んだら怒りで頭の血管がブチブチ30本くらいまとめて切れて憤怒の形相のまま植物
人間になっちまうじゃないかという出鱈目でイカレてイカシたトリックばかりで…大好きだ!
それにしても、隣り合った4つの密室を4コママンガに見立てて猟奇的に死体を転がすなんてこと考えるなんて悪魔かこの人は?…大好き
だ!
ま、この人の本をすでに2冊も読んでいれば理路整然なミステリなんて期待してないと思うので。
畳み込むようなテンポよい文章は健在だが、今作は主人公たちが10代ということもあり、実に熱血青春友情ラブコメディwith死体ゴロゴロ
となっており、しかもバイオレンス色は前2作よりやや少な目で初心者でも読みやすくなっている。
ラストは照れてしまうほどブルースプリングだが…大好きだ!!!
「何たるアンチクライマックス。まあいいわ。おっしゃー!」
○舞城王太郎「暗闇の中で子供」(講談社ノベルス) ★★★★
STORY:福井県西暁町で起きた連続主婦殴打生き埋め事件を奈津川四郎が解決してから少し後、四郎の兄・三郎は、美少女が春前の田んぼ
にマネキンを何体も埋めている異様な光景を目撃する。少女をつけて目にしたのは、前回の事件の現場を記したあの地図だった。一方、四郎も
別な男が別口から事件の続きを実行しているのに気づく。かくして再び西暁町と奈津川ファミリーに血と暴力の嵐が吹き荒れ始める…。
大傑作「煙か土か食い物」に続く奈津川家サーガ第2弾。
相も変わらずあまりにも破壊的で加虐的で衝動的で感情的で絶望的で野心的な文章がマシンガンの如く吐き出されて読み手はただただ
防戦追いつかず好き放題打ちのめされるばかり。だがそれが楽しい気持ちいい、おおマゾヒスティック!
今回の主人公は前作のヒーロー・四郎の兄で、奈津川兄弟の中ではもっともダメ人間な三郎。彼もまた四郎と同じく奈津川のバイオレンスな血が
流れるが故に苦悩しており、そんな彼の魂の救済を描く物語である。
なんて嘘くせえ解説文だが、そこはそれ本文中にもこんなことが書いてあるし。”ある種の真実は、嘘でしか語れないのだ”
前作に輪を掛けて、起こる事件は奇想天外に、犯人は滅茶苦茶に、話自体もハチャメチャに突き進んでいき、もうあからさまにおかしい
箇所とかあるのだがそんなことは些細に思えてしまえるトチ狂ったテンションの作品である、グレイト!
なんか読書中に警察にアルコール検査やられたら飲んでなくても思いっきり検出されてしまいそうなそんな酩酊感が得られる。
ところでこの作品全て(あるいは3章以降)は上記のようにハチャメチャすぎるため、実は三郎の書いた小説という説があるのだが、「煙か土か
食い物」を読み返していたら改めてそんな気がしてきた。285頁の四郎のセリフとか読むとね。
○「アルファ・システム・サーガ」(樹想社) ★★★★★
7つの世界の平和と秩序を守るために日夜戦い続ける熊本の”青き”ゲームソフト会社アルファ・システム。その真実の姿を描いた一冊。
「ガンパレード・マーチ」、「式神の城」、「俺の屍を越えてゆけ」といった製作ゲームのディスコグラフィ、”7つの世界”を巡る物語の解説、会社の
沿革といった情報てんこ盛りのファンブック。
中でも、所謂”世界の謎”についてしっかりまとめられているのは必見!これ一冊でガンパレの謎がほぼ解説されてしまっているのです
よ!!!
幻獣の正体とは?何故ヤツらは人類を襲うのか?ヤオトとは?AZANTとは?どうやって新井木勇美は”青の群青”ニーギ・ゴージャス
ブルーとなったのか?5月11日の後の5121小隊の面々はどうなったのか?
………狂ったように「ガンパレ」をプレイして、狂ったように公式のBBSで世界の謎ハンターたちの活躍を見守ったのはもうずいぶんと遠い日の
こととなってしまい、情熱も薄れ(あのグッズのつるべ打ちとあまりにもゲームからかけ離れたアニメ化、「式神の城」あたりから顕著に臭いだした
”世界の謎”で金を儲けようというロマンのなさ、なんてことが重なっていって…)、謎も設定もだいぶ忘れてしまっていたが、なんか焼けぼっくいに
火がついた感じ。久方ぶりに「ガンパレ」を起動したくなった。それが世界の選択である?
それにしてもPCエンジンの「ファイティング・ストリート」とか「NO・RI・KO」とか「キアイダン00」までもアルファの製作だとは…。
▽’04年1月
○「ファウスト Vol.1」(講談社) ★★★★
今世紀に入ってからのメフィスト賞受賞者の中でも特に人気の高い三人の作品をフィーチャーして作られた雑誌創刊号。
各作家とイラストレイターのコラボ、それぞれに合ったフォントの使用、一人編集など野心的な作り。
福井・西暁町。修羅場に巻き込まれた俺は頭にプラスドライバーを突き刺された。それがアンテナになり、俺は別な世界を見ていた…僕は東京
の中学生で異星人と闘う英雄だった。彼女の角を頭の穴に差し込まれるのが好きだった…。 舞城王太郎「ドリル・ホール・イン・マイ・ブレイン」
北海道の田舎町。19歳でフリーターの僕は、かつてそうなることを恐れていた「肉のカタマリ」になっていた。中学生の頃、僕にはミナミ君という
仲間がいた。閉塞した町でただ年を重ね生き腐れていくのを恐れた僕たちは、世界に主張しようとしたが…。 佐藤友哉「赤色のモスコミュール」
ぼくは供犠創貴。世界征服を目論む10歳。佐賀県在住。奇妙な事件を目撃したぼくは、”城門”の向こう、長崎県から父親探しにやって来た
魔法使い・水倉りすかに相談を持ちかけた。その事件には明らかに魔法を用いた痕跡があったからだ。 西尾維新「新本格魔法少女りすか」
夏。街角で美少女と偶然出会って一目惚れしたオレは、彼女の家らしい中華料理店で昼飯を食べていた。ところが突然謎の爆発が起き、オレ
たちは店内に閉じこめられてしまう。しかも客の一人は気が触れたおばはんで包丁を振りかざし暴れ出した! 飯野賢治「ロスタイム」
舞城作品は相変わらずの破壊力。脳やら股間やら色々な所がイタ気持ち悪くなる話だがグイグイ引き込む勢いと熱気はある。★★★★
佐藤作品は後ろ向きな話。かつて汚れなき少年時代に、こうなったら生きていたくないと思っていた堕落した愚図になってしまったのに
結局死ねずにしかし現状を打破できずにただ生き長らえている男の話。他人事じゃないが改めて指摘されるまでもない話。★★★
西尾作品は魔女っ子もの。例によって何やら屈折した主人公の少年とカプコンの西村キヌ描くところの華奢な魔法少女の10歳コンビが
初々しくていい感じ。それだけに変身後のイラストはムホッ!て感じで萎えるぞ。相変わらずライトノベル路線。だが、それがいい。★★★★
まだ生きていたのかしかもこんな所で何をしているイノケン作品はなかなかに楽しいスラプスティック。ただ、楽しいの地点までで終わって
いて読後に残るものがないのがセミプロの悲しさか。ここまでならオイラだって書けるんだよなあ、きっと…たぶん…もしかしたら…。★★★
他の読み物の中では、なんかこう同世代感直撃の「滝本竜彦のぐるぐる人生相談」と、「佐藤友哉の人生・相談」あたりが面白かった。
ちなみに後者は「佐藤友哉が読者の人生の悩み事の相談に乗る」のではなく「読者が佐藤友哉の人生の悩み事の相談に乗る」企画なので
注意(笑)とりあえず「ソープへ行け!」
まあこの不景気な世の中なので数号で潰れそうな気がするがどこまで突っ走れるか?
○京極夏彦「本朝妖怪盛衰録 豆腐小僧双六道中ふりだし」(講談社) ★★★★★
STORY:時は幕末、江戸。豆腐小僧は流行の黄表紙本に描かれた妖怪である。剽軽な風貌で、紅葉豆腐の乗った盆を両手にに頂いている。
…気がつくと、豆腐小僧は廃屋の中にいた。逢い引きをしていた男が雰囲気の不気味さに、「まるで豆腐小僧でもいそうだ」と思った瞬間、
湧いてしまったのだ。湧いたはいいが自分のアイデンティティーもレゾンテートルもよくわからない小僧は不安なままにふらふらと旅に出るが…。
日本三大妖怪博士の一人、直木賞作家・京極夏彦が送る妖怪物語。といっても怪談ではない。つーかコメディだったりする。
主人公の妖怪は豆腐小僧。表紙を見ればわかる通り、これがまたボンクラな小僧で、あまりのダメダメぶりに頭痛を覚えてしまいそうになるが
裏腹にページをめくる手は止まらないという感じで。地の文のツッコミがテンポよくて実に楽しい。
そんなスットコドッコイな妖怪の珍道中を通して、「妖怪とは何ぞや?」という解釈を素晴らしくわかりやすく教えてくれるナイスなテキストで
ある。
かつ物語としても非常に面白く、クライマックスにそれまでに小僧が出会ってきた妖怪が集結する百鬼夜行な展開はお見事。傑作!
○京極夏彦「後巷説百物語」(角川書店) ★★★★★
STORY:明治の世になり10年ほど後。東京で巡査をしている剣之進は妖怪がらみの怪事件に遭遇し、友人の与次郎らに意見を求めるが埒が
開かず、近所の物知りの老人・一白翁の元を尋ねる。若い頃に全国を旅して妖怪の話を収集していたという老人は、若者たちにかつて彼が立ち
会った事件について語り出す。「御行奉為−」小股潜りの又一らと過ごした懐かしき日々の物語を…。
「巷説百物語」第三弾。今回は前作の最後でちらりと触れられていた大事件の話かと思いきや、舞台を数十年後に移すという大変化球。
明治の御代に起きた怪事件と一白翁=山岡百介の回想が複雑に絡み合い事実の陰に隠された真実がいくつも現れる構造は見事なれど、
回想の中でしか又一と愉快な仲間たちが活躍できないのがいささか物足りない。
しかーし!それを補って余りありすぎる展開が。
「青鷺」という話では信州の山奥で不思議な体験をした公家の由良卿なんて人が登場。おおっ、京極堂シリーズの「陰摩羅鬼の瑕」とリンク
した!と驚いた直後、さらに「狂骨の夢」とまでリンク!なんとあの邪教徒を煽動したのはこの人だったとは…。
また、最終話では「鉄鼠の檻」の登場人物の先祖まで登場するという大盤振る舞い。こういうのは大好き。
これでほとんどの作品は繋がったわけか。「ルー・ガルー」は流石に無理だが。「どすこい(仮)」はもっと無理だが。
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