◆読書忘備録



▽過去

▽’03年9月


○山田悠介「親指さがし」 
STORY:7年前、小学生だった武は友人たちと、幼なじみの由美から”親指さがし”の話を聞いた。夢の中に建つ洋館で、バラバラ殺人された
女性の親指を探すというその遊びをした結果、彼らが目覚めた時、由美は行方不明になっていた。そして現在、由美を忘れられない武は事件の
調査を始め、夢の中の洋館とバラバラ殺人が実在したという事実を知り、友人たちとそこへ向かうが、それは新たな恐怖の幕開けだった…。



’02年、日本中を震撼させたっつーか愕然とさせたっつーか呆然とさせたっつーか激怒させたっつーか、とにかく各所に話題を振りまいた
「リアル鬼ごっこ」の作者が早くも放つ長編第3作。…間にもう一冊出てたのか。

「リアル鬼ごっこ」はある意味素晴らしかった。「ひょっとしてオレでも作家になれるんじゃないか?」と全国の作家志望予備軍に強い希望を
与えたという点で。あるいは、「死にぞこないの青」ではないが、「世の中にはこんな(検閲)で(削除)な人もいるんだからオレも頑張ろう!」と全国
の疲れ気味の人々の心を癒したという点で。…誉めすぎ?
さておき、「リアル鬼ごっこ」の最大のウリはやはり、
1ページ読むだけでどっと疲れる規格外の文章力であろう。(トレーシングペーパー並
の薄さを誇る荒唐無稽な設定
というのも捨てがたいが)例えるならば未舗装のジャリだらけの山道をママチャリで全力走破させられている
ような読感
は、ちょっと狙って書けるものではなかった。もっとわかりやすく書けば、中学生程度の文章力。…誉めすぎ?

しかし今作「親指さがし」ではそのある意味最大の魅力であった文章力が失われてしまっているのである。これは、何作も書いてレベルアップ
したためなのか、あるいは出版が今までと異なり一応まっとうな会社(幻冬社)なんで、会社の名誉のために編集者が推敲したのか
従って、後に残されたのはペラペラの三文小説。特に中盤以降はつまらん展開つまらん事件つまらん人物描写つまらん山場つまらん真相と

つまるところが存在しないという風通しの良すぎる状態で、立ち読みでも一時間しないで読み終えてしまった。「リング」をはじめありきたりな
有名ホラーの二番煎じ。
救えない


○乙一「死にぞこないの青」 ★★★
STORY:マサオは小学生。5年生になり、担任は新任の羽田になった。若い羽田はたちまちクラスの人気者となるが、些細なことから次第に
求心力を失っていく。焦った彼は、要領の良くないマサオをクラスのガス抜き役としてしまう。悪いことは全てマサオのせいにされ、先生とクラスは
マサオを蔑むことにより団結力を持つことに成功する。ただ一人報われないマサオは苦悶するが、ある日彼の前に異形の少年が現れて…。



乙一初長編。初めて幻冬社と仕事をするに当たって、「なんでも好きなのを書いて下さい」と言われて書いてしまったダークな一品
人によっては受け付けられないであろうイヤーな作品。黒い、黒いよ乙さん!
かように”のび太”のような存在は社会円満を生み出す潤滑油、不可欠な存在なのである。弱い者たちが夕暮れ、さらに弱い者を叩くのである。
そんな風にして世界は今日も回り続けているのである。
故に我らは愚図の”のび太”を軽んじ蔑みながらも感謝して生活せねばならない。それが嫌ならば”のび太”の代わりに底辺に回るがいい。綺麗
事をぬかすな偽善者め。
さておき、この作品を読んで事件の元凶である新人教師に腹を立てる読者は多いであろうが、教師なんてそんなもんでしょう。時代設定的に、
教育学部を出ればたいていのボンクラは教師になれた頃の話だし。



○乙一「平面いぬ。」 ★★★★
STORY:”わたし”が住む地方の山には、見た者を石に変えてしまう妖怪・石ノ目の伝承があった。かつてその山中で消息を絶った母を偲んで
登山に来たわたしと同僚のNは遭難してしまい、石ノ目に助けられる。わたしはNの怪我が癒えるまで石ノ目の家で過ごすことに…。 
「石ノ目」

小学生だった”私”と木園は、いたずら好きの”はじめ”という少女の話をでっちあげた。いつしか彼女の噂は広がっていった。ある日、私たちは
町の迷路じみた下水道で存在しないはずのはじめと遭遇し、仲良くなった。彼女の姿は私たち二人だけにしか見えなかった…。 
「はじめ」

不思議な骨董品屋に売られていた意志を持ち動ける5体のぬいぐるみは、ウェンディの誕生日プレゼントとして彼女の家にやって来た。王子と
王女と騎士と白馬と、余り布で作られた不格好な”ブルー”。かわいらしい彼らは新しい持ち主を喜ばせた。”ブルー”を除いて…。 
「BLUE」

”わたし”は不思議な中国人に、かわいい青い犬のタトゥーを彫ってもらった。ところが、この犬が吠えてわたしの皮膚の上を動き出したから驚き
だ。わたしは彼をポッキーと名付けて飼うことにした。しばらくして、両親と弟−わたしの家族全員が癌で余命半年だと知らされた。 
「平面いぬ。」


ハードカバー版の表題作だった「石ノ目」お得意のせつないホラー無論どんでん返しアリ
「はじめ」は前にジャンプに小畑健作画で載ったことがあったっけ。主人公たちにしか見えない架空のわんぱく少女、迷宮じみた町の下水道、
長編にできそうなネタで少しもったいないボリューム。
無論せつねえ
「BLUE」
問答無用にせつなすぎ。寓話寓話しすぎているが。
すっとぼけたキャラたちのシリアスながらもすっとぼけた話が心地よいのが「平面いぬ。」。家族揃ってガンにかかるとか、黒い設定だがそこは
それ軽快な語り口がオブラートでなあ。



○西尾維新「クビシメロマンチスト」 ★★★★★
STORY:あの島の事件から少し経ち、”ぼく”は平凡な大学生活を送っていた。クラスメイトの葵井巫女子に強引に誘われ、同じくクラスメイトの
江本ともえの誕生会に出席した日、ぼくは世を騒がしている連続殺人鬼に襲われる。だが、彼−人間失格・零崎人識は、ぼくと本質的に同じ
人間だった。鏡の向こう側同士すっかり意気投合してしまったぼくたち。その数日後、ぼくは彼と関係なく殺人事件に巻き込まれることに…。



傍観者たることを願うダウナー系のいーくん(あるいは、いっくん)を主人公とする”戯言遣い”シリーズ第2作
前作は周囲が天才=奇人変人ばかりだったのでさして目立たなかったがやはりいっくんもかなりの変人で、その
内心のダークさが強烈
しかし話は「だけどあたしは、そんないっくんのことが、大好きです」なんて
センチメンタルでリリカルでスットコドッコイなので救われている
というかタチが悪いというかなおさらエグいというか…。
前作は不真面目そうな外見に反して意外にしっかりした推理小説だったのだが、今作のそっち方面はちょっと…。つーわけでまんま
キャラ萌え
小説ミステリ風味
として読むべきかと。”人類最強”なんて肩書きの人とか出るしなあ。
今作ではヒロインばりの活躍をする
葵井巫女子(あおいい・みここ)タンがかわええ
「中学二年生にしてバンド結成、ただしメンバー全員ベース」とか「素人探偵浅黄蝉丸、密室殺人事件を即座に解決、ただし犯人現行犯」とか
訳の分からん例えの乱発が楽しすぎる。


例のダイイング・メッセージは蒼のサヴァンが言った通り、実際に紙に書いて鏡に映してみて確認。日付なわけね。


○乙一「GOTH リストカット事件」 ★★★★★
STORY:一見普通の高校生に見える”僕”とクラスメートの森野夕(こちらはあまり普通に見えない)は、猟奇殺人や拷問といった人間の暗黒
部分に魅かれてしまう人種、”GOTH”である。それ故か僕たちは連続猟奇殺人犯の手帳を拾ったり、連続手首切断魔と出会ったり、連続犬
誘拐犯の真相に迫ったり、森野の過去の秘密を追ったり、生き埋め事件に巻き込まれたりするのだが…。



ゴスである。ゴズではない。(くどい)
乙一である。しかも、いわゆる
”黒乙一”の方だ。なので猟奇殺人犯と惨殺死体がゴロゴロ出てくる。しかし相変わらずサクッと読めて面白い。
ねじ曲がった主人公二人の造形が絶妙で、毒気をおかしな方向に逸らしているのがよいのであろう。
狂気を閉じこめたクールな観察者の”僕”と、ヒロインたる、
暗〜いキャラなのにどこかズレたすっとぼけ感が萌えをそそってやまない(笑)
暗黒美少女・森野夕
の残酷なコンビが出くわす6つの事件を描いた連作短編集。各種ミステリー小説の賞を席巻。

角川スニーカー系のいわゆる切なさ炸裂の”白乙一”作品でもあっと驚くどんでん返しを作品ごとに仕掛けているが、今作はミステリーという
ジャンルなわけで、
水を得た魚のように全話どんでん返しが炸裂する。つーかそれ無しでも十分面白いのでいささかサービス過多に思えて
しまうほどに。
第3話「犬」の最後のどんでん返しなんて確かに見事すぎるが、なくても話自体は困らないしなあ。主人公の妹の桜タンと犬嫌いが発覚した夕
タンが萌え萌えなんでそれだけですでに満足だし(笑)


扱っている題材が猟奇殺人でそれに関わる主人公たちのスタンスがちと特殊なので、万人にお勧めはできない。自分には良識が欠けている、
と自覚がある人にはオススメ



○梶尾真治「ドグマ・マ=グロ」 ★★★
STORY:横嶋県の私立培尾総合病院は戦中は軍の研究施設として使われており、そのためか怪談話には事欠かなかった。新米看護婦の
由井美果が厳格な婦長と過ごす初めての夜勤に不安を覚えていたその夜、事件は起こった。正体不明の怪物、謎の武装した侵入者、死の淵を
彷徨う大物右翼運動家、顔無し軍人の亡霊、霊能力をもった入院患者の老婆…地獄と化した病院の中で、美果は再び朝を迎えられるのか?



映画「黄泉がえり」が大した出来でもないのに大ヒットしたおかげで復刻・文庫化されたホラー長編。つーか「黄泉がえり」で感動してその原作
者の本だからと手に取った人に
こんなグチョグチョでヌトヌトなものを読ませてどうしたいのか?(笑)

タイトルからわかる通り、この物語は夢野久作のかの「ドグラ・マグラ」へのオマージュである。始まり方もまさにアレなのでニヤリ。
ところが中身は別段オマージュではなく、むしろ
夢野久作と顔が似ているH.P.ラブクラフト(巻末収録の解説参照)つーかクトゥルー神話
へのオマージュ
に近かったりする。
そう、クトゥルー神話的異次元の怪物が跳梁跋扈し事件に巻き込まれた哀れな人間たちがグチョグチョでヌトヌトな殺され方をしまくるので
ある。
が、
ホラーとしては及第点をあげがたいくらい恐くない。それというのも、登場人物が皆スッとぼけているからでありまして。

スラプスティックでなかなかに楽しく読める。B級ホラー映画を見ている気分で



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