「しましまに濡れて」誕生記  (第8回 白鳥省吾賞 受賞者「エドワード ユウダイ」氏の紹介)


 エドワード ユウダイ氏(本名 エドワード ユウダイ 21歳)はハワイに生まれの日系4世、3歳から16歳まで日本で育っている。彼は英語を勉強するために父のいるアメリカに渡った。現在ウイリアム&メアリー大学 (リンカーンの卒業した大学)に在籍し、米国公認会計士をめざしておられる。

 ユーダイ氏が詩を書き始めたのは、日本にいた中学生の頃からという。アメリカに渡った後も詩を書き続けている。近頃は友人の誕生日などに、私家版の詩集をプレゼントしておられるという。詩を書くことが大好きな青年である。

 受賞作「しましまに濡れて」は反戦詩である。自身も反戦デモに参加しておられるという。その誕生について以下のようにお話された。

 「9.11事件(アメリカ同時多発事件)の死者の数を、イラク戦争で戦死した兵隊の数が超えているという現実。にもかかわらず、二万人規模の増兵を打ち出したブッシュ大統領。こうした混乱しているアメリカの現状を憂える思いから、 この詩のモチーフができた。

 中東で戦死した 下層軍人 は、生まれ故郷に葬られることなく、皆、このアーリントン墓地に葬られる。彼等が望んだわけでもないのに、機械的に整然と葬られていく。そのために、墓地が手狭になってきたので、拡張するという。ある日 、知人も反戦デモの後、しましまに濡れた路上に投げ出されたプラカードのように、亡骸となって帰って来た。

 人間は殺す権利も、殺される権利もないはずなのに、戦争は否応なしに殺人を合法化している。私はそういう政治の一部には、絶対なりたくない。そういう思いからこの詩が生まれました。」

 前回の受賞作も反戦詩であったが、白鳥省吾は我が国の代表的反戦詩人でもある。大正7年『詩歌』3月号に発表した「殺戮の殿堂」は、現在話題になっている「靖国神社」境内の「遊就館」を喩えたタイトルで、日本の反戦詩の中でも代表作品とされているものである。

 エドワード ユウダイ氏は白鳥省吾が反戦詩人であることに驚いておられたが、自身は今後も反戦詩を書き続けたいと述べておられた。今後の活躍に期待したい。

 * 上写真は白鳥省吾賞表彰式にて。

 

 以下に最優秀賞受賞作「しましまに濡れて」を紹介する。


     「しましまに濡れて」

一昨日のデモ行進を受けて
町はいっそう静かに冷たく感じられる
破れたプラカードの残骸を
夜露がしましまに濡らした
ぼくの暮らす住宅地のアーリントンには
毎月のように新しい亡骸が送られてくる
九・一一以降の闘争で死んだ
下層軍人の骨が中東から移送されるのだ
この町の出身者でもないのに
なぜか

きみはついに政治の一部になったのか

デモ行進は闘争の早期撤退と
この町を縦横に押し広げる十字架型の
新しい墓地拡充の反対を理由に行われた
行進者は代わりに十字架型の花畑を作った
植えられた花の気持ちになって
ぼくは思い出している
真夜中の公園で
まっすぐに投げ込まれる
硬く大きなバスケットボールのことを
なぜか

きみはそのボールで何かを象徴できたのか

じつは一昨夜ぼくも行進に参加したのだ
デモを何かの連携プレーとして
勘違いしている参列者と
時間を置いて
きわめて個人的な葬列をした
公園を同じ時間に通り過ぎたときに
きみはきみの見えにくい左目から
投げるスローインの難しさを語った
それをきみの死因と決めざるをえなかった
なぜか

きみはぼくに無言で逝ってしまったからだ

 

* 詩はホームページの都合上縦書きのものを横書きにしております。


 

 

* 左写真は栗原市長に受賞の祝福を受けるエドワード・ユーダイ氏。

 

* 表彰式の様子はここをクリックしてください。

* 本文は「第8回白鳥省吾賞表彰式」時の口述筆記を元に作成しました。

* 文責は「白鳥省吾を研究する会」事務局にあります。

 

 

 

 

 


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