「火を入れる」誕生記  (第12回 白鳥省吾賞 受賞者「おおむらたかじ」氏の紹介)


 おおむら たかじ(本名 上野 健夫 68歳)氏は第12回白鳥省吾賞最優秀賞「 火を入れる」誕生秘話を以下のように話された。

  本当は誕生記などと言う様な大仰なことではないのですが・・・。母を亡くして七年経った頃、母に思いを寄せて次のような詩を書きました。

 

   畑打ちしてたらな                                         

   鍬にカチっと当たってな

   つまみあげたら、

   ほら、これ。

   おめえにやる

 

                おふくろが小学生だったオレに手渡した古銭。  

                『以十六換一両』と浮き彫りにされたそれ。

                十六を以って一両と換える

                と自らを名乗らず控えめな一朱銀。

                縦一センチ五ミリ、横一センチ、五グラムにもならぬ。

                      ・・・略

                長岡藩の苛斂誅求に呻いた村だ

                炭焼き小屋で一揆を謀ったこともある

                そんな時代を秘めた小さな魂。

                受け取るのが早すぎたおふくろの遺品。

                     「以十六換一両」詩人会議・08・8月号

 これは今も私が大事に持つ、小さな古銭のことを書いたものです。炭焼き小屋で一揆を謀った、ということを小耳に挟んでいただけでしたから郷土史を紐解いてみたのです。そしたらやっぱりあったのです。学校では誰も教えてはくれませんでしたし、父や母も語ってはくれませんでしたが、途中で断念させられたとはいえ、まぎれもなく、闘い続けた炭一揆の記録があったのです。たくましく笑い転げただろう祖父たちがいたのです。このことを書こうと思いました。父とたった一度だけ盆地の村にそびえ立つ大平山に炭焼にいったことを思い出しながら・・・。

 新潟県は地主県でしたから、戦前は王番田争議、木崎争議など小作争議が頻発しました。そして、山奥の村にも今も清水のように流れ続けるものがあるのです。山がある、木がある田んぼが畑がある、爺さまたちがいる。その火を受け継いで・・・。そんな思いでこの詩を書きました。

 うらみつらみ、被差別、貧困が皮膚の色にまで染み込んでいる、いつの時代も国家というやつは百姓を虐げ続けて・・・鎌を研げ、鍬を振り上げろ、と書け。おめえは浅いなあ、お人好しもいいかげんにせえ、そんな声も聞こえます。だが政治的主観的願望で詩は書けない。しっかりと現実を見据えて、私の真実を書く。そう思うのです。 


 プロフィール

  おおむら たかじ(本名 上野 健夫 68 歳)氏、1942年 新潟県長岡生まれ

 新潟県の県立高校に勤務、2003年に定年退職 詩人会議会員

 詩集 『村』、『海を見に行く』、『いちごによせて』、『みお詩抄』、『とんぼ又は希望』、『村の地図』

 近年の受賞暦

 平成16年・にいがた市民文学賞(随筆)

 平成18年・現代詩加美未来賞、第16回加美未来賞・加美ロータリー賞

 平成20年第18回伊東静雄賞奨励賞

 

 以下に最優秀賞受賞作「火を入れる」を紹介する


       「火を入れる」   

 松が鳴る

  蓬々と風が吹く

 そろそろ来るか、雪の予感

 

 楢の切株に腰を下ろし

 ペッ、と梅干しの種を吐く

 おお、さみい、寒いなあ

 飯は食うたし

 さて、火を付けるか

 

 これでお仕舞えだ、最後の炭焼きだ

 村で炭焼きを始めたのはいつのことだったか

 ともかく食えなかったんだな、炭焼いてもな

 爺さまがよう話してたど

 炭一揆、剛毅だったご先祖のこと

 

 長岡藩栃尾組炭村、飢饉続きで乞食暮らし

 苛斂誅求にたえかねて

 文政十三年(一八三〇年)、秋

 食える炭焼き保障せえと

 筵旗を振った

 ほら貝を吹き鳴らした

 黒い足が走った、峠へ

 長岡の町見下ろして、男たちが蛮声を上げた

 いざ、城下へ、長岡城下へ

 

 けどよ、庄屋と横目が煩く付き纏い

 ほろほろ抜け帰る奴もいて、ついに退散

 顔に炭塗り真っ黒け

 山に散れ、口を開けるな、喋っちゃならぬ

 

 へへへっ、おめえだれだ

 

 アッハハハ、八十二歳の繁蔵が笑う

 オレだって村一番の炭焼きだ

 隣村から嫁も来た

 

 さあ火ィ、入れんど

 

* 詩はホームページの都合上縦書きのものを横書きにしております。 原文にはひらがながふられておりますが、ホームページの都合上割愛しました。

 * 本人の申し出により、本文中の敬称は省略してあります。


 

 

* 左写真は審査委員の佐々木洋一氏と談笑するおおむらたかじ氏。

* 文責は「白鳥省吾を研究する会」事務局にあります。

* 表彰式の様子はここをクリックしてください。

 

 

 

*宮城県詩人会会長で 第一回から「白鳥省吾賞」の選考委員であった今入惇氏が2月に逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。


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