「 訛る田んぼアート  (第21回 白鳥省吾賞 受賞者 照井 良平氏の紹介)


 照井 良平(てるいりょうへい)氏は第21回白鳥省吾賞最優秀賞「訛る田んぼアート」誕生秘話を以下のように話された。

 

 ホホー 「訛る田んぼアート」だってぇ。なんともいいごどだねぁ。「うんうん、訛ってる。訛っている」。かなり訛っている。

 そっ、そこなんだでば。受賞作品「訛る田んぼアート」は訛ってなければダメなんでがぁんす。成り上がった訛りの訛りではなく、本物の訛りでなけ;ればなんねぁんでがぁんす。そんであればおら達も納得できっかす。作品が実っこをつける条件っこといえば、そこなんでがぁんすよ。本当に訛っていなければいけないんでがぁんす。今日は、少し、訛りすぎだべがー。ごめんなはりぁんせや。

 と、どっかからともなく農業を営んでいる方々の声が聞こえてくるようです。と、言いたいんです。でなければ、農業をやっている私と同じ年代の方々に申し訳なくて… …。

 私の周りの同級生や知人で農業の後を継いだ人たちがほとんど訛ったままだがらです。訛りが自然の田畑と交信する標準語なんです。そんなわけです。

 日々のなかで、例えば、稲苗を植えたばかりの水鏡の田んぼに雲が映り、それもイワシ雲だったり、錦雲であったり、そこにそよそよと、そよ風が吹けば小波が立ち、太陽が雲に小話をかけてみたりするとか。そんな田んぼの見回りの畦道で田んぼの主が、ふと足を止め、ふむふむと山を眺め。栗駒なら栗駒の山々でしょうか。眺めて、「あぁ、今日もうんまい空気を吸わせてもらったなぁ」と、その雄大さに自然の深さに土地の訛りが心から慕い、心から癒やされる。

 そんなこんなの姿をそこに住む道行く町の人達が見つめて、またしてもふむふむとする支えを無意識のうちに見つけ、身につける。また、すぐそばの校庭で跳ねたり駆けたりしている子供たちがいれば、子供たちにとっては見ようとしなくても、そこに黙っていても見せてくれる風景、人と自然との関わり合い方があるから、心に心が見たふるさとへの愛情が刻まれていく。そこから、ふるさとを愛するようになっていく。だからですから訛っていないといけないんです。と思うのです。

 何気ない日常の中の自然の憲法から背中に訛り判を刻印されている。そんな誇りのようなものが刻まれ、自信のようなものが持てるようになってくる。それが訛りのように思われる。と感ずるからです。

 そうした環境の中で育ち、磨かれた感性を持つように至ったのが「民衆詩派」と言われる白鳥省吾先生であろうと思うのです。/中略/

  私は岩手県の陸前高田市の「奇跡の一本松」から歩いて30分位の小さな漁港の半農半漁の煤けた家で育ちました。田んぼに素足で入ってヒルに血を吸われたこと、「かっこ船」の櫓をアワビなどの「くちあき」の解禁日に漕いだこともあります。一次産業の手伝いをしていたこの頃に使った訛る気仙弁が私の標準語です。

 「ドンナ」ときにもこれが支えです。そんな、気仙弁で書いた稲作文化の「訛る田んぼアート」が受賞されたことはとんでもなく嬉しいことで、ありがたく感謝しているところであります。

 特にも、新型コロナウイルス禍で益々地方に住みたいと願う時。「民衆詩派」の思想が重要な位置を占めるものと思います。

 

★ プロフィール

  1946.6 岩手県陸前高田市にて出生、現在花巻市在住

★ 受賞歴

  1975.10 花巻市民芸術祭最優秀賞芸術祭賞受賞/1982.10 岩手県芸術祭優秀賞受賞

  2011.10 「第26回国民文化祭・京都2011現代詩フェスティバル最優秀賞文部科学大臣賞」受賞

  2012.4 花巻市「花巻芸術文化協会表彰」受賞/2013.2 花巻市「活力あるまちづくり表彰」受賞

  2013.5 第一詩集『ガレキのことばで語れ』「第41回壺井繁治賞」受賞 

  2015.10 岩手芸術祭最優秀芸術祭賞受賞/岩手県民文芸作品集優秀賞受賞

  2020.1 岩手日報「新年文芸」一席入選

  他に種々の詩朗読会に出演している

★ 活動

  花巻詩人クラブ会長、岩手県詩人クラブ会長、月間詩誌『詩人会議』全国運営委員

  日本現代詩人会会員、日本現代詩歌文学館振興会評議委員

 

 ホームページの都合上管理人が勝手に/中略/を入れましたご了承願います

  以下に最優秀賞受賞作「 訛る田んぼアート」を紹介 します。編集の都合上、すべて横書きにしています

 ( )内はふりがなを示しています


【最優秀賞】 「 訛る田んぼアート」照井良平

ホホウ   なるほどねぇ
これが田んぼアートって美ですか
なんとも見ごたえのある色艶だごど
自信に満ちた誇(ほご)りを放っている
やっぱり古代の精が稲に宿っているんだねぇ
   素朴で純粋な水っこを吸って
   ひたすら田舎(いなが)の大気の中(なが)っこを
   カントリーサイドカルチャーを詠(うだ)ってね
   自然の意識のある国っこだけに育つ
   健康な心根を持った稲っこの美   なんだ
とケルトの妖精
アート爺さんが言っていだごどを
ふむふむ   と思いだす
   そしてブラウンライスは玄米(げんめぁ)
   この田んぼアートは種の進化の絵展
   サブタイトルは
   ライスヒストリーってなぁ
   稲作文化の歴史だ
などと訛った英語(えぁご)で得意げに言っていだ

だから   ほんだから
根も葉もなぐ誇(ほご)りを放っていたわけじゃねぇ
赤葉のべにあそびなどは
ほれ   色っこの目に見えねぁ奥(おぐ)がら
   祖先は紫稲Bと奥羽観383号の燈だと
   生まれる前(めぁ)の明滅する名札っこがら
   すでに紅の光っこを貰っている
とでも言いたげだ
ほら   こっちのあの風に揺れる穂波では
稲作文化のサワサワ音が聞こえるべぇ
アート爺さん曰ぐ
   その時その時代の稲っこ
   洒落た波の粒子   波動の会話だと

ホ   ホホウ   そうだったんでがんすかど
洗心に響く金波を発していだったんですか
と   ホホウ   ホホウする霊鳥が
田んぼを旋回していた

 表彰式の様子はここをクリックしてください。


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