「 千年桜  (第20回 白鳥省吾賞 受賞者 みうら ひろこ氏の紹介)


 みうら ひろこ 氏は第20回白鳥省吾賞最優秀賞「千年桜」誕生秘話を以下のように話された。

 

私は福島県浪江町から原発避難しております。原子力発電所の立地町でなかった浪江町は、東京電力(東電)からは、何の情報も伝えられず、立地町民は東電が手配したバスでまとまって避難することが出来、それが現在まで強いしこりとなっております。浪江町民二万一千人は、着の身着のままでバラバラに避難、遠くの縁者を頼って、北海道、沖縄に避難した人もおります。

 夫はその時の心労で体調を崩しました。二度目の避難先の福島市で書いた夫の作品は、翌年第十三回の白鳥省吾賞の優秀賞に選ばれ、授賞式の案内が届いたのは四度目の避難先の、相馬市の借り上げ住宅ででした。私はそれまで、白鳥省吾なる人物のことも知らず、夫が応募していたことも知りませんでした。

 夫の代理で、当時小学三年生の男孫と、近所に住んでいたやはり避難してきた方の車で、初めて栗原市を訪れ、白鳥省吾記念館に参りましたのは、七年前の雪が降った日でありました。まだブルーシートで覆われた建物が見受けられ、大地震の爪痕が生々しい印象でした。あの日、代理で受賞式に臨んだ時、私は自分の作品で認められ、再び白鳥省吾記念館に来たいと強く思いました。

 毎年応募をつづけ、十二月にはノミネートされたという電話をいただいてはおりましたが、受賞までには至りませんでした。やっと念願の賞、それも最優秀賞の知らせがあった時は、車を運転中で道路の横に車を止めて嬉しい知らせを拝受致しました。

 選んでいただきまして、本当にありがとうございました。今回も高校一年生になった孫と共に新幹線で訪れた二度目の栗原市は、町並みも整い、復興が進んでいると感じました。孫というのは外孫で、私共の一人娘夫婦が事故死したため、震災一年前から養育しているのです。避難所では、夫の母、孫そして私共四人とシーズ犬で身を寄せ、夫は犬と車の中での生活もしました。一家に一つのメロンパンを四分の一づつ分け合って食べた苦労の味を忘れさせたくなく、混乱した状況の中でも、孫の祖父母が書いて残すことにより、これからの孫の人生に何らかのものを感じとり、生きてほしいと願い、二度も授賞式には同行してもらいました。

 彼はスポーツ系なので、ジジ、ババのように文学に目覚めるかどうかはわかりません。審査員の先生方には、身に余るおほめの言葉をいただきました。これからも「核災」被害者の立場から、福島県の四重苦(地震、津波、原発事故、風評被害)を、私なりに消化させて書き続けようと思っております。長い間、世の営みや人の旅を見つめてきた千年桜は福島県三春町の「瀧桜」です。桜に独り語りをさせた私の作品は、二十回の最高賞をいただきました。これからも「白鳥省吾賞」に恥じないような作品を書いてゆきます。

*「核災」・・・南相馬市の詩人若松丈太郎氏の造語

★ 出版その他

  第9詩集「豹」(2007年)にて福島県文学賞正賞/第3回永瀬清子現代詩賞入選(2018)

  詩集「コンペイ糖の星」「海の狐」「遠くの日常」「ユビキタス」「豹」「渚の午後」など10冊。

  以下に最優秀賞受賞作「 千年桜」を紹介 します。編集の都合上、すべて横書きにしています。


【最優秀賞】 「 千年桜」/みうら ひろこ

私はいつこの地に根づいたのだろう
私が幾多の戦火をくぐりぬけ
酷暑や風雪に耐えぬいているとき
こんな声を聞いたような気がする
   負けるな力強く根を張り大きくなれよ
それからこんな声もかけられた気がする
   美しい花を咲かせ、人々に勇気と希望を与
   えておくれ
私がずうっと後の世まで生き延びることが出
来たのは
こんな祈りを託されてきたからではないのか
 

いつの世にも苦しみや悲しみがあった
そしていつの世の人も私に希望を持ち祈った
人の一生を旅にたとえるのなら
たかだか百年にも満たない旅に
私は変ることのない姿でここに在りつづけ
旅する人の一生を見つづけてきた
私の円周二十キロ圏内には
私の子孫が私と同じ花を付けているらしい
小鳥が私の実を喰み
体外へ排出する範囲が二十キロ圏内であるこ
とを、歩いて調べた人がいた
小鳥にとって生きぬくための飛翔の世界
小さな命の旅を終えるとき
そこに祈りの若い木が育っていることを
知っているだろうか
 

私の老いた枝々に副え木や支柱が施こされ
私の老体は支えられている
いつの御世であっても
私はここに在り愛でられ希望の樹として
あとどの位ここで人の祈りを受け止めること
が出来るだろう
私に癒やしを求め爛漫と咲く花の季節に
私に会いに来てくれる人々の
平和への祈りの心が波動のように私を包み
笑いさんざめく数多の人々に応えるため
恰(あたか)も滝が流れ落ちるような枝の端々まで
私は花を咲かせつづけたいと願っている

 表彰式の様子はここをクリックしてください。


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