「青いカナリア」誕生記  (第14回 白鳥省吾賞 受賞者 五藤 悦子氏の紹介)


 詩村 あかね(本名 五藤 悦子)氏は第14回白鳥省吾賞最優秀賞「 青いカナリア」誕生秘話を以下のように話された。

 「うさぎ」という作品で、第12回白鳥省吾賞優秀賞を頂き、栗原にご招待頂いたのが2011年2月の終わりでした。

 その表彰式から二週間ほど経ってあの大震災が起き、度々旅行で訪れた美しい東北の港町の風景が、無残にも一変してしまいました。同時に福島第一原発事故が起こり、その影響は東北の皆さんだけでなく、日本中や近隣の国々を震撼させました。

 私が原発事故で一番残念に思ったのは、政府や電力会社、原子力の専門家たちが、事故直後から事実を隠ぺいしていたことです。かつて、日本史の授業で知った戦時中の政府や軍の情報操作を垣間見るような、そんな恐怖さえ感じました。 

 事故後、降った雨が、集中的に放射線量の高い場所を作り、その実態が次第にあらわになりました。福島から二〇〇キロ離れた、私の住む町でも、雨の影響で放射線量の高い場所が何か所か見つかり、土が入れ替えられました。

 でも、実際に雨にあたった人たちには本当のことは知らされず、人びとは雨にあたった我が身を悔い、子供を外に出してしまったことを後悔し続けています。

  何年か時が経って、自分の健康や子供たちの体に不安が起きれば、あの雨にあたってしまったからではないかと、辛い記憶は繰り返し人々を苦しめることになるかもしれません。

 東北の人たちにエールを送るつもりで書いた詩でしたが、いつの間にか、東北の方の気持ちに寄り添うだけの言葉になってしまいました。私はまったくの無力ですが、「お気持ち、よくわかります、私は忘れませんから」と、作品を通じて東北の方々にお伝えしたかったのです。 

 私の作品に登場する「カナリア」ですが、探知機など無い時代、炭坑の坑道をいく人々に有毒ガスの発生をいち早く知らせたのがカナリアだそうです。いわば、カナリアは信頼のシンボルです。そのカナリアの籠を捧げ持って、人を救うために危険地帯を歩いていくのも人です。人は人にしか救えないと、この大災害を経験して痛感しました。

 作品とは関係のない話もさせて頂きましたが、この作品を書いたときに、ひたすら心の中にうち響いていたのは、「人は人にしか救えない」という言葉でした。数々の歴史的な困難、災害にも打ち勝っていらした東北の方々のしなやかな強さと優しさを想う時、震撼して凍りついた私の心に、一条の(あか)りがともります。

 いずれ、美しい東北は蘇ると信じられます。私に出来る事をしながら、それを見守らせて頂きたいと思っております。 


 プロフィール

・ペンネーム:詩村あかね(うたむら あかね)埼玉県越谷市在住 主婦

  受賞暦

・東急百貨店主催「詩のコンクール」最優秀賞(1990年)

・第16回「詩とメルヘン賞(サンリオ文化賞)」(1990年)

・平成17年度「現代詩・加美未来賞」(2005年)

・第3回「さいたま文芸家協会賞」(2005年)

・第9回「サトウハチロー記念賞」特別賞(2005年)

・第7回「白鳥省吾賞」優秀賞(2006年)

・平成18年度「現代詩・加美未来賞」(2006年)

・第102回「長崎コスモス文学賞」新人賞奨励賞(2007年)

・「野田宇太郎賞」一席(2009年)

・第41回「埼玉文学賞」詩部門正賞(2010年)

・第12回「白鳥省吾賞」優秀賞(2011年)

・第14回「白鳥省吾賞」最優秀賞(2013)

詩集『風が運べないものたちへ』(サンリオ)

詩集『新体詩嬢のあられもないバレンタイン』(紫陽社)他

【読書サービス活動】

・1997年〜1998年米国サンフランシスコに居住。その際に米国のすすんだ読書サービスに触発され、帰国後の1999年より、子供と本のより良い関係を考える会、「子どもと本の会・MOMO」を立ち上げ、母親向けにブックトークを開催

・その後、小学校にて読み聞かせ、2007年より、子どもへの読書サービスを目指すボランティアの方々に向けた「読み聞かせ講座」、小学校の先生方を対象にした「読書サービス講座」、母親向けの「児童書講座」などを開催。

・2011年11月 足立区中央児童館にて「親子おはなし会」

【おもな朗読活動】

・2010年年5月23日、東京都世田谷区「キッドアイラックホール」にて自作朗読会(詩人・平岡淳子氏と共演)

・2010年年8月1日、長野県上田市「信濃デッサン館」にて自作朗読会(詩人・平岡淳子氏と共演、トークに作家の窪島誠一郎氏)

・2010年年9月15日、東京都足立区栗島住区センターにて朗読会

・2010年年10月27日、越谷市の社共・敬老会(ふれあいサロン)にて朗読会

・2010年年12月 越谷市にて朗読会『UTA♪物語』を開催

・2011年年7月 声楽家・田口太美さんの「七夕コンサート」に出演(於:足立区のわたなべ音楽堂) 他

・2012年年5月より、東京足立区「わたなべ音楽堂」にて月に一度「おはなしサロン」開催

 * 写真は表彰式の様子 

以下に最優秀賞受賞作「青いカナリア」を紹介する


 青いカナリア       

 

 旅人の傘は 雨の遠景にゆらいで

 私たちを何故か 不安にさせた

 あの大きな地鳴りを聞いた夜

 遠くからやってきた青色の傘

 叩きつける雨が 舞上げた土埃には

 あの恐ろしい核種が混じっていたというのに

 私たちは胸いっぱいに 雨の匂いを幾度も吸

 い込んで それでも私たちは

 青い傘から差し出される 温かく濡れた掌を

 待った

 でも、いつまでも傘は近づいてこない

 暗闇の奥に妖しく光ながら

 見守るような 見届けるような

 不穏な眼差しを傘越しに向けていた

 人は人を信じるしかない

 人に信じられた記憶で 人は真実を待つ

 断たれた安全地帯に

 音もなく核種が降るのを

 青く濡れた傘は 遮ってくれるはずだった

 旅人の傘に入って

 私たちはどこまでも逃れていけるはずだった

 傘の記憶は 私たちの細胞に かなしく刻まれる

 私たちの六〇兆個の細胞は 分裂のたびに

 悲鳴をあげて

 寄る辺なく 死滅してゆく

 雨が降るたびに 街は形を失っていった

 

 私たちがあの日 傘だと思ったのは

 青いカナリアだった

 核種が降り積もる街の手前で

 濡れながら啼き続けるカナリアだった

 雨が上がって 夜が明けると

 ぬかるんだ大地で

 落鳥したカナリアヲ見つけた

 青い汚点のような カナリアの周りには

 水たまりが 偽物の青空を

 いくつも映していた

 

 表彰式の様子はここをクリックしてください。


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