「 野道にて  (第19回 白鳥省吾賞 受賞者 髙橋 英司氏の紹介)


 髙橋 英司(たかはし えいじ)氏は第19回白鳥省吾賞最優秀賞「 野道にて」誕生秘話を以下のように話された。

 

 このたびは、白鳥省吾賞を受賞しまして、甚だ光栄に思っております。

 受賞作「野道にて」のモチーフは、定年退職後、毎日畑に出ている生活経験に基づいております。

 零細ではありますが、サクランボを栽培しております。剪定、芽かき、摘果、消毒、収穫、たった一人で作業をしています。

 特別なことは何もありません。そういう場で、ささやかに生きているという感慨だけです。

 わずかに射す木漏れ日を受けて、下草のように生きているという実感です。木漏れ日は希望です。

 勤め人だったころは、時間が生活の基準でしたが、今は、天候や季節感の変化による場がベースであると感じています。

 また、表現の水準について、長年詩を書いていても、どれほどのものが書けているのか、全く自信がありません。

 若いころ、商業誌に投稿していたことを思い出して、同じように挑戦してみようと思いました。

 スポーツ選手でなくても、日ごろのトレーニングが重要であると考えました。トレーニングの成果が受賞につながったのだと思います。

★ プロフィール

  昭和26年、山形県西村山郡河北町生まれ。山形大学卒業後、高校教員になる。定年退職後、サクランボとリンゴの栽培に従事。

  20歳の時から詩作を始め、「詩学」「ユリイカ」等に投稿。詩学研究会出身者らの「WHO’S」や地元山形の「季刊恒星」などの同人雑誌に作品を発表。

  現在は、詩誌「山形詩人」で編集を担当、群馬から出ている「第二次詩的現代」に参加している。 

★ 出版その他

  詩集に「出発」(1977年 詩学社)/「日課」(1979年 紫陽社)/「一日の終わり」(1995年 スタジオ・ワン)/「ネクタイ男とマネキン女」など7冊。

  近著にエッセイ集「詩のぐるり」がある。

★ 活動

 日本現代詩人会会員、山形県詩人会会長。

 以下に最優秀賞受賞作「野道にて」を紹介 します。編集の都合上、すべて横書きにしています。


【最優秀賞】 「 野道にて」髙橋 英司

 

屈託を感じたら
野に出てみることだ
特別なことは何もないけれど
号令に従うように
雨上がりの草がぴんと背筋を伸ばし
どやしつけるように風が吹きつけ
水たまりには山が映っている

退屈な一日だったら
空を見ることだ
首をぐるりとめぐらして
大パノラマをわがものにすることだ
特別なことは何も起きないけれど
海のような青には底がなくて
はるか彼方に無限の宇宙があるだけだ

勤め人だったころ
車窓から書き割りのような景色を眺め
流れにゆだねて時を過ごして来た
特別な幸福も不幸もなかったけれど
規則に従い自然の掟のままに
草が繁り 枯れ 土に還るように
そのつど息を吹き返して来た

野道をぐんぐん歩いて行って
林の中に入ろう
ぶんぶん虻が飛んで来て
梢では百舌がぎゃあぎゃあ啼いていて
特別なことは何もないけれど
湿った地面からは土の匂いがする
木漏れ日がわずかに射して下草が光っている

 

 表彰式の様子はここをクリックしてください。


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