静かで

冷たくて

寂しくて

悲しい



永久の森



森の形状をしているものの、森ではない。
木も草も花も足元の土も、全て透明だった。
何もかもが透けて見える、あるのに無いかのような錯覚すら覚える。
どこまでもどこまでも続いている。
陽も殆ど指してはいないようで、月明かり程度だ。
ここはどこ?
僕の知らないところ。
さっきからずっと歩いているけれど、どこに向かって歩いているのかも分からない。
ここがどこだかも分からないのだから当然だ。
たまに何かに踏み出した爪先が当たるけれど、痛みすらもない。

寂しくて寂しくてたまらないよ。

たまらずぎゅっと瞳を閉じる。
けれど再び移った世界は変わる事はない。


「うわっ!」

歩を進めていた身が硬い何かにブチ当たる。

「壁があるの?」

両手で恐る恐る確かめると、確かにそこには見えない壁がある。
不思議と冷たくは無いが、硬い事は確かだ。
左右上下を見渡したけれど、どこまで続いているのかもさっぱり検討も付かない。

「なんだよこれ…。」

嫌だ嫌だ嫌だ。
こんなところにいたくない。
一人は嫌だ。

恐怖心が湧き上がってくるのに絶えられず、走り出す。
全力で只管走って走って。
パキパキと踏み潰した草花が音を立てて崩れていく。
お構い無しに走って。
息が切れるまで走って。
終わらない景色。

「…っ!」

疲れきった足が縺れて思いっきり転んでしまった。
やっぱり痛みは無いが、衝撃だけは走る。
痛みが無い事はまだ幸いか。
荒くなった呼吸と体勢を立て直しながら、視線を上げる。

「あ…。」

…向こう側に誰かいる。
ゆっくりとこちらへと近付いて来るその人は

「ブルーッ!!」

壁に張り付いて声を張り上げ思い切り叩く。
間違えるわけなんて無い。
焦がれて焦がれて焦がれ続けるその人。

「ブルーッ!ブルーッ!!ブルーッ!!」

そこにいるのに。
いくら叩いても殴ってもヒビすら入らない。
なんでっ!!

「ジョミー…。」

壁越しにそっと手を当ててくる。
悲しそうで寂しそうで泣き出しそうにも見えて。

「駄目だよジョミー。」

「何がだよっ!!」

「ここは君が来てはいけないトコロだよ。」

どうして来てしまったんだい?

「知らないよそんなコト!」

こっちが聞きたいよ。

「まだここには君は来てはいけない。ここは永久の…ガラスの森だから…。」

「ガラスの森?」


全てガラスで出来ているからガラスの森だってか?
そんなことはどうでも良いから。
触れたい。
あなたに触れたいんだ。
この腕であなたを抱きしめて、確かめて感じたい。
口付けたい。
抱きたい。
あなたが欲しい。


「そっちへ行けないの?どこかに扉はないの?」

「ないよ。ずっといたら迷てしまって帰れなくなる。」

だからもう帰るんだ

「だったらあなたも一緒に帰ろう!」

「駄目だよ。そちらへはもう行けないんだ。扉はこちらからは開かない。」

「扉があるの!?そっちから開かないのならこっちから開けるから!」

扉の場所を教えてよ。
でもあなたは首を静かに振る。

「ないよ。その時にならないと扉は現れないから。」

だから。

「もう帰るんだ、ジョミー。ここに居てはいけない。」

この世界に引きずり込まれてはいけない。
扉も無いのにここへ残ってしまっては、こちらへ来る事すらも出来ない。

「嫌だよ!一人は嫌だ、あなたも一緒に帰ろう。」

「私は帰れない。私の居場所はこちらなんだよ。」

そちらにはもう無いんだ。

「ジョミー、君は一人じゃないだろう?」

分かってるはずだろう。
気付いてるだろう。
その手に触れてくれる、あたたかい人達の事を。
私がそうであったように。
君もその一人だったのだから。

「待っているから。時が巡りいつか君の前に扉が現れるまで。現れたらその扉の前で。」

待ってるよ。
出迎えてあげるから、必ず。

「ずっとずっと待ってるから…。」

だからもうお帰り。

ガラス越しに口付けられる。
何も感じられない。
ただ冷たいだけ。
これじゃ嫌だ。
嫌なのに。

「お帰り…。」

もう夜が明ける。
気付けば薄っすらと陽が差し込み始めている。
姿は見えなくとも、鳥が鳴き羽ばたく音が響いてくる。
朝が巡ってくる。

「大丈夫だよ、ジョミー。」

ああ、ここにいてはいけないんだね…。
だって僕の爪先が消え始めている。
あなたの瞳もそれを物語っている。
この世界から弾き出される。
あるべき世界へと戻っていく。
心のどこかで帰らなきゃいけない事を、分かっているからなのかもね。

「ホントに待っていてくれる?」

「ああ。約束だよ。」

その時は。

「ただいまって、言っちゃうからね。」

「じゃあ私はお帰り、だね。」

帰る場所はあなたの元へとなる。
あなたの隣へ帰っていく。
いつかの至る場所へとなっていく。

なら。
今はこれしか有り得ない。

「いってきます、ブルー」




Fin.


ええ〜永久の森は永久と書いてガラスと読むつもりでした。それとガラスの森はあのガラスの森から来ています〜。