うつむきがち4

 月が変わり衣替えも終わった頃になっても緑間は週一回欠かさず黒子の自宅を訪ねていた。玄関先で対応に当たってくれるのは大概黒子の母親で、毎週申し訳ないと頭を下げられる日もあったが受け取って貰えるだけで十分だ気にしないで欲しいと答えた。

 だって本当にそうなのだからどうしようもない。突き返されず、ありがとうと言ってファイルを手に取ってくれる彼女に頭が下がる思いだ。

「そろそろクリアファイルがなくなってきたな」

 バインダーとクリアファイル、勿論中身も返す必要はないと伝えてあるので無くなったら緑間が補充しなければならない。クリアファイルだけでいいし、数十枚単位で纏まっているのが売っているのでそれを購入すればいい。値段も苦にならない程度なのでおしるこを数本我慢すれば問題なかった。
 行きつけの書店に併設されている文房具店で商品を選んでいると、突然背後から腕を突つかれぎくりと肩が強ばる。平静を装いつつゆっくり体の向きを変えればそこには桃井の姿があり、息を吐いて強張りを解いた。

「桃井か・・・普通に声を掛けてくれ」
「えへへ、びっくりした? みどりん発見したから何してるのかなーって」
「ああ、驚いたのだよ。足りなくなったファイルを買いに来たのだ。お前は・・・」
「じゃーん!これ!」

 目の前に嬉々として掲げられた冊子を目にした緑間は顔が引き吊るのを止められなかった。

 『これを食べれば元気モリモリ!スタミナ料理百選!』何度確かめてもそう表紙に記されている。

「レ、レシピ本か・・・。熱心だな」
「でしょー! 料理の腕前土肝を抜くほど上げちゃうんだから! もっともっと勉強しないとね」
「勉強熱心なのは良いことなのだよ」

 だからせめてレシピ通りに作ってくれと突っ込みたくなったけれど、桃井の何気ない発言に口を噤む。
 誰に度肝を抜いて欲しいのかなんて、きっと愚問だ。直接名前を出しはしないが彼女をよく知る人間ならぴんとくるに違いない。だって該当するのは一人しかいないのだから。

「うん!頑張るんだから。あ、邪魔しちゃったかな。ごめんね」
「いや、大丈夫だ。あとは会計を済ませるだけなのだよ」
「そっか。私も会計してくるね」

 小走りに去る桃井を見送り緑間もカウンターへと向かった。 

「夜になると風がひんやりするね」
「もう十月になるしな。これからは寒くなる一方なのだよ」
「そうだよね〜」

 会計を終えると桃井と並んで歩き出した。まだ日は暮れ始めたばかりでまだまだ明るかったけれど、一人で帰らせるのは心許なかったのだ。

「みどりんは凄いね・・・」
「どうしたのだよ、急に」

 唐突に振られた話題に緑間はきょとんとしてしまう。何の事だと問いかけると寂しそうな顔で桃井は微笑んだ。

「私ね・・・ううん、私もねテツ君を訪ねた時があったの。もちろん会えなかったし、こう、テツ君のお母さんに気の利いた事も上手く言えなくて、ほんとにただ訪ねただけだったの」
「そうだったのか・・・」

 桃井が学校に来なくなった黒子を心配して自宅を訪ねたと言う話は人伝に聞いていた。噂の節も拭えなかったけれど、本人が言うのなら間違いないのだろう。

「一回だけだし・・・。何か出来ることないかなって一生懸命考えたけど、なかなか思い付かなくて・・・。それに何回も行く勇気もないの。情けないよね」
「そんなことはない。訪ねるのだって勇気がいるのだよ。一人で行ったのだろう?」
「うん・・・。だからねみどりんは凄いなって。何度も何度もテツ君のとこに会えなくても通い続けて・・・。授業内容纏めたノート届けてるのだって知ってるよ。私にはとてもマネ出来ないもの」

 それも使うんでしょ、と脇にぶら下げていたクリアファイルの入った書店の袋を指されたので頷いた。そこまで知っているのなら隠す必要はないだろう。

「・・・桃井、お前は俺のことを凄いと言うがお前だってそうだ。誰かの為を思い悩み、考えて行動に移そうとするその姿勢は尊ぶべきだ。それもその一つだろう?」

 今度は逆に緑間が桃井の抱えている書店の袋を指す。

「ありがと、みどりん・・・。みどりんは優しいね」
「優しくなどないのだよ」
「なら!そう言うことにしといてあげるね。あ、ちょっと待っててくれる」

 もうすぐ分かれ道に差し掛かろうという所で、桃井は緑間を置いて小走りに公園内の入り口近くに設置されていた自販機に駆け寄った。少し悩んで缶ジュースを一本購入して戻ってきたかと思えば、空いていた右手に押し付けてくる。落ちそうになって慌てて掴み直した。

「おい、桃井」
「それ買うためにおしるこ控え目にしてるでしょ」
「いや、それは・・・」

 ぐうの音もでない。部活を引退しても相変わらずの情報通のようだ。

「栄養ドリンク作ってあげればいいんだろうけど、今すぐは無理だから代わりにおしるこね! じゃあ私こっちだから!」
「気を付けて帰るのだよ」
「うん。みどりんもね」

 桃井と別れてから手の中のおしるこ缶を見下ろした。暖かい。

「桃井には叶わんな」

 前にも同じような事を呟いた気がする。プルトップに指を掛けたところで背後から桃井に呼ばれ緑間は立ち止まった。

「試作品出来たらみどりんも味見してねー!」

 ばいばいと手を振って帰っていく桃井を見てから先程の台詞を繰り返し、思わず真っ青になった。

「断るに断れないのだよ・・・」

 胃薬の世話になる程度で済むのを願うばかりだ。 

 

 おは朝占いの結果を書いたあとの数行に先日桃井とのやり取りを書こうかとしたけれど、余計なお世話になるかと思い留まり白紙の部分をシャープペンで突ついた。
 桃井がレシピ本を新たに購入し、意気込んでいる。ただそれだけの何気ない日常の一コマなのだが黒子のことだ。何故桃井がそういった行動を取ったのか感づくだろう。
 ため息を吐いてペンから手を離す。
 もっと気軽に黒子に負担が掛からない程度に連絡が出来たらなと思う。週一ではなくせめて数日置きくらいに、返信不要の一行メールでも送れたらと何度も思った。内容はそれこそ良い天気だな、とか占いの結果やラッキーアイテムだけの事務的な感じでだ。
 だけれど電話が繋がらないどころかメールも宛先不明で返ってくる始末だった。緑間を初めとしたキセキの世代やバスケ部員と接触したくないのもあるのだろうなと緑間は肩を落とした。
 話すことなど何もない。それならそれで一向に構いやしないから自分を拒否しないで欲しかった。

「・・・・・・」

 ふと思い付いてペンを持ち直すと、『ラッキーアイテムは週一で知ってもあまり意味がないのだよ。やはり毎朝知ってこそ効果がある』と書き込んだ。毎朝ラッキーアイテムを教えたい、というのを免罪符にした緑間のアドレスだけでも受信可能にしてくれまいかという遠回しな懇願だった。
 占い結果とラッキーアイテム、日付も間違っていないのをもう一度確かめてから新品のクリアファイルに納めた。 

『ラッキーアイテムは週一で知ってもあまり意味がないのだよ。やはり毎朝知ってこそ効果がある』

 いつもは何も書いていない最後のページの最後の行にそれを見つけた黒子はまじまじと凝視してから声にも出して読んでみた。
 毎朝おは朝を視聴しろいう事なのだろうか。今の自分にはラッキーアイテムなど必要ないと、占いコーナーになる前に朝食を終えて部屋に戻っている。緑間は毎週必ず記載して寄越すのでそこだけは流し見程度でも目を通すようにしていた。
 だってあの緑間が自分の為だけにわざわざ調べて書いてくれているのだ。今の黒子にとって週一回の楽しみとなっている。
 もう一度読んでみた。これからは自分で調べろという事なのだろうか。
 ふと思い出してバインダーを開き、ぱらぱらとめくっては占い結果の書いてあるページを探して目を凝らした。

「あった・・・」

 何かを書いてそれ消した形跡がある箇所で手を止める。この時にもこれを書こうとしたのだろうか。

「・・・これは」

 今は週一で自分が教えているけれどそれではあまり意味がない。毎朝定期的に教えたい。だから――。

「連絡を取りたい。と言いたいんでしょうか・・・」

 机の端でほったらかしになっている携帯電話に手を伸ばす。開いてもボタンを押しても画面は真っ暗なままだ。電話番号を変更するのは流石に出来なかったけど、メールアドレスはそれ自体削除してしまったのでもう何も届く事はない。
 外部と、主にバスケ部やキセキの世代との繋がりをただただ断ち切ってしまいたかった。完全には無理だと分かっていたけれど自分が耐えられそうにもなく、衝動的にアドレスを解除して電源を落とし、充電すらしていない。
 きちんと充電して電源を入れたらどうなっている? 着信履歴がいくつ表示されるだろう。電話が掛かることに気付いた面子がここぞとばかりに連絡を寄越したらどう対処する?
 毎日毎日バスケ部に入ってからの三年間を振り返っていた。何かいけなかったのか、どうしたら良かったのかそればっかりを自問自答していたけれど答えは未だに見つからない。
 まだ、無理だ・・・。

「でも緑間君は・・・」

 無音の携帯端末を見つめる。
 唐突に彼なら大丈夫かもしれないと漠然とした考えがよぎった。緑間なら本当に占い結果だけのメールを送ってくるに違いないと。
 彼は嘘が下手だ。思った事は相手にどう取られるかなんて考えずに馬鹿が付くくらいに正直に発言してしまう。紫原のような子供故の残酷さとは種類が違った。
 携帯電話は無理。それ以外の方法で毎日緑間と連絡を取り合うにはどうしたら良いか悩んだ末に、本棚の一番下の段かノートパソコンを引っ張り出した。
 滅多に使わないのでケースにはうっすら誇りが積もっている。それを簡単に払い、本体を出して起動しネット回線に繋がっているのを確認するとメールボックスを開く。
 サイト登録の際に使用するくらいで届いているメールもDMばかりだ。
 新規作成のページを開きそこで又しても手が止まる。

「なんて書けばいいんでしょうか・・・」

 だいたい急にメールを送ったりしたら変に思われないか? 緑間が自分と連絡を取りたがっている、それが自分に良いよう解釈しただけの間違いだったら失笑ものだ。
 キーボードの上の指が空回りする。 

「緑間君、これお返しするわね」

 金曜日の放課後、いつものように黒子の自宅を訪ねて彼の母親に新しいクリアファイルを渡すと代わりにエコバッグを差し出された。受け取って中身を確認すれば今までのクリアファイルがごっそりと入っている。

「溜まってきたし緑間君もないと困るだろうから返して欲しいって、さっき持ってきたのよ」
「ああ・・・そうでしたか」
「本人が渡すのが一番なんだけど、まだ無理だって言うから・・・。ごめんなさいね、お世話になってばかりで」
「いえ、勝手にやっていることですのでお気になさらずに。それでは失礼します」
「気をつけてね」

 まさか返されるとは思っていなかった。ほんの少しの変化が緑間にはとても嬉しかった。
 数歩歩いた位置で足を止め、二階を見上げる。相変わらず姿は見当たらないが、珍しくほんの少し窓が開いていた。ここで大声を張り上げ名を叫んだら顔を出してくれたりしないだろうか。近所迷惑だと怒鳴られても一向に構わない。
 だが緑間の口は閉じられたままだった。そんなことをしたら緩み掛けた窓に頑丈な鍵を何十にも取り付けられてしまうに違いない。
 今の自分にはその時を待つ他ないのだ。前を向いて足を踏み出した。 

 帰宅して夕食を済ませた後、自室に戻るとエコバッグからクリアファイルの束を取り出した。確かに今まで渡してきた物が枚数分間違いなく入っている。
 取り忘れのルーズリーフがないか一つ一つ確認していると、緑色のファイルにメモ用紙のような紙切れが挟まっているのを見つけ、摘み出した。

「・・・!!」

 メモにはメールアドレスと、『よければどうぞ』とだけ書かれている。しかも間違いなく黒子の字でだ。
 携帯電話のアドレス帳にある黒子のアドレスとは別のものなので、おそらくパソコンの方のアドレスだろう。

「黒子に通じたのだな・・・」

 何を言いたいのか万が一の確率くらいで通じればそれでいい。通じなくても構わない。そんな心づもりで記した文だったけれど、黒子はそれを読みとってくれたのだ。
 嬉しい。それに尽きた。
 すぐさまアドレス帳の黒子の欄に書き加え、念のためパソコンにも記憶する。メモ帳も捨てずに保管した。
 翌朝から緑間は黒子にメールを送り始めた。散々迷ってタイトルにその日の日付を入れ、本文に挨拶を一言、次の行からおは朝占いの結果とラッキーアイテム、それだけではあっさり過ぎるかと今日の天気を付け足す。
 いつか一言で構わないから返ってきて欲しい。そう願いつつ送信ボタンを押し、宛先不明で戻ってこないのを見届けて画面を閉じた。 

 黒子は黒子でまさか本当にメールが送られてくるとはと、面食らいつつも意味は合っていた事にほっとした。
 家に閉じこもっている自分にはあまり必要がないのにと、文末の今日の天気に目を細める。もっと窓の外を見ろと言いたいのだろうか。

「優しすぎますよ、緑間君」

 返信するか迷ったけれど何を書いても変な気がして、結局書かずにノートパソコンを閉じた。

「思い付いたときにきっと送りますから・・・」

 その日から毎日パソコンを開くようになった。毎朝同じ時間帯に送られてくるので朝食後に読んでいる。
 淡々としたメールだったけれど最後の一文字まで目を通して専用フォルダに保存していた。
 日課であり唯一の楽しみにもなった緑間からのメールは黒子に僅かばかりの変化をもたらしていく。 
 今日は天気予報外れましたね、雷が鳴ってますよ。今日は本当に一日良い天気でしたね。と就寝前に窓を部屋の開けて呟くようになった。
 換気以外で自ら窓を開けたのは閉じ籠もってから初めてだった。 

 黒子に一方通行なメール交換を送り続けて数週間経過した頃、流石の緑間も単調な文章を毎日打つのに飽きてきてしまった。何の変化もないのだ。きっと受け取る黒子もそうに違いない。
 これではよろしくないと悩みに悩んだ末、本日の天気のあとにもう少し付け加えた。

『自販機でおしるこを買おうとしたらコーラっ茶なる物が出てきた。緑茶とコーラを混ぜるなど外道なのだよ』

 我ながら下らない内容だと思ったが、他に上手いこと思い付かなかったので緑間はそのまま送信ボタンを押してしまった。 

「コーラっ茶ですか・・・」

 今までは必要最低限の内容しか書かれていないメールばかりだったのに心境の変化でもあったのかと、受け取った黒子は面食らっていた。
 そろそろそんなメールに緑間は飽きてきたのだろうか。黒子の方は目を通すだけなのだが、作成する側はそうでもないのかもしれない。
 なんだか緑間に負担ばかり掛けている気がしてならない。黒子からは何も返していないから余計にそう感じてしまうのかもしれない。

「・・・・・・」

 キーボードの上で指をさまよわせ一文字打っては消してを繰り返す。ありがとう、は出来るならばいつの日か直接伝えたかったので省き、『コーラっ茶とかスゴく不味そうです。なんでもかんでもコラボすれば良いってもんじゃないと思います』と書いた。 
 突然返信したりして不快に思ったりしないだろうか。いや、緑間ならきっと大丈夫だ。

「じゃあ誰なら大丈夫じゃないんでしょうね・・・」

 ずぶずぶと底に沈んでいってしまいそうな感情を頭を軽く振って追い払う。気分転換にと読みかけのハードカバーに手を伸ばす。それがとっくに返却期限の切れた、図書館から借りた本だというのに黒子が気が付いたのは数日後だった。
 

 黒子から短文とはいえ返信が届いた事に緑間は仰天した。知らぬ間に返事を催促するような文章になっていたのだろうか。
 本音としては嬉しい、まさか返ってくるとは思わなかった。でも実際は開くのに躊躇してしまい何度も携帯電話を閉じたり開いたりしている。
 黒子からなんならかの反応があったのはメールアドレスをこっそり教えて貰った時だけだったし、アドレスだけの簡素なものだった。
 今度は明確な返信だ。黒子は何を思って文字を打ったのだろう。平凡な内容かもしれないし、罵倒まみれかもしれない。いや、常識人の彼に限っていきなり罵倒だらけはない、と思いたい。
 校庭脇のベンチに座りうんうん唸っていると、菓子をぼりぼりかじる音と共に食べカスらしき残骸が頭上から降ってきた。

「・・・紫原。食べながら歩くのはよせと何度言えばわかるのだよ」
「声掛けてないのによく俺だってわかったねー、みどちん」
「こんなマネをするのはお前くらいだ」

 制服に付いたカスを払っていると、突然ずいっと紫原が身を乗り出してくる。反射的に避けようとした瞬間、反動でボタンを押したらしく、ピッという電子音が手元から聞こえた。

「おい!」
「くろちんとメールしてんの?」

 受信履歴一覧を表示していたので目に入ったのだろう。慌てて本体を閉じると制服のポケットに突っ込んだ。

「余計なお世話だ」
「物好きだねー。つかくろちんってみどちんにはメールとか返信してくんの? さっちんときせちん、宛先不明で戻ってくるって言ってたけど」
「前にもらったメールなのだよ」
「メールの日付、昨日だったけど」
「・・・・・・見たのか」

 近づいてきた紫原に気付かなかったのは失敗だった。忌々しげに舌打つが本人は気にもしていないのか、まあねと言ってまた菓子を頬張りだす。

「なんでみどちんにはメール返ってくんだろね。みどちんだけ知ってるアドレスなわけ?」
「知らん」
「ふーん。まぁどうでもいいしー。あ、これあげる」

 右手にぶら下げていたビニール袋を緑間に押しつけて、あかちんとこ行くからと紫原はくるりと向きを変えた。

「おい!」
「頑張ってるみどちんにご褒美〜。それ新作なんだけどイケるよ〜。コーラっ茶にも合うんじゃない。くろちんと食べたら〜?」

 ぽかんとする緑間を気にも止めずに手をひらひらさせて去っていく。

「なんなのだよ」

 ビニール袋には未開封の菓子がいくつか入っていた。期間限定と書かれている物もある。

 あの紫原が菓子を・・・? しかもご褒美とはなんだ、ご褒美とは。なにかしたか?
 はっとして携帯電話を開けば黒子からのメールが開封されていた。電子音はこれだったようだ。最後まで読むと途端に脱力感に襲われて力なくベンチに身を沈めた。

「否定はしないのだな・・・」

 おそらくは赤司から教えられていたのだろう。口止めしておくべきたったかと思ったけれど、紫原のことだから発言に裏なんて一つも隠されていないに違いない。きっと言葉のままだ。

「紫原め、簡単に言ってくれるな」

 だけれども・・・。もし、もし馬鹿正直に今度会わないかと、不味いお茶でも一緒に飲まないかと少しの冗談でも交えて誘ったら、万が一にでももしかするかもしれない。

 黒子はほんの少しとはいえ応えてきれくれるようになったのだ。

「・・・・・・」

 焦るなまだ時期尚早だ、いやここは思いきって誘ってしまえ。
 葛藤する緑間を余所にビニール袋が暢気にがさりと鳴った。


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