R18となっております。該当するお方は閲覧ご遠慮下さい。
当てはまらない方はどうぞ。




昼下がりに
以前発行しました同人誌の再録となります。完売済みです。

 

「今度の日曜日ですか?」
「そうだ」 

部活終了後の放課後、ちょっとした合間をぬって黒子は緑間と逢瀬を重ねていた。土日祝日も関係なくお互い部活動の予定が入っているため、かち合う休日も少ない中時間を作って会っている。
 黒子にはその緑間と会うために時間を調整することがこそばゆくも嬉しくもあったし、緑間もそうに違いないと思うと、心がほんのり暖かくなる。
今日もそうだ。
 明日古典の小テストがあるのだと言いながらも、こうしてマジバで時間を合わせて落ち合っている。
 本当なら部活が終わり次第即帰宅し、テスト対策の勉強をしたいのだろうに昼休みにはしっかりと時間確認のメールを送ってくれたのだ。
 先にマジバに到着していた緑間は席を確保して、少し後からきた黒子に席で待っているよう一言残してカウンターに向かっていった。
 戻ってきた緑間の手の上のトレーには黒子用のシェイクと緑間用のコーヒーと、ポテトが乗っていた。

「なんなのだよその顔は」
「どんな顔してましたか?」

トレーをテーブルに置いてシェイクを黒子の前に置きながら緑間は怪訝そうか表情で問い掛けてきた。

「・・・締まりのない顔だ」

黒子の向かいの席に座るとコーヒーの入った容器を手元に引き寄せ、ミルクと砂糖を入れスプーンでかき混ぜ始める。

「失礼な」

いつもより砂糖が多いのは疲れているからだろうか。せっかくの緑間との時間は惜しいけれども今日は早めに切り上げようと、黒子は礼を述べてからシェイクを啜った。

「緑間君てちゃんと彼氏してるんだなーって思ってたんですよ」

とたん緑間は飲んでいたコーヒーを派手に噎せた。気管にも入ってしまったのか、げほげほと咳込んでいるのに黒子はナプキンを差し出した。

「お前は、なにをっ言い出すのかと思えば!」

ナプキンを受け取り口元を拭いている緑間を見やれば、目元が僅かに紅潮しているのがわかった。照れているようだ。

「褒めてるんですよ」
「もう黙るのだよ!」

このまま褒め続けていると逆に口論に発展しかねないので黒子は大人しくすることにして、話題を最初のものに戻した。

「で、今度の日曜でしたっけ?」
「そうだ」

緑間はようやっと落ち着いてきたようで、ナプキンを片付けてポテトを口にしてい
る。吊られるように黒子も手を伸ばし一つ取るとかじりついた。いつも通り出来立てで程良い塩加減が食欲をそそる。

もそもそとフライドポテトを咀嚼しながら脳内で予定を確認する。次の日曜日は部活動もないし他にこれといった予定も入っておらず、丸一日空いている。

「部活もないし他に予定もなくって空いてますね」
「そうか」

そう黒子が告げると緑間は手にしていたコーヒーの容器をテーブルに戻し、隣の空いている席に置いた鞄を開けると中を探り始める。
ややあってクリアファイルを取り出すと中に挟んである紙切れを、黒子に見えるようにしてテーブルの上に置いた。どうやらチケットのようだ。

「なんのチケットですか?」

黒子は目の前に置かれたチケットを手に取りしげしげと眺めた。可愛らしいデザインで無料招待チケットと印刷されている。

「高尾がいらないからと寄越したのだよ」
「高尾君がですか・・・」

最近駅前に出来たばかりのスイーツ専門のバイキング店だ。甘党の黒子としては非常に興味がある店だったがいかんせん男一人で入店する勇気はさすがになかった。

「抽選で当たったけど甘い物はあまり食べないからと、押しつけてきた」
「なるほど」

確かに高尾が甘い菓子類を食べている姿は滅多見ない。マジバで遭遇して相席した際にはいつもコーヒーをブラックで啜っていた。嫌いではないけれど、それほど好んで食べる物でもないようだ。

「一枚で二人まで入店出来るのだよ」

確かにそう記載されている。

「で、日曜にここに行かないかと言うお誘いですか」
「そうだ」

はっきりとは言わないが、つまりこれはデートのお誘いになるのだろう。メールや電話ではなくて直接面と向かって誘ってくれていることを黒子は嬉しく思った。

「良いですよ、行きましょう」

断る理由など存在しない。奥手な緑間がこうやって誘ってくれているのだ。
 チケットを緑間の方へ戻しながら返答すると、なんだかんだで緊張していたらしく心なしか強ばっていた肩から力が抜けたのが見て取れた。なんとなく口元も緩んで見える。

「そうか・・・。待ち合わせの時間などは近くなったら連絡する。都合の良い時間があるのなら先に言うのだよ」
「わかりました。連絡お待ちしてます」

頷いてチケットをファイルに戻す緑間を眺めながら黒子はシェイクを啜った。
茶化すような返事が返ってくるのが目に見えているけれども、後で高尾にお礼のメールを送っておこう。

「楽しみですね。折角の機会だしいっぱい食べましょうね」
「そうだな。お前は少しばかり肉が増えてもなんら問題ないのだから、食えるだけ食えば良いのだよ」
「余計なお世話です」  

 

それが火曜日のことだった。今日は木曜日だ。そろそろ緑間から日曜日の予定についてメールが来る頃だ。
 朝に届いたメールには、『日曜日についてはまた後で連絡する』と書いてあった。

「どうした黒子、携帯気にしてんな」
「そうですか?」
「ああ」

昼休みに黒子は火神や降旗達バスケ部の一年生のメンツで屋上で昼食を取っていた。
 サンドイッチをかじりながら彼らが話す話題に相槌を打ちつつ、制服のポケットに入れている携帯電話をたまに取り出し画面を除く黒子の姿に気付いて河田が声を掛ける。
 黒子としては突っ込まれるほど携帯を気にしていたつもりはなかったけれども、周囲からすれば物珍しく見えたらしい。
 メールや電話の着信が入っていないのを確認した黒子は携帯電話を閉じると、再びポケットに戻した。

「なんか連絡でもくる予定なのか?」
「まぁそんなところです」
「ふーん」

不思議そうな顔でこちらを眺めてくる彼らに苦笑しながら黒子は残りのサンドイッチに手を伸ばした。

「黒子」
「なんですか火神君」

昼食後、降旗達は次は移動教室だからと一足先に教室へと戻っていった。
 残った黒子は読書をするべく持参していた文庫本を取り出し、火神は昼寝をすべくごろりと横になる。
 火神は隣でフェンスに寄り掛かってページをめくる黒子を見上げながら声を掛けた。

「さっきのあれだけどよ」
「あれってどれですか?」

黒子はちらりとも火神に視線を移さず文字を追っていたけれど、返事だけは返していた。

「あー・・・携帯気にしてたろ。誰かから連絡くるとかで」
「ああ、あれですか」
「あれ、緑間からだろ」

その一言で、ぴたりと動きを止めた黒子は苦々しげに火神を見やった。

「なんでそう思うんですか」
「なんとなくだよ。つーか緑間以外に思いつかねーし」

火神は黒子が緑間と交際していることを知っているのだから、自然とそういった考えに至るのもおかしな話ではないのだろう。
 緑間と黒子の現在の関係を知らない人物からあれこれ詮索されて濁すように返答するよりは、火神のようにいちいち隠す必要のない人物から言われた方が気は楽だ。

「・・・緑間君で合ってますよ」
「なんだ喧嘩でもしたか?」
「違います。日曜日に会う約束をしてるので、そのことについてですよ」
「なんだデートか」

火神の口から出た単語に黒子は肩をすくめた。確かにデートなのだけれど、何回聞いても慣れない言葉だ。しかも似合わない。

「良いんじゃねーの。付き合ってんだからデート行って当然だろ」
「そうですか?」
「・・・お前等普段なにやってんだよ」
「お互い忙しくて二人で会う機会もあまりないですし、大概自宅かマジバですね」

火神は体を起こすと盛大にため息を吐いた。

「忙しい言ってねぇで朝帰りくらいしとけよ」
「しませんよ朝帰りなんて。火神君と一緒にしないで下さい」

そろそろ昼休みが終わる頃合いだろうと、携帯電話を再び取り出すと黒子は時間を確認した。

「火神君昼休み終わりますよ。教室に戻りましょう」

文庫本に栞を挟んで閉じると脇に置いてあるゴミの入ったコンビニの袋を手に取り、火神を促した。

「あーそうだなー」

やれやれと立ち上がった火神は制服に付いた埃を払っている黒子の後頭部に手を掛けて、髪をくしゃりと撫で回した。

「ま、楽しんでこいや」

火神の手を振り払おうと左手を伸ばした黒子は、にっと笑う火神にその手を元の位置に戻した。嫌みや茶化しではなく本心で言ってくれているのだろう。

「ありがとう・・・ございます」

気恥ずかしくもなったけれど、嬉しくもあった黒子はぽそりと礼を告げると先に立って歩き出した。  

 

部活終了後、片付けを終えてせわしなく部室に戻ると黒子は自分のロッカーを開けて鞄から携帯電話を取り出した。
 着信を告げるランプがチカチカと光っているのを見て、二つ折りの携帯電話を慌てて開きメールボックスを確認すると緑間からのメールが届いている。
 滴る汗をろくに拭いもしないで画面を見つめている黒子に笑みを浮かべながら、火神は自分の予備のタオルを頭に掛けてやった。

「風邪引くぞ。いつでも読めんだから、まずは汗拭けよ」

二年生達やモップ掛けが先に終わった降旗達は既に帰ってしまっていて、部室内には火神と黒子だけが残っている。
 周囲に気にする必要もないので遠慮なく緑間からだろと声を掛けた。黒子からの返答はさっぱりなかったけれど気にもせずに着替えを終えて振り返ると、さっきとは打って代わって意気消沈した表情で肩を落とす黒子の姿があった。

「どうした?」
「日曜日、駄目になったそうです」

力無く携帯電話を閉じた黒子は鞄にお座なりに放り込んで、着替え始めた。

「なんでだよ!?」

火神に借りたタオルで額と首の汗を拭い、汗に濡れたTシャツを新しい物に変えて制服にのろのろと腕を通す黒子に火神は半ば怒鳴りながら聞き返していた。

「急な練習試合が入ったそうです」
「なんだそりゃ!?さぼれよ!」
「無茶言わないで下さい」

緑間が在籍する秀徳高校は全国屈指のバスケットボールの強豪校だ。火神や黒子の通う誠凛高校とは違って練習試合の申し込み数も常に途絶えることはない。

帝光時代もそうだったように、今回のような状況もけっして珍しくないはずだ。

「強豪校となればこういったこともままあるものですよ」
「そうかあ?」
「だいたい火神君だって、今度の日曜に練習試合が入ったって監督から言われたら何か予定あっても練習試合をとるでしょう?」
「う・・・そりゃまあ」

着替え終えた黒子はTシャツを手早く畳んで鞄に入れるとロッカーを閉め、日向から預かっている鍵があることを確認した。

「火神君タオルありがとうございました。洗って返しますね」
「良いよ、んなもん」

火神は黒子の手から先程のタオルを奪い脱いだシャツと一緒に自分の鞄に押し込ん
だ。

仕方ないと言っていたけれども、どことなく力の入っていない黒子の様子にため息をつきながら鞄を抱えた。

「ほら帰ろうぜ」

黒子の肩を軽く叩いて促し先に部室から出た。
部室の鍵を閉めた黒子と並んで歩き始める。明日の朝練の部室の鍵開け当番も火神と黒子なので、鍵を事務室に返却する必要もない。真っ直ぐに昇降口に向かい靴を履き換え
た。

「黒子この後なんか用事あんのか?」

「いえ、今日はないですよ」

「じゃマジバつき合えよ。シェイク奢ってやるよ」

意外な発言に目を見張ったけれど、これはきっと火神なりに気を使ってくれているんだろうと黒子は目を細めた。

「・・・火神君に慰められるとは心外です」
「別にそんなんじゃねーよ!」
「でも、ありがとうございます」
「おう」

黒子が礼を告げると少し照れくさそうに火神は笑い返してきた。
 今回は残念な結果になってしまったけれども、次の機会がない訳ではないのだからその時まで楽しみにとっておこう。
 火神が奢ってくれるというシェイクを美味しく頂きながら、緑間へ送る返信のメールの内容を考えることにした。 

 

部活終了後、緑間は黒子に日曜日の約束が駄目になってしまったと連絡した後重い足取りでどこにも寄らずに帰宅した。
 夕食もどことなく味気なく、夕食後の日課になっている予習復習も手短に済ませて風呂に向かった。
浴槽に肩まで浸かり深々と息を吐きだすと、疲れがどっと沸いてくる。
今度の日曜日に練習試合が急遽入ったと監督から告げられたのは、部活後のミーティングでだった。相手校の監督が、大学時代の先輩に当たる人物で恩もあり断るに断れなかったと申し訳なさそうに話していた。
既に予定が入っている部員もいるだろうから、どうしても無理な場合は休んでくれても今回は構わない。しかしなるべくなら部活に出るよう伝えられた。
 黒子との約束は何物にも代え難いものだったが、どうしても無理かと言われれば返事に詰まってしまう。
中学の頃にこういったことを幾度か経験しているのは黒子も緑間も同じだったし、ましてや自分はレギュラーの位置に立つもの。早々に休むことなど出来ない。正直に告げれば黒子は怒ることも詰ることもせず、分かったと頷いてくれるだろうに違いない。

が、分かっていてもそれはそれ、これはこれだ。黒子と共に休日を一日過ごせることを楽しみにしていたのもあってか、思っていた以上に落胆してしまった。
入浴を終えて自室に戻ると枕元に設置している充電器に置いた携帯電話がメールの着信を知らせている。バスタオルを椅子に掛けて携帯電話を手に取り確かめると、黒子からのメールが届いていた。

『わかりました。残念ですがまたの機会に。試合、がんばって下さいね。』と短く纏められている。
「まったくだ・・・」

がっくりと肩を落とした緑間は携帯電話を充電器に戻し、明日の支度を始めた。  

 

「真ちゃん今日どうしたのー?元気ないね」
「気のせいだ」
「いやいやそんなことないって!シュートにいつもの切れがなかったぜー」

翌日金曜日の朝練で目敏く気付いた高尾が部活終了後に突っ込んできたけれども適当にあしらい、緑間は部室を後にする。

「余計なお世話なのだよ」

態度や部活動に気落ちした状態が現れないよう気を使っていたしそれに気付いた部員もいなかったので、ほっとしていたが高尾は別だったようだ。
 苦々しげに舌を打つと足早に教室へと向かった。

「ひょっとしてさ、日曜日予定合ったとかじゃない?」
「あっても練習試合を優先するのが当然だろう」
「そうだけどさー。・・・もしかしなくてもテッちゃんじゃないのー?」

しつこく聞いてくる高尾にだんだんと緑間は苛立ってくる。

「だったらなんだ!」
「図星なのね・・・。ま、今回はしゃーないなー」

また次までとっときなよと、背中をばんばん叩いてくる高尾を高い位置から睨みつけて緑間は教室へと足早に入っていった。

「しょうがないね、真ちゃんは」

そんな緑間の様子にやれやれと肩を竦めて高尾も教室に向かう。

「黒子も日曜休みだったんだなー」

どこかに出掛ける約束でも交わしていたのだろう。滅多にない機会だし、さぞかし楽しみにしていたのだろうなと思えば自然と同情も沸いてくる。

「・・・予定まだ入れてないかな黒子」

ふと、思案が浮かんできた高尾は黒子に連絡を取るべく携帯電話を取り出したけれど廊下に鳴り響く予鈴を聞いて、昼休みにでもとしまい直した。  

 

「あ、テッちゃん?おれおれ!」
『なんですか高尾君』
「今大丈夫?」
『大丈夫ですけど、なにか?』

昼食後の空き時間を見計らって高尾は黒子に電話を掛けていた。
緑間は委員会の用事でそちらに行っているため今は席を外しているが、見つかるとうるさくなるだろうと人気のない屋上に上がっている。

「日曜になんか緑間と約束してたっしょ。駄目になったけどさあ」
『・・・緑間君に聞いたんですか』
「んー半分は勘かな!」

電話の向こうで黒子が呆れ返っているのが姿は見えなくとも声色だけで察しがつい
た。

「でさ、もう予定入れた?」
『いえ、入れてないです』

黒子からの返答にこれはしたりと高尾は満面の笑顔を浮かべる。朝練で配られた練習試合についてのプリントに軽く目を通して要項を確認した。

「そりゃ良かった!あのさ、練習試合うちの学校でやんだよね」
『はあ』
「見に来ない?」
『は?』
「だから試合見においでよ!他校同士の試合見に来たって偵察にでも来たのかなー位で変に思われないだろ。俺と真ちゃんだって見に行ったんだからさ」

緑間に付き合わされて誠凛の試合を観戦にしに何度も足を運んだだろうか。

『いや、でも・・・』

想定外の話に黒子は狼狽えているようだった。

「大丈夫だって!制服着てこれば文句も言われないし、テッちゃんならこっそりしなくても見つからないって。うちの部員もみんな顔見知りだしさ」

黒子は戸惑っていたけれども後からメールで時間を連絡するからと、半ば強引に話を畳み込んで高尾は通話を終える。

「こういうのも悪くないんじゃない」

緑間には当日まで黙っていようと心に誓い、黒子にもそう伝えようと頷いた。

 

 

「なんだ黒子難しい顔して」
「してましたか?」
「困りましたって顔になってんな」

努めていつもと変わらぬ無表情を保っていたつもりだったけれど、火神には気付かれてしまったようだ。

「さっき高尾君から日曜日の試合見に来ないかって電話が掛かってきました」
「試合って緑間んとこのか?」
「そうですよ」

昼休み中、ちょうど火神が席を外していたときに高尾から電話が掛かってきた。用事がある場合は大抵メールで連絡を寄越すのに珍しいなと首を傾げていたら、件の内容だったのだ。

「良いんじゃね、行ってこいよ」
「簡単に言わないで下さい」

火神はなんの問題がとあっさり言ってのけると自分の席に座った。次生物だっけかと机の中から教科書とノートを漁り始める。

「緑間と黄瀬だって俺らの試合見に来てたろ。他校の試合観戦禁止されてねーんだから気にしないで行ってこれば」

それはそうなのだが、どうにも気が引けてしまう。秀徳高校のバスケ部の生徒達もあまりいい顔はしないだろう。足を運び辛いのは否めなかった。

「なら火神君も一緒に行きませんか?」
「なんでだよ!誘われてんのお前だろが!」
「せっかくだし・・・」
「行かねーよ!俺も行ったら緑間の機嫌悪くなるだけだろうが!」

それもそうだなと肩を竦めた黒子も授業の準備を始める。緑間と火神はバスケにしろ日常にしろ相性が悪いのは目に見えて分かっている。
それなのに火神も試合観戦に連れていって緑間の志気に影響するような事態に発展し、試合に支障をきたすような事態に陥っては秀徳高校の選手達に申し訳が立たない。

「行って緑間応援してこいよ。もともと会う約束してたんだしそれが駄目になったんだ。緑間だってしょげてんじゃねーの。可愛い恋人が応援に来てくれたら元気になるだろ」
 二の足を踏んでいる様子の黒子に火神は発破を掛けたつもりだったけれども、可愛いという表現が爵に障ったのか黒子はしかめっ面をしている。

「可愛いとか失礼です」
「緑間からしたら可愛く見えてんだろ」
「あと次の授業世界史ですから」
「早く言えよ!」

取り出したノートを机に叩き付けながら火神は怒鳴ったけれど、確認しないのが悪いのだと黒子はしれっと受け流した。
火神の言うことにも一理あるだろう。日曜日の予定を緑間だって楽しみにしていた。仕方ないことだと理解していてもしょげているのはきっと緑間も同じだと思う。
約束自体は駄目になってしまったけれども、緑間を応援することによって少しでも元気付けられたら良いのではないか。
 
第一に緑間がバスケットをしている姿を見るのは黒子はとても好きだった。
中学の頃のように同じチームの仲間としてでもなく今のように戦う相手としてでもなく、第三者として試合を観戦するのも決して悪くはない気もする。いつもと違った視点で見れて返って新鮮かもしれない。
 そう思考を巡らせれば、黒子は沈んでいた心が少しずつ晴れてくるのが感じられてく
る。

 気持ちも新たに授業を受けるべく世界史の教科書を机に置いた。 

 

日曜日になると黒子は普段学校に通うのと同じように制服を身につけて朝食を取り、私物の鞄に最低限の荷物を入れ高尾に指定された時間に間に合うように家を出た。
秀徳高校に黒子は一度も訪れたことがなかったため余裕を持って早め出るよう心掛けていた。
とはいえ、学区が同じで中学が一緒だった緑間が自転車で通える距離なのでそれ程遠くはない。電車で数駅通過したところで下車し、携帯電話のナビ機能を頼りに歩くと校門らしきものが視界に入ってくる。見慣れた姿が黒子に気付いて手を振ってきた。

「テッちゃんこっちこっちー!」

高尾の姿を確認すると無事時間内に到着出来たことに黒子は胸を撫で下ろした。

「高尾君おはようございます」
「おはよー。迷わなかった?」
「大丈夫でしたよ」

高尾も安堵の表情を浮かべている。

「わざわざすみません。練習中でしょう、大丈夫なんですか?」
「へーきへーき、試合観戦したいって知り合いを迎えに行って来るって言ってきたしさ」

黒子を伴い高尾は昇降口へと歩き出した。
  黒子は昇降口で靴を脱いで来客用のげた箱に靴を入れ、用意してあるスリッパに足を入れる。その間に高尾も上履きに履き換えていた。

「こっちね」

校内は人も疎らで、他校の制服を身に付けている黒子を見ても驚く生徒もほとんど見られない。

「高尾君、皆さんにはその知り合いが僕だって話しているんですか?」
「うんにゃ誰にも言ってないよ」
「・・・大丈夫ですかね」

黒子が観戦するのを良く思わない選手達も当然いるだろう。志気に影響を及ぼしてしまわないか黒子は心配する面もあった。
なによりも緑間の反応が気になる。内緒で来てしまって、機嫌を悪くしたりしないだろうか。
そんな黒子の胸中を察してか高尾は努めて無邪気な笑顔を向ける。

「大丈夫大丈夫!うちの部員伊達に全国区の選手やってないよ。そんな柔な神経してないから!」
「それはそうでしょうけど・・・」

体育館が近付くにつれて、勢いある掛け声とともに床を踏みならす音とボールの跳ねる音が響いてくる。
試合前の独自の緊張と臨場感が伝わってきて、黒子は自分が出場する訳でもないのに高潮してくるのが分かった。
体育館側の二階バルコニーへと続く階段の手前で足を止め、高尾は一歩後ろにいる黒子を振り返る。

「ここから二階に上がれるから。テッちゃんの好きな場所に座って見るといいよ」
「わかりました。じっかり観戦させて頂きます」
「・・・真ちゃんに会ってく?」

高尾の言葉に黒子は顔を振った。

「いえ、試合前に邪魔はしたくありませんので」
「そっか・・・。んじゃ俺行くから。あ、飲み物飲んでも大丈夫だからな」

体育館内に去って行く高尾を見送って黒子は二階に上がる。既に席を陣取っている生徒が何人かいるけれどもいずれも秀徳高校の生徒で、他校の者は黒子一人のようだった。何人かは黒子に気がついたけれども、他校の生徒が試合を見に来るのが珍しくないのか気にする様子は見られない。目が合った生徒に対しては会釈をして黒子も席に着く。空いている席が多いので遠慮なく隣の座席に荷物を下ろした。
コートを見下ろすと秀徳と相手校がそれぞれのベンチで試合直前のミーティングを行っている。秀徳側に一際背の高い選手が二名いるが、一人は主将の大坪でもう一人が緑間だ。側に高尾の姿も見える。真剣な表情で監督の話しに耳を傾けているその横顔に黒子の口元が綻んだ。
やがてミーティングが終わり、選手達が試合の準備のため慌ただしく動き始めた。
高尾がバルコニーをきょろきょろと見回してる姿が見えたが、黒子と視線がかち合うとにっと笑みを浮かべた。

「なにをしている高尾」

隣で準備もろくにしない高尾に緑間は咎めたけれど、お構いなしに高尾は緑間のユニフォームの裾を引っ張った。

「真ちゃんあそこ見える?」

周囲を気にしてか声を潜めて緑間に耳打ちしながら高尾はバルコニーで黒子が座る辺りを示す。

「なんなのだよ」

促されるままバルコニーに視線を向けた緑間は驚愕して目を見張った。

「わかった?」
「どういうことだ高尾!」
「どうもこうも、試合見に来ないって誘っただけだよ」

黒子の姿を見て慌てふためく緑間を面白そうに眺めながら、高尾はユニフォームの上に着ていたTシャツを脱いだ。

「なぜ黙っていたのだよ!」
「良いじゃん別にー。それよりテッちゃんに格好いいとこ見せてやんなよ。んでしっかり勝って、帰りにご褒美のちゅーでもして貰ったら?」
「馬鹿なことを言うな!」

コートに整列するよう声が掛かってもごちゃごちゃ言い争っている緑間と高尾に苛立った宮地が怒鳴り声を上げる。

「なにやってんだお前ら!さっさと並べ!」
「あ、すみません!」

二人はTシャツをおざなりに脇に並べてある椅子に放り投げてコートに向かうが、ふと緑間が足を止め視線を上げて黒子の姿を一瞥した。
緑間と視線がかち合った黒子は見てますよ、との意思表示も込めて軽く頷き返す。
その黒子の姿に緑間は目を細めた。約束が駄目になってしまい申し訳なく思っていかけれど、高尾に誘われたからと言ってもこうして試合観戦に黒子が訪れるとは予想外だっ
た。
嬉しくない訳がない。
緑間が誠凛の試合に足を運んだのは何度もあったが、逆に黒子が秀徳の試合を見に来たのは初めてのことだ。
しっかりと今の自分の姿を見届けてもらおうと、緑間は気合いを新たに背筋をぴんと張り所定の位置へと整列した。 

 

試合はいつも以上に気迫に溢れた緑間が絶好調に次々と点数を重ね、秀徳が相手校を圧倒する結果で幕を閉じた。
反省会は明日の部活で行うと監督から伝えられその後解散が命じられると緑間は足早に体育館を後にして、部室へと向かう。
珍しく落ち着きのない緑間の姿に首を傾げる部員もいたが、日曜だしなにか午後から予定でもあるのだろうと察してそれぞれの役割に戻った。
緑間はまだ誰も戻って来ていない部室のロッカーを開けて荷物を取り出し、タオルで汗を拭い手早く着替え始めたが携帯電話からメールの着信を知らせる音楽が鳴り出したのに一時手を止める。
メールは黒子からので、『お疲れさまでした。校門で待っています』とだけ書かれた短いものだったけれど、待たせてはいけないと着替えを再開した。

「真ちゃんおつかれー!今日もばっちりだったじゃん」
「高尾か。俺は帰るぞ。先輩達にもそう伝えてくれ」

鞄に私物を積めてロッカーを閉めると慌ただしく去っていく緑間に高尾は苦笑しながらも、わかったと答えた。

「テッちゃんによろしくねー」

緑間は昇降口で靴を外靴に履き換え、小走りに校門へ向かったがそこに黒子の姿を見るとより足を早めた。

「黒子!」
「早かったですね。もっとゆっくりでも構わないのに」
「馬鹿をいえ」

上がった呼気を整えて、緑間は改めて黒子に向かい合った。

「試合お疲れさまでした。いつ見ても君のシュートには見惚れてしまいますね」
「ふん・・・」

面と向かって言われると照れてしまうのか、わざとらしく眼鏡を掛け直す動作をして緑間は黒子を促し駅に向かって歩き出す。
隣に並んで歩きながら、黒子は緑間を見上げた。うなじがうっすらと汗が浮かんでい
る。急かしてしまったなと少々反省しつつも、緑間の首筋を流れ落ちる汗と微かに漂ってくる体臭が鼻孔を掠め思わずどきりとした。

「どうした?」
「あ・・・いえ、なんでもないです」

慌てて黒子は首を振った。汗と匂い立つ体臭に緑間との情事を思い出し胸が高鳴りました、なんて口に出来やしない。
最寄り駅の近くの交差点で信号待ちをしながら、今更ながらに今後どうするか決めていないことに緑間は気が付いた。

「これからどうする?どこか寄るか」
「緑間君疲れてるでしょうし寄り道しなくてもいいですよ。帰って休んで下さい。僕は試合が観れて満足ですから」

名残惜しい気もするけれど緑間の休暇の方が優先だ。午後はゆっくりと体を休めて欲しいとやんわりと黒子は断った。
そんな黒子の様子に緑間はしばし考え込んでいたが、信号が青に変わると同時に再び駅に歩き出す。

「お前は午後から予定が入っているのか?」
「ないですよ」
「そうか。・・・ならば家へ来るか?」

緑間の言葉に黒子は目を見張った。

「今日は両親とも出掛けていて帰宅するのも夕食が終わった頃の予定なのだよ。お前が良ければ、だがな」
「でもそれじゃ緑間君が休めないじゃないですか」
「この程度問題ない。明日は朝練も休みになったしな」

そう言われてしまえば黒子としては緑間からの提案を断る理由がなくなる。のんびりとお茶でも啜るのも悪くはないし、元の約束は駄目になってしまったけれど緑間と二人で過ごす時間が出来るのはこの上なく嬉しい。

「じゃあ・・・お邪魔します」
「うむ」  

 

緑間の母親が用意してくれていた食事はあったがそれは当然一人分なので、途中コンビニに立ち寄り昼食と菓子をいくつか購入して緑間の自宅へと向かった。

「お邪魔します」

まずはシャワーを浴びてくるからと黒子をリビングに通して緑間は二階の自室に上がっていき、残された黒子はテーブルに買ってきた物を、私物を邪魔にならなさそうな位置に下ろしソファーに腰を落ち着かせた。
着替えを片手にリビングにやって来た緑間は黒子に一声掛けてから浴室に向かう。

「緑間君の家に来るの久しぶりですね」

誰もいないリビングでぽつりと黒子は呟いた。最後にここを訪れてから一ヶ月近く経っていたし、また逆もしかりだろう。
放課後に短時間ながらも逢瀬を重ねているが、それとはまた別だ。何度も訪問しているのに久々なせいもあってか、いまいち落ち着かない気分を取り直そうかと私物の鞄から読み掛けの文庫本を取りだしページをめくり始めた。 
 

暫くして緑間が風呂から上がってきた。
乾ききっていない髪を拭きながらリビングに来ると、そこに大人しく本を読んでいる黒子の姿を見つけてほっと息を付いた。あまりにも静かで、風呂で汗を流している間に帰ってしまったのではないかと錯覚してしまいそうだったのだ。

「待たせたな」

緑間に気が付いて黒子は本から顔を上げた。
Tシャツにスウェットという簡素な出で立ちに、上気した頬が色気を放っているようにも見えてくる。真っ昼間っからなにを考えているのだと、黒子は自分を一括して本を閉じた。

「そんなことないですよ。急かしてしまいませんでしたか?」
「いや・・・。まずは昼にするか。それからゆっくりしよう」

昼食を食べながら取り留めのない話をぽつりぽつりと話す。緑間も黒子も口数の多いタイプではないのもあり、静かな時間が流れていった。
昼食後、緑間の入れたお茶を飲みながら二人並んでソファーに凭れ掛かってだらりと足を床に投げ出す体制になると、緑間はふと思い出して隣の黒子に話し掛けた。

「今日の試合、高尾に誘われて見に来たと話していたな」
「はい。金曜日のお昼に電話でお誘いしていただきました」
「そうか・・・」

日曜日について黒子に連絡を入れたのは木曜日だったが、翌日の金曜日の放課後から土曜日に掛けて妙に高尾が調子付いていたのを覚えている。そんな高尾にどんどん苛立ってくるのを自覚して、距離を置くようにしていた。

「あの・・・黙っていたの怒ってますか?」
「少しはな」
「ですよね・・・」

当然かと、黒子は苦笑した。わかっていたことなのでそれほど気落ちはしない。

「だがな・・・」
「はい」

手元の湯呑みを眺めながら緑間はひとりごちた。

「嬉しかった」
「え・・・」
「嬉しかったのだよ」

繰り返し緑間自身にも言い聞かせるかのように話す緑間を黒子は振り仰いだ。いつになく穏やかな面もちだった。

「俺はお前達の試合は何度も観戦しているが、お前が俺の試合を見に来たのはこれが始めてだろう」
「そう言えばそうですね」
「体育館で高尾に言われてバルコニーにいるお前の姿を見て、少々浮かれてしまった。表には出さないよう努めていたが、高尾にはばれているだろうな」

胸の内をこう正直に告げる緑間は非常に珍しかった。それだけ緑間にとって喜ばしい出来事だったのだろう。
告白でも聞いているようで黒子は気恥ずかしくなってくる。

「僕も戦っている緑間君の姿が見れて良かったです。対戦校同士ではなく第三者として観戦出来たのは新鮮でした。それに・・・」

黒子は湯呑みをテーブルに戻すと緑間の側に擦り寄りぴたりと体を寄せた。

「格好良かったです、緑間君。惚れ直しちゃうかと思いました」
「そ、そうか」
「そうです」

空になった湯呑みを緑間もテーブルに戻すと、ぎこちなく黒子の肩に腕を回してより自分の方へと引き寄せる。
黒子もされるがままに緑間の胸元に凭れかかった。顔を上げるとこちらを見下ろす緑間と目が合う。
成り行きに任せるよう黒子は目を閉じたが一向に行動を起こさない緑間にじれて、一端目を開けた。

「緑間君、ここはちゅーする流れだと思います」

さっきと同じ体制で固まっている緑間のTシャツの裾を引っ張って催促しても、口をへの字にしたままだ。

「緑間君?」
「今したら色々我慢出来なくなるのだよ」

緑間の発言に呆気に取られたけれど、Tシャツを掴んでいた手を離して膝を立てる体制を取りそのまま身を屈めて緑間に口付けた。

「おい!」

焦る緑間を無視して耳元に口を寄せる。

「べつに我慢しなくて良いですよ。ぶっちゃけると帰り道で見た君のうなじに浮かんだ汗と、汗の匂いでちょっと興奮してしまいました」

硬直している緑間の耳元で囁いて、誘うように黒子は耳朶に軽く歯を立てた。

「ーっ!」
「緑間君疲れてるだろうから今日は我慢するつもりでしたが、その・・・やっぱりしたい、です・・・」

昼間からなにを言っているのかと今更ながらに羞恥心が沸いてきて、黒子は緑間の肩に熱くなってきた顔を埋める。
はしたないと叱咤されてしまうかなと思ったけれども、緑間が腰に腕を回してきたので杞憂に終わった。

「せめて俺の部屋に行くのだよ」

頭上から注がれた言葉に黒子は緑間の広い背中をぎゅっと抱き締めることで応えた。  

黒子を抱き抱えた緑間はそのまま自室へと移動し、黒子を座布団の上に降ろすと押入から乱雑に布団と枕を引き出した。
枕と掛け布団と毛布を畳に放り投げ、敷き布団をいつもの位置に広げて簡単にシーツを整えて枕をぽんと置くとついでにカーテンも閉めてしまう。念のためドアも閉めて鍵を掛けた。
机の引き出しからローションとゴムを取り出す緑間を尻目に黒子は制服とワイシャツを脱いで、勉強机の椅子に引っ掛ける。ベルトを緩めたところで戻ってきた緑間に抱き寄せられた。

「ずいぶんと積極的だな」
「そうですか?」

背後から抱きすくめられる体制となる。首にかかる緑間の吐息が熱いのは気のせいではないだろう。
体の向きを変えられて向き合う格好になった黒子は腕を伸ばして緑間の首に軽く回す
と、伸び上がって自ら唇を押し当てた。

「久しぶりだからってのもあるんじゃないですか」

一度離した唇を今度は深く合わせる。好きにさせていた緑間も黒子の細い体を抱き寄せるとそれに応えた。

「ん・・・」

僅かに開いた唇の隙間から緑間が舌を差し入れてくる。絡ませた舌が立てる塗れた音が静かな室内でやけに響いて欲を煽った。

「はっ・・・」

口付けを解くと黒子は呼気を整えるよう息を吐いた。唾液に塗れた黒子の薄い唇が艶めかしく緑間の視界に映る。

黒子を抱き上げ敷き布団に移動し、そこにそっと寝かせると緑間は邪魔になってきた眼鏡を外して枕元に置いた。途端に視界がぼやけたけれど慣れてくれば問題ない。Tシャツも脱ぎ捨てた。

「ふっ・・・」

組み敷いた黒子の首筋に緑間は舌を這わす。

ふるりと震えた黒子に気を良くして浮いた鎖骨に跡が残らないよう配慮しながら歯を軽く立てた。

「あ・・・ぅ」

胸元を辿り固くなりつつある乳首を舐め上げると黒子の肢体がぴくりと跳ねる。もう片方も肩を撫でていた右手で摘み、揉みしだくよう刺激を与えた。

「ああっ!」

シーツの上で泳がせていた手を外して黒子は緑間の右腕を縋るように掴んだが、緑間は気に止めず赤く色付く乳首をしゃぶり続けた。

「あ!やっ・・・緑間っく!」

太股に起ち上がり始めた黒子の性器が薄い布越しに当たる。緑間は右手を乳首から離すと、脇腹を撫でた後黒子のベルトに手を掛けた。
黒子が自分で緩めていたので手間取ることなく抜き取り、ついでズボンも下着と一緒に足から抜いてしまう。
身に纏う衣類がなにもなくなった黒子は流石に恥ずかしいのか、一度自分の状態を確認して目を反らした。
黒子の視界に先ほど閉めたカーテンが入る。外から見えないようにと閉めたカーテンは陽光を受けて明るく、まだ今が昼間だというのを思い出させた。

「どうかしたか?」

気だるげに窓辺を見ている黒子に服を脱いでいた緑間は声を掛ける。

「そういえばまだ日中だったな・・・と」

黒子に釣られるように顔を上げる。室内は明かりを灯す必要がない程に明るい。
黒子と行為に及ぶときはいつも夜も更けてからで、こんな時間帯にするのは始めてだ。暗い室内で僅かな光に浮かぶ黒子の肢体はどこか儚げで、消えてしまいそうな錯覚に陥ることもある。

「たまには悪くないのだよ」

全裸になった緑間は黒子にのし掛かり行為を再開した。
白昼からというのが換えって緑間の背徳心を煽り、下半身を熱くさせる。

「あっ」

黒子の白い足に両手を掛けて大きく開かせると、性器の表面を一撫でしてからそっと握り込んだ。

「あうっ!」

途端に黒子はびくんと身体を跳ねさせた。上下に手を動かしながら身を屈め小刻みに震える内太股に口を寄せる。

「あぁ!あっ・・・」

ここならば人目に触ないだろうと、跡を付けるために強めに吸い上げた。

「あっ・・・ちょ、だめっです!」
「下着を履いていても見えない位置だから問題ないのだよ」
「もうっ」

咎める黒子を無視して反対側にも跡を付ける。日焼けしていない肌に赤い点がよく映えるのを満足げに見やって、緑間は脇に置いてあるローションの容器を手に取った。性器を擦る手を止めずに、片手で蓋を開ける。

「ひっ、冷たっ」

いつもより多めに、足の付け根や黒子自身にも垂らすとローションの冷たさに黒子が思わず身を竦めた。

「少し我慢するのだよ」

ぬるぬるとした液体と黒子の性器から流れる体液が混ざり、卑猥な音を立てる。

「んっ!」

滑らせた手で探った黒子の後腔の入り口に指を当てると、黒子自身を擦る動きに合わせひくついているのが分かった。

誘われるように緑間は人差し指を差し込む。

「う・・・んっ」
「痛むか?」

異物感を体内に感じて黒子は眉をしかめた。何度経験してもなかなか慣れないけれども、痛みはなかったので首を横に振る。

「ぁ・・・んっ」

緑間は人差し指を埋め込むとゆっくりと動かす。少し慣れてきたところで指を増や
し、狭い体内を広げるために蠢かせた。

「あぁっ・・・う」

少し萎えてしまった黒子の性器に刺激を与えながら、探り当てた前立腺と思わしき箇所で指をぐっと折り曲げと黒子が大きく仰け反った。

「あっひ!それ・・・やあぁっ」
「いやじゃないだろう」

揃えた指で抜き差しすると解れてきた内壁がひくつき絡み付いてくる。たまらず緑間は指を引き抜いて、黒子の痴態に興奮し勃起した己の性器にゴムを装着した。

ふと思い立って敷き布団の上で力なく横たわる黒子の背中に腕を回し、片腕を掴んで引っ張ると上体を起き上げ膝立たせた。

「なんですか・・・」

怪訝な表情を浮かべながらも緑間の好きなようにさせていたが、胡座をかいた緑間と向かい合う体制で膝の上に跨らせられると意図に気付いた。

「え、ちょっ」

そのまま引き寄せて黒子の後腔に緑間自身を宛がう。

「このまま腰を落とすのだよ」
「やっ・・・無理です!」

黒子は焦ったがさっぱり力の入っていない状態ではろくに足掻くことも叶わず、腰を支えていた緑間の手にぐっと引き落とされた。

「ひ!ああぁっ」

内部を押し広げるように入ってくるのに、緑間の肩に反射的に爪を立てた。
視界の端で緑間が眉をしかめたのが見えたけれど、構っていられない。

「・・・っ、黒子力を抜け」
「うあっ、む、むりっです!」

ほろほろと涙をこぼしながら訴える黒子に業を煮やした緑間は片手を腰から外し、黒子の性器に手を掛けゆるゆると動かした。

「あっ、あ」

力が抜けてきたのを見計らい緑間は一気に体内へと埋め込んだ。

「ーーっ!」

弓なりに背を反らした黒子が放った白濁の体液が緑間と黒子の腹部を濡らす。

「黒子・・・」

黒子の顔を上げさせると、塗れた目元に唇を寄せる。汗の流れる背中を撫でながら黒子が落ち着くまで待った。

「は・・・はぁ」
「大丈夫か?」
「ぁん、は・・・い」

黒子が頷いたのを確認すると抱え直して律動を開始した。

「ひゃっ、ああっ!」

縋るように黒子は緑間の背に腕を回す。ついさっき放った体液がぴたりと合わさった腹でぬるつき音を立てた。

「はうっ、ふ、ふかっい」

自分の体重と体位の為かいつもより奥深くまで緑間に犯され、強烈な快感が腰から伝わってくる。
前立腺を擦られると射精感が湧き上がってきて、煽られるように緑間に合わせて腰を動かした。
すっかり起ち上がり再び先走りを垂らす自分の性器を緑間の筋肉の浮いた腹に擦り付ける。

「あ、もっ緑間くっ!」
「はっ・・・黒子っ」
「や・・・ああぁ!」

体内の緑間を思い切り締め付けると薄いゴム越しに緑間が放つのを感じ、つられるように黒子も射精した。

「ん・・・」

射精後の倦怠感に身を委ねつつ、ぐったりと黒子は緑間にもたれ掛かる。
荒くなった息を整えていると、瞼が重くなってくる。
緑間が髪を梳きながら耳元で愛しげに名前を囁くのをうっとりと聞きながら、黒子は意識を手放した。 
 

黒子が目を覚ますと敷き布団の上に薄いタオルケットが掛けられて寝かされていた。緑間が寄り添うように隣で寝息を静かに立てている。後頭部に当たる枕とは違う固い感触は緑間の右腕だ。
瞳を瞬かせてから自分の状態を確認すると、体液で汚れた身体はすっかり清められて素肌に甚平を羽織っていた。緑間は行為の最中に脱いだ服を着ている。意識がない間に緑間がきれいにしてくれたのだろう。
窓が開放されているようでカーテンが微かに風に揺れている。まだ外は明るい。

「起きたのか・・・」

黒子が動く気配に気付いて緑間も目を覚ました。

「おはようございます」
「ああ・・・。今何時だ?」

緑間の問いに黒子は少し上体を起こして枕元に置いてある時計で時間を確認する。眼鏡を掛けていないから至近距離といえどぼやけて見えないのだろう。

「今は二時をちょっと過ぎた辺りですね」
「そうか・・・」

思っていたよりは時間は経過していないのに安心して、緑間は黒子の肩に手を掛けて引き寄せると先程と同じように黒子を腕の中に抱き込んだ。

「もう少しこうしているのだよ」
「喜んで・・・」

甘えてすり寄ってくる緑間に好きにさせながら黒子は目を細める。普段の彼からは想像も出来ない態度に、こんな緑間を見れるのは自分だけなのだろうと思うと歓喜に内震えた。

「黒子・・・」
「なんですか?」
「起きたら帰る前にちゃんと風呂に入るのだよ」
「わかってますよ」

頭上で囁く緑間の声が眠りに誘っているようで、黒子は瞼が重くなってくる。うつらうつらしながら片腕をもぞもぞ動かしてずれたタオルケットを引き上げ、緑間と自分の肩を覆った。
ぴたりと寄せた緑間の胸から規則正しい心音が伝わってくるのが心地よい。

「黒子・・・」
「はい」
「今度こそ、一緒に出掛けるのだよ」
「もちろんです」

今度は自分の方に予定が入って約束が駄目になるような事態が起きないよう、心底願いながら黒子は眠りに落ちた。
まだ何か緑間が呟いていた気がしたけれど、それに応えられた気はしなかった。 

 

「黒子くーん今日は別メニューにしよっか」

翌日の月曜日、いつも通りに朝練の前にストレッチをしていた黒子を頭の上から爪先まで眺めた後で意味深な笑みを浮かべながら相田が言い放った。

「なんでですか?」
「少し下半身が疲れてるみたいだしねー。無理して腰痛めたら大変しょ」

相田に指摘されて黒子は口を噤んだ。
一晩休めば大丈夫だろうと安易に考えていたが、万全な体調と言い切れるほどには回復しなかった。主に腰が、行為後特有のだるさに襲われ動きがいまいち鈍っている。
いつも通りに活動していれば慣れてだるさも消えるだろうと思っていたけれど、相田に見抜かれてしまった。甘かっただろうか。

「ま、痛みがあるって訳でもなさそうだし明日には回復するでしょ」
「すみません・・・」
「良いのよー、たまには大目に見てあげる。それにしてもお肌つやつやで羨ましいわ。私にも分けて欲しいくらいよ」

手をひらひらとさせながら相田は話し込んでいる日向達の方へ去っていった。
それを見計らって、少し離れた位置でストレッチしていた火神が黒子の側に歩み寄ってくる。

「相手が誰とは言わないけど、監督にばれてんじゃねーの」
「なんのことですか」
「お肌つやつやだってよ」
「知りませんよ」

笑いながら髪をくしゃくしゃ撫でてくる火神の手を払いながら、適当に受け流していた黒子だったが腰を軽く叩かれて思わず押し黙った。

「・・・わざとですよね、火神君」

黒子は恨みがましく火神を睨み上げたが、当の本人はしたり顔で笑っている。

「まぁ今日は大人しく監督の命令聞いておくんだな」

ボールを取りに向かった火神の後ろ姿を見ながら黒子は深々と溜息を吐いた。

「ばれてるの火神君と監督だけですよね・・・」

そうであって欲しい。
相田に呼ばれて黒子は別メニュー表を受け取るべく足を向けた。
今朝も緑間からのメールがいつもの時間に届いたけれど例の如く今日の運勢やラッキーアイテムについての内容に付け加えて体調を気遣う文も添えられていた。
大丈夫だと返信しておいたが気にもんでそうな様子が目に浮かび、黒子は苦笑する。

朝のミーティングで来週の日曜日は部活が休みだと連絡を受けたことを、昼休みに改めてメールしよう。
今週の代わりに次の日曜日は確実に休みにすると、監督から宣言されたと昨日緑間から聞かされていた。 
晴れると良いなと願うばかりだ。

 

  


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