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 いつものごとく青峰の部屋で情事を交わした後、ベッドの上で気だるい体を水戸部に委ねながらぽつりと呟いた。
 放課後のちょっと部活が早く終わった日にメール一つで約束を交わして、近くのコンビニで落ち合ってそのまま青峰の家に足を運んだ。
 青峰の両親は揃って仕事で帰りが遅いことが多いので気兼ね無く水戸部を招き入れている。
 月に数える程度だけれども、これくらいの頻度が丁度良いのかもしれない。

 今日もそうだった。
 汗と体液で濡れたままゴロゴロしている青峰の体を丁寧に清めてから、ベッドの上で背後の壁に寄りかかりゆったりしている水戸部の足に頭を遠慮なく乗せて寝転がっている。
 部屋にこもった独自の匂いを外へ逃がして換気するために開けた窓からそよそよと流れてくる風が火照った体には心地良かった。
 風呂には後で入れば良いかとうつらうつらしていると、水戸部が穏やかな笑みを浮かべながら短い髪を梳いてくる。
 悪い気はしない。むしろ気持ちが良いので好きにさせた。
 そこでふと気が付いて何ともなしに呟いていた。

「そういや俺、あんたの家に行ったことないな」

 こうやって逢瀬を重ねるのはいつも青峰の家でだったので、水戸部の家には一度も訪れたことがない。
 元相棒の黒子やその仲間達が通う誠凛高校からはそんなに遠くもない位置にある。それくらいしか知り得なかった。

「ま、別にいんだけど」

 青峰は毎回自分の都合で水戸部を誘っている。
 場所を提供するのは当然だし後々自分が楽なので毎回自宅だった。

「あんた兄弟多いんだってな」

『水戸部先輩はご兄弟が多くてご両親も仕事が忙しいので、食事の用意を初めとした家事を先輩が殆どこなしているそうです。だから迷惑は掛けないようお願いします』
 と難しい顔をした黒子からくどくど説教された。
 青峰としても水戸部に余計な負担を掛けてまで、この関係を強いるつもりはないので分かったと返事をしておいた。
 いつだったか黒子から聞かされたと言えば、水戸部は納得したようで、ああ、と頷いてくる。

「俺一人っ子だからなー。面倒みんの大変じゃね?」

 自分より年下のましてや血の繋がった人間の世話をするなど青峰には想像もつかないし、考えたくもない。
 そんな自分からすれば水戸部の日常生活は称賛に値する。
 しかし水戸部はそんなことないよと首を緩やかに振った。

「すげぇよ。しんじらんねー」

 馬鹿正直に感嘆の言葉を漏らしても、困ったような表情で青峰を見下ろしながら小首を傾げるばかりだった。

 

 それから暫くして珍しく青峰の携帯電話に水戸部からのメールが届いた。
 屋上で絶賛授業をさぼっていた青峰は欠伸をしながら、なんだどうしたとメールBOXを開いた。
 内容もこれまた珍しいどころか初めてだと思われる、今度家に来ないかというお誘いだった。
 思わずがばりと起き上がって再度内容を確認すると、今度の金曜から家族が皆出掛けてしまい水戸部一人になる。だから都合が良ければどうかとのこと。
 むろん断る理由など一つもない青峰は即、「行く」と一言だけ書いて返信する。
 再び届いたメールには近くなったらまた連絡するとあったので、それで構わないとまた返してやり、気分良く昼寝に戻った。

 そして昨日木曜日に、明日はどうするかと問うメールが届いた。部活が終わったら誠凛の近くのマジバで落ち合う約束を取り付ける。
 金曜日には誰かかれかから催促される前に、自ら体育館に足を運んで部活に参加した。 ほぼ部活開始時刻に現れた青峰の姿を見るや否や、先に来て準備に取り掛かっていた部員達が唖然として作業する手を止める。
 多少居心地悪くもあったけれども、適当に受け流した。

「なんや青峰。今日は優等生やなー、明日は槍でも降るんかいな」
「うるせぇ。たまたまだよ、たまたま」

 笑いながら茶化す今吉は青峰の肩をぱんぱん叩いてから部活開始の合図を出した。汗を流すのは嫌いではない。バスケをするために生まれてきたんだと思っている。
 ただ練習すればするだけ己が強くなり、本気で挑める相手がより減っていくだけ。つまらなくてどうしようもくなるからやらないだけ。
 それでもたまにはまぁ良いかと、部活終了までボールを操り続けた。

 終了後のミーティングには参加せずにさっさと部室に戻り、自分のロッカーを開けた。荷物も殆ど入っていないカラッとした内部から鞄を引きずり出す。
 水戸部の所属する誠凛高校のバスケ部もそろそろ練習が終わった頃だろう。その故だけを打った短いメールを水戸部に送り、さっさと着替えた。
 他の部員が戻ってくるとまたうるさく言われそうなのでその前に退散するべく部室を後にし、昇降口に向かった。

「青峰君!」

 靴を履き代えたところで背後から馴染みの声に呼び止められる。
 振り向けば急いで追いかけてきたのか、息が上がっている桃井が居た。

「どうした?」
「ふぅ・・・。これからどこ行くのよ」

 唐突になにを言い出すのかと思えばそんな事か。

「お前には関係ねぇ」

 適当にあしらうと桃井は呆れたように肩を竦めた。

「水戸部さんのところでしょ」
「・・・なんで知ってんだよ」

 いくら桃井が情報通とは言え、今日青峰が水戸部の家に行く事を知っているのは二人だけだと思うのだがどこから仕入れてきたのか。
 水戸部も自分も周囲に言い触らすような真似はしない。
 だとすれば。

「テツ君が教えてくれたのよ」

 やっぱりそこか。
 水戸部との関係を知っている人間も限られている。大方迷惑は掛けていないかとか、気に揉んでいる黒子が水戸部に聞いたのだろう。

「そうだよ」

 文句あんのかとぶすっと言い返せば、ふーっと大きく息を吐いた桃井が腕に抱えていた紙袋を青峰に押しつけてきた。

「なんだよ」
「お菓子よ!つまらないものですがどうぞって水戸部さんの家にお邪魔したら渡しなさい!」

 紙袋の中を見ると焼き菓子の詰め合わせと表記された包装された箱が入っている。この近所の洋菓子店の物だ。

「数の多いの選んだからね」
「ああ・・・さんきゅ」

 いちよう礼は言っておく。
 鞄を肩から下げるようにして空いた手に紙袋をぶら下げた。

「じゃあ俺行くわ」
「迷惑掛けちゃ駄目だからね!」

 注意を促す桃井に背を向けた青峰に、途中で開けて食べないようお小言が追加された。
 誠凛高校と青峰達が通う桐皇高校は電車で数駅程度の距離なので顔を合わせるのには苦労しなかった。
 最寄り駅で下車して改札を抜けると待ち合わせしているマジバに向かう。
 途中、誠凛高校の制服を着た学生達とすれ違ったが見知った顔は有り難いことに無かった。
 マジバに入って店内を見渡したがまだ水戸部の姿は見えない。カウンターでコーラを注文して窓辺の席に腰を下ろした。

「失敗したかな・・・」

 冷えたコーラを啜りつつ一人ごちる。考えてみたらここのマジバは誠凛のバスケ部も良く寄る店だった気がする。
 特に黒子はここのシェイクが大好物だ。部活帰りにふらっと入ってくる可能性も大きい。
 自分の容姿が身長も含めて良くも悪くも目立つところは自覚している。
 黒子だけならまだしもこれで火神付きだったりしたら面倒くさい事になりかねない。
 ストバスコートに隣接されている公園にでもすれば良かったか。

「ちっ・・・」

 舌打つが待ち合わせ場所を変更するのは今更な気がして、水戸部が早く到着するのを願った。

 容器のコーラが無くなり掛けた頃、ようやっとお目当ての人物が姿を現した。店内をきょろきょろと見回し、こちらに気付くと早足で近付いてくる。

「よお」

 一声掛けると安心したように、ほっと息を付いたのが見て取れた。額に汗が滲み、呼気も乱れている。急いできたのだろう。

「急かしちまったみてーだな」

 気にするなと首を振る水戸部に青峰は残っていたコーラを飲み干すと席を立った。
 容器を処分するときょとんとした顔の水戸部を促して、店の外へと出た。

「わりぃな、考えてみりゃここの店テツもよく来るとこだろ。下手に顔会わせるとうるさそうだからよ」

 それを聞くと納得したのか水戸部は頷き返して青峰の隣に並んで歩き出す。どっか寄るか、と聞けば特に無い様子なのでそのまま水戸部の自宅に向かった。
 歩っている最中、これと言って話題もなかったのでお互い一言もしゃべらなかったけれども不快には感じなかったし、寧ろ気楽で良かった。

 

 水戸部の自宅は閑静な住宅地の一角にあった。ぱっと見で青峰の家より大きいのがわかったけれど、住んでいる人間が多いのだからその分だけ部屋数も多いのは妥当だろう。
 鍵を開けて先に入った水戸部の後を追って玄関のドアを潜った。

「お邪魔しまーす」

 誰も居ないことを示すように室内は静まり返っている。
 一応一言挨拶してから靴を脱いで家に上がった。そのままリビングに案内される。
 ちらりと水戸部がソファーを見遣ってから視線を青峰へと戻したので、座っていてくれとの意思表示だろうと解釈し、遠慮なくそうさせてもらう。
 脇に荷物を下ろすと桃井に押し付けられた紙袋が目に入る。

「なあ、これ・・・」

 着替えるために自室に戻ろうとしていた水戸部に声を掛け、紙袋をずいっと差し出した。
 振り返った水戸部が青峰の元へ来ると強引に紙袋を渡す。

「つまらないものですが、どうぞ。だってさ。さつきが寄越したのだよ」

 家族で食えってさ、と付け足すと了解したと水戸部が笑みを浮かべた。

「あとさ、悪いんだけどジャージか何か貸してくんねぇ?Tシャツとパンツはあんだけど他の持って来なかったんだよな。サイズあんま変わんねぇし、適当なので良いからよ」
 それを聞いた水戸部は頷き返すとリビングから出ていった。
 その後ろ姿を見送ってから青峰は盛大に息を吐いた。初めて訪れる他人の家になんだかんだと体を堅くして息を詰めていたためだ。
 ソファーに深々と座り直すと制服の上着を取ってネクタイを外し、ワイシャツも脱いでしまい下に着ていたTシャツ一枚になった。ベルトも軽く緩めるとだいぶ楽になる。
 足下の脱ぎ散らかした服を拾い上げると上着はソファーの背もたれに掛け、ワイシャツとネクタイは丸めて鞄の脇に置いた。皺にはなるけれど家に帰れば予備もあるから問題ないだろう。

 程なくして私服に着替えた水戸部が衣類を手に戻ってきた。ジャージを青峰に手渡すと一緒に持ってきたエプロンを身に付け始めた。
 青峰が遠慮なくその場でジャージに着替えていると、制服の上下をハンガーに掛けてくれた。

「わりぃな」

 気にするなと首を横に振るとそのまま隣の台所へと向かっていく。
 冷蔵庫を開ける音がするので、おそらく夕食の支度を始めるのだろう。
 何か手伝うかとも思ったけれど、大して料理が上手くもない自分が余計な手を出すのも返って迷惑になるかと思い直し、鞄の中からバスケの雑誌を出してめくり始めた。

「・・・・・・?」

 いつの間にかソファーに横倒しになっていた。雑誌を読んでいる内にうつらうつらとなりそのまま寝ていたようだ。
 漂ってくる香りに鼻をすんすんと動かしながら視界を巡らすと、すでにテーブルの上には出来上がった料理が並び始めている。
 食欲をそそる匂いにたまらず体を起こすとパサリとタオルケットが床に落ちた。わざわざ水戸部が掛けてくれたようだ。
 大雑把に畳んでいると水戸部が気付いて戻ってきた。
 直ぐにでも口にしたい衝動に駆られたけれども、準備が終わるまでは大人しく待っていた。

「良い匂いだな」

 水戸部からご飯が盛られた大降りの茶碗を受け取る。エプロンを外して向かいに座ったのを確認すると夕食を開始した。

 水戸部の作った料理はどれも絶品だった。よくあの短時間であれだけの品々を用意出来るものだと素直に感心する。
 片付けはさすがに手伝ったけれどもこちらも慣れた手つきで次々と片付けていくので、殆ど青峰がする事はなかった。
 先に切り上げてリビングでお茶を啜りながら面白くもないTV番組をごろごろしながら見ていたら風呂に入ったらどうかと促されたので、ありがたくそうさせてもらう。
 水戸部家は浴室も広かった。きっと親兄弟で入れるよう広めに作ったのだろう。青峰の体型でも狭さを感じる事は無く、悠々と湯船に浸かった。
 これ位広いんだったら一緒に入っても良かったかもしれない。 
 風呂から上がってリビングに戻ると水戸部が洗濯物を畳んでいた。
 隣に座ると既に用意していたらしいグラスに入った飲み物を勧められる。色からしてコーヒー牛乳だ。 

「飯旨かったぜ。あんたほんとに料理上手いんだな」

 穏やかに微笑んでくる水戸部に、ああこれは嬉しいのだなと何となくだが察する。

「さつきの料理が壊滅的でよ。見習わせてーよ」

 きっと水戸部は教え上手だ。喋らないから多少は不便かもしれないが、覚えるまでとことん付き合ってくれるに違いない。
 この年齢でここまで家事に堪能な男もそうはいないだろう。
 やがて洗濯物を畳み終えた水戸部が衣類を抱えて立ち上がった。仕舞ったら次は風呂に入る気がしたので、部屋に行ってると告げれば階段のある場所を手で示してくれた。
 まだまだ残っていたコーヒー牛乳を飲み干し台所の流しで簡単に洗ってから荷物を持って二階に登る。
 いくつかドアが並んでいたが一番奥のが半ドアになっていた。きっと青峰にも分かるようそうしていったに違いない。
 中に入ると壁際に誠凛高校の制服が下げられていて、ベッドの隣に布団も敷いてあったのでここで間違いなかった。隅に荷物を置いて布団に腰を下ろし、室内を見渡した。余計な物が置いてない綺麗に片付けられた部屋だ。勉強机には家族写真も飾られている。
 と携帯電話からメールの着信を知らせる音楽が鳴った。誰からだか容易に想像出来たが、放置しても後からうるさそうなので仕方なしにメールを開いた。

『迷惑かけたりしてない?物壊したりしちゃ駄目だからね!』
『してねーよ。料理上手かったぞ。教えてもらえ』

 それからまた桃井からメールが届いたが、今度は返信する程でもないと判断して放置した。

 「ったく・・・」

 これは帰宅してからもしつこく言われそうだ。きっと水戸部の元には黒子から心配して様子を伺うメールでも届いているだろう。

「ほっとけっつーの」

 ぽいと携帯電話を枕元に投げ出し布団の上にごろりと横になった。時計を見れば寝るには随分と早い時間だ。
 あまりじろじろ見るのもどうかと思いつつ室内見渡した。机の他に本棚とベッド、小さなガラス戸付きの棚も置いてある。
 本棚には漫画は生憎一冊もなく、代わりにバスケに関する物や料理や写真についての書籍がずらりとならんでいた。視線をずらせば隣の棚にはカメラや機材らしき物が置いてある。写真を撮るのが好きなのか。飾ってある写真も水戸部が撮影したのだろう。
 寡黙な水戸部には悪い意味ではなく、似合っていると思う。
 そうしている内に風呂から上がった水戸部が戻ってきた。

「おー」

  だらしなく寝転がったまま水戸部を迎えた。もう寝ていると思っていたのか、青峰の姿に少し驚いた様子だった。

「さすがにまだ寝るには早いだろ」

 それもそうかと頷き返しつつ、水戸部は乾き切っていない髪を拭きながらベッドに腰を下ろした。
 青峰の髪は短くてぱさぱさしているけれど水戸部はちょっと長めのしっとりとした黒髪だ。癖もないしもっと長く伸ばしたら女子が羨ましがりそうなストレートなる気がする。

「髪、綺麗だな」

 何気なしにぽつりと呟いたが耳に届いていたようで、水戸部がそうかな?と首を傾げれば髪も一緒に揺れた。

「俺アンタの髪、好きだわ」

 体を起こして水戸部に向かって腕を伸ばせば、少し前屈みになりながらもその手を取って頬に寄せられた。
 湯上がりでうっすらと上気している肌を指の先でさすれば擽ったそうに身を竦める。調子に乗っていじっていたら手首をやんわりと捕らえられ、口元に引き寄せられる。
 ちゅっと音を立てて軽く吸われて掌をぺろりと嘗め上げられた。

「・・・っ」

 反射的に身体が跳ねる。宝物でも扱うかのように水戸部の両手で包まれた手を生温かく濡れた感触がゆっくりと這っていき、人差し指と中指の間の皮膚の薄い部分を辿り行き着いた指先に歯を立てられた。「はっ・・・」 手から腕の内側に移り、柔らかい肉の上もはむようにされれば甘い痛みが沸き起こり背筋がふるりと震えた。下腹部に熱が溜まっていく。
 水戸部は不安定な体制でいた青峰をぐいと引き上げてベッドに乗せるとそのまま押し倒した。
 力が抜け初めていたからか、逆らう気がないからか安易に横たわる青峰を見下ろしながらTシャツを脱いでベッドの下に落としてもう一度のし掛かる。

「はっ・・・」

 自分も脱いでしまおうかと片肘をついてほんの少し身を起こし、シャツに手を掛けたが腕から引き抜く前に水戸部に阻まれる。

「・・・?なに・・・」

 して、と言い掛けたけれど捕まれた手ごとシャツをめくり上げられた。
 服を脱がせたかったということだろうか。胸元までたくし上げられた中途半端なシャツの裾を掴んだまま、現れた胸板に口付けてくる水戸部を見下ろす。
 そういえばいつもは服を自分から脱いでいた気がする。誘ったのもやりたいのも自分自身が先だったからというのもある。

「う、あっ」

 乳首をぺろりと舐められ反射的に体が跳ねた。それに水戸部が気を良くしたのか、執拗に舌を這わせだす。

「あ・・・あっう・・・」

 もう片方も痛みを与えないように加減された指先でこねるようにされ、息が上がっていく。
 いつもより声が漏れているのに青峰は若干の違和感を覚えつつも、水戸部の好きにさせた。頭を枕に押し付けながら、なんでだろうと熱に浮かされ始めながらもぼんやり考える。

「は、あっ!」

 堅くなってきていた股間を水戸部に膝頭でぐりぐりとなぶられた事で一気に現実に引き戻された。
 驚いて瞼を瞬かせながら正面に照準を合わせると、口端をにっと上げた水戸部と視線が噛み合う。

「なん、だよっ!うぁ・・・」

 ぐっと股間を押し上げられ腰が戦慄く。それを見た水戸部が満足げに微笑み、そこから足を外した。

 なんだこれ。変だ。おかしい。

 気が付けば履いていたジャージは下着ごと取り払われ、下肢が剥き出しになっている。緩く立ち上がっていた性器を上下に擦られれば自然と喘ぎ声が口から漏れた。
 どうにも居たたまれなくて、顔を横にして枕に付けることで片耳を塞いだ青峰の鼻先を甘ったるい香りが掠める。なんの匂いかと、すんと息を吸い込んだ。

「ひっ!」

 ああ、シャンプーかリンスの香りかと認識しかけたところで足の付け根辺りに生温かく濡れた感触が這うのに目を見開いた。

「おい!」

 そのまま性器を口に含もうとしている水戸部を慌てて止めに掛かるが間に合わず、悲鳴にも似た声を上げ背中を仰け反らせた。

「あっ!ちょっ、ぁまて・・・って!」

 引きはがそうと水戸部の頭を掴んでみたものの、ろくに力が入らず意味が成さない。髪を引っ張るだけとなった。
 丁寧に、しかし確実に追い込まれている。足を動かそうにも腰を抱え込まれるように持たれ、逃れる術もない。
 だらだら溢れる先走りの体液をじゅっと音を立てて吸われ、言いようのない羞恥心が沸き上がってきた。

「も、はなせって・・・」

 限界が近づいてくるのがわかって口を離すよう訴えたが、気にするなと言わんばかりに酷く敏感な先端に、かりっと歯を立てられた。

「ひ、いっ・・・!」

 耐えきれず水戸部の口腔に放ってしまった。脱力しながら呼気を整えていると、捕まれていた下肢が解放されたのでだらりと両足を投げ出した。

「おま・・・飲んだのかよ・・・」

 唇の端に付いた精液を拭う水戸部に呆れていると、気にするなとでも言いたいのか頭をぽんぽんと撫でられる。
 普段なら子供扱いするなとその腕を払い退けたくなりそうなのに、不思議と悪くは感じない。
 少し息が落ち着いてきたところで体をひっくり返され俯せの状態にさせられ、その上から水戸部が覆い被さってきた。重くならないよう配慮されているらしく、苦にはならない。

「ん・・・」
 浮き出た肩胛骨を舐められ、背筋が震えた。汗の流れる背中を口付けながら水戸部が少しずつ下がっていく。
 好きにさせながら、さっきの続きを考える。
 食事をして風呂に入るまでいつもと変わりなかったと思う。あれ、となったのはベッドに押し倒されてからだ。
 何が違うのかともんもんする青峰は、その方が楽だろうと柔らかい枕に顔を乗せた。青峰の体重を受けて沈む枕から、先程よりも明確に匂いが香ってくる。
 きちんと洗濯されていて汚れの見当たらない真っ白な枕カバー。リンスかシャンプーの香りだろうと思っていたけれど、洗濯洗剤の香りだったようだ。香るタイプの物なのか。
 それに水戸部の体臭も混ざっている。不快ではない。むしろ体内に吸い込むと落ち着いてくる。

「ふっ・・・」

 脇腹を撫でられくすぐったさに身を竦めた。同時になんでだ、がすとんと脳内に落ちてきた。
 そうだった、ここは水戸部の自室だ。誘うときは毎回自分の家の自分の部屋。やりたいのもこっちだからと遠慮せずに迫っていたし、何を考えてるのか分からないけれど水戸部は一度だってそれを拒否した事がなかった。調子に乗って結構好き勝手していた、気がする。
 でも今日は違う。水戸部の生活圏内だ。当然主導権を握っているのは彼なのだ。

「あ!ば、ばかやろ・・・どこ、舐めてっ!」

 下に腕を回されて少し腰を持ち上げられ、膝を軽く折り曲げる体制を取らされた。水戸部は片手で青峰の腰を支え、もう片手で尻を割り開くと表れた秘部に舌を当てた。
 びくりと青峰の腰が揺れたけれど構わずに丁寧に這わし、解れてきたところで指を1本ゆっくりと差し込んだ。

「うぁ、あ・・・ぁ」

 痛みは感じない。もどかしい程に時間を掛けて内部を広げられているのが分かって、久しく忘れていた羞恥心に頭がくらくらしてくる。
 水戸部に好きなようにされているのに憎悪感は沸いてこない。いつもより派手に挙がる声が若干耳障りなくらいだ。

「やっ、う・・・やめっ。・・・あぁ!」

 増やされた指で前立腺を押され膝がガクガク揺れ、性器から流れる体液の量も増える。このまま放ってしまいたい衝動に駆られ出したが見計らったかのように指を抜き取られた。
 中途半端な状態で放り出されたのに抗議しようと背後の水戸部を振り返ると、避妊具を準備しているのが目に入る。
 力の入らない四肢をなんとか動かし上半身を起こすと、それを止めるべく青峰は水戸部の腕を掴んだ。水戸部の手から避妊具を奪ってベッドの下に投げ捨てる。

「いらねーよ」

 戸惑った表情の水戸部ににっと笑みを浮かべると、腰に両足を回して引き寄せた。密着した事で互いにすっかり立ち上がっている性器が擦れ合い、ぞくぞくとした快楽が沸いてくる。

「そのまんまでいーから・・・早く、くれよ・・・」

 荒い息遣いで途切れがちになりながらも水戸部にこうと、困ったなと目を細めつつものし掛かってきたので誘うよう腰の位置をずらす。

「あぅっ、ああぁ!」

 一気に最奥まで挿入され、たまらず仰け反った。薄いゴム越しではない肌の感触を直接体内で感じ、内部が歓喜するかの如く蠢いて水戸部の雄を締め付けた。
 応えるように水戸部が動き出すと青峰も合わせて揺らめかせた。
 閉じていた目を開けると、少し口を開け熱い息を吐く水戸部が見えた。シーツの上に投げ出していた腕を水戸部の背に回すとしっとりと汗で濡れているのが掌に伝わってくる。

「あ・・・はっ、あ・・・ぁ」

 細くもなくガチガチに筋肉が付いているわけでもない自分よりも若干背の低い水戸部の体は、しがみつくのには丁度良い。力を入れたら折れてしまいそうだ、などとも無縁で驚く程にしっくりと収まった。
 水戸部が唇を寄せてきたので自ら口を開けて受け入れる。こんなにも積極的に舌を絡めてくる水戸部は初めてではないだろうか。

「ぁっは・・・。い、からっ、そのままだせっ、って・・・!」

 中で出すわけにはいかないと腰を引いた水戸部の性器を逃すまいときつく締め付けると、呻き声と共に体内に射精される。奥に放たれた熱を感じてびくびくと全身を震わせながら青峰も吐精した。
 真っ白になって意識が飛び掛けそうになるのを寸でで止める。
 暫く動かないでいた水戸部がずるりと性器を引き抜いたのにも、後腔からとろりと水戸部の精液がこぼれるのにもすら愉悦が沸いてきた。
 呼気を沈めていると、起き上がった水戸部が腹の上にぶちまけられた白い体液を拭こうとしているのが視界に入る。

「そんなのいいって」

 でも、と気にする水戸部の手からタオルをもぎ取り、ぽいと床に投げてしまう。

「明日休みなんだろ?」

 頷いた水戸部ににやりと口端を上げた。
 上半身を起こすと水戸部の肩に手を掛けた。弾力があり薄くはない肩口にかじりつくと、一瞬ぴくっと跳ねたがなにも言われないので遠慮なく歯を立て吸い付いた。
 口を離すと歯形と鬱血した跡が残っているのがまざまざと分かり、優越感に浸った。白い肌に赤い跡がよく映えている。

「まだやれんだろ、りん・・・凜之助?」

 だったよな名前と確認にながら上目がちに水戸部を伺えば、きょとんとした表情から一変して熱の籠もった瞳が見返してきた。
 好き勝手されるのも案外悪くないなと自ら足を開いて水戸部を誘う。

 

 頭上から差し込む光に目を瞬かせた。カーテンの開けられた窓からはさんさんと日光が降り注いでくる。ぼーっとした思考で今日は晴れか良い天気だなとつらつらかんがえていると、ふいにドアの開く音がした。
 そちらを見るとエプロン姿の水戸部が部屋に入ってくるのが見えた。

「おはよーさん」

 寝転がった体制のまま声を掛けたけれど、水戸部は気にしていないようでにこにこしながらベッドの側まで寄ってきた。青峰の乱れた髪に手を差し入れて、梳くように撫でてくるのがとても心地良い。
 このまま再び夢の世界に落ちてしまいたかたっが、いかんせん空腹には勝てなかった。微かに水戸部から食欲をそそる匂い漂ってきて、胃袋が限界だと鳴り始める。

「腹減った・・・。飯、あんだろ?」

 だるい体を起こした。清められてはいたけれど汗や体液でべとべとしている。

「わりぃ、先にシャワー浴びるわ」

 さっぱりしてから食事にありつきたい。ベッドから降りて畳んで纏めて置いてくれていた衣類を手に取った。タオル類を差し出してきた水戸部に礼を言おうとして口を開いたところで青峰は動作を止める。

「凜之助・・・で合ってんだよな、名前」

 顔を上下に振った水戸部に胸を撫で下ろす。名字ですら発言した事が殆どなくて、合っているのかかなり怪しい気がしていたのだ。

「凜之助・・・凜之助、ねぇ」

 連呼するには少々長くて面倒臭い。

「凜でも良いか?」

 いちよう本人に聞いてみると、心底嬉しそうな笑みを浮かべたので「じゃあ今度からそう呼ぶな」と言って浴室に足を向けた。
 階下に下ればそこらじゅうに美味しいですと言わんばかりの香りが溢れている。
 さっさと体を流して食事にありつきたい。下半身は少々重かったけれど、足取りだけは笑いたくなるくらいに軽かった。


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