3

 あの日以来高尾や緑間達と会うことはなかったが、毎朝緑間からメールが送られてくるようになった。内容はいつも似たり寄ったりでおは朝占いの結果と一言二言のみだ。

 こちらからの返信も挨拶と相変わらずの短文のみとなっていた。
 だんだんと緑間の誕生日が近付いてきている。なにを贈るかすら決めていなかったがそろそろ準備に掛からないといけないだろう。
 どうせ贈るのなら喜んでもらえる物が良い。
 とはいえ何を贈ったらいいものかと頭を抱えてしまった。誕生日やバレンタインには黄瀬や桃井からプレゼントを貰ったことはあったし、お返しもその都度していたが今度は勝手が違う。
 いっそ黄瀬に相談してみようか、彼ならそういった方面に詳しそうだ。が、メールを打ち始めるとなんとも気恥しくなってきて結局諦めて放課後に雑貨屋を覗いてみることにした。
 部活終了後、雑貨屋に行くから今日はマジバには寄らないと火神に告げると俺も行ってみると一緒に付いてきた。断る理由もないので連れ立って近場のデパート内にある雑貨屋に入って行った。

「おー色々あんのな」
「女性向けの商品が多いですけどね」

黒子も火神もこういった店には縁がなかった。物珍しげに店内を物色してまわる火神にくれぐれも商品を壊さないように、と釘を指して黒子も見てまわる
 時期的に七夕関係のグッズか多く展示されている。さすがに笹を贈るわけにはいかないしなと眺めていたら、星に関するグッズを集めたコーナーに差し掛かった。
 装飾されたテーブルの上には所狭しとTシャツやぬいぐるみ、はては宇宙人を模した置き物までが並べてあった。ぬいぐるみは悪くないかもしれないなと手に取って眺めていると、テーブルの脇に設置させた棚が視界に入る。ストラップと思わしき物が多数展示されているが、その中に星型のストラップがあった。二p程度の小ぶりな物だったがよく見ると表面に何かの模様が刻んである。タグには星座ストラップと表記されていた。

「これは牡羊座ですね」

元の位置に戻して他のストラップを確かめていくと、しっかりと十二星座分飾ってあった。蟹座のマークが入ったストラップを取ってみる。白一色のシンプルなものだった。

「お、良いのあったのか」

緑間に贈るやつ、と火神が声を掛けてきた。火神もなにか購入したようで店のロゴの入った袋を片手にぶら下げていた。

「僕緑間君に贈るの探してるって言いましたっけ」
「いや言ってねえけどなんとなくな」

変なところで勘が働く男だと、肩を落とした。きっと雑貨屋に行くと言った時点で気付いていたのだろう。

「違うのか」
「…違いませんよ」

もはや隠す意味がないと諦めたらしく、正直に答えた黒子の手元をどれと覗き込んでくる。

「星型のストラップか。なんだそのマークみたいなの」
「これは星座の模様ですよ。ちゃんと十二星座ありますね」
「お前のもあんのか?」
「えっと…僕のはこれですね」

棚から水瓶座のストラップを取り外したが、ぱっと火神は黒子の手から取り上げて目前まで掲げてしげしげと眺めた。

「ふーん悪くねぇんじゃね。お前も自分の買ってったら?折角だから揃いにしとけよ、恋人同士で揃えたりすんだろ」
「恋人同士じゃないですよ」
「まだな」

火神の手から取り返そうと手を伸ばす。当然届くはずもなく空しく宙を切る。この身長差が憎たらしい。

「じゃあ俺が買ってやるよ」
「なんでですか、いいですよ別に」
「遠慮すんなって」
「遠慮じゃありません」

にやにやと人の悪い笑みを浮かべている火神に腹が立ってくる。

「火神君に買って貰わなくても自分で買うから結構です」

むきになって思わず口走ってしまった。しかしもう後の祭りだ。引っ込みが付かない状況に溜息を吐いてレジに向かった。
 プレゼント用だと店員に話してラッピングを頼んだ。待っている間に背後から火神が素直でよろしいと声を掛けてきたので、脇腹を小突いてやった。

 

 

 

 気付くともう七月六日になっていた。先日購入したプレゼントは自室の机の引き出しに閉まってある。明日は土曜日で部活は午前中のみとなり午後からと日曜日はオフになっていた。今現在は予定は入っていない。いつもなら自宅にこもって休息を取りつつ読書に勤しんでいるところだ。
 緑間も明日は部活があるだろう。午前中か午後か一日か、聞いてみないと分からない。まだ返信はしていないけれども今日も緑間からメールが届いていたので、返信のついでに聞いてみようか。どう切り出そうかと思い悩んでいたら、タイミングを見計らったように高尾からメールが届いた。明日の部活は午前中だけで午後からは緑間は予定が入ってないとご親切にも教えてくれた。
 ならば、と携帯電話のアドレス帳を開いて緑間を探し出すと電話を掛けた。

「…何か用か」

むっつりとした声色で緑間が応答してくる。これが黒子以外の人物ならもっと愛想よく対応しろと言いたくもなるのだろうけれど、いつもの事だと気にも止めなかった。

「明日の午後空いてますか?」
「空いているのだよ」
「ならお会いませんか?なんなら君の家にお邪魔しますよ」

 お休みの最中に悪いのでと。一言付け足しておいた。

「……わかった」
「じゃあ午後から行きますね」

 間を置いての返答が返ってきた。まだなにか言いたげに口籠っていたので聞こえなかったふりをして電話を切った。明日会って直接話せばいいのだ。
 緑間からの告白を待っていてはいつになるかわからないし、下手をすればこのまま終わってしまう可能性だってある。もういっそ自分から好きだと言ってしまえ。そこまで言われたら緑間だって大人しく認めると思うし、思いたい。
 緑間の自宅には中学時代に何度か訪れたが、いつも他のキセキと一緒だった。そのため黒子一人で来るのは始めてだ。
 斜め掛けしたショルダーバッグに、先日購入したプレゼント用のストラップも忘れずに入れてきた。手土産にと途中で洋菓子店に立ち寄ってケーキも購入した。
 チャイムを鳴らすとややあって玄関のドアが開けられる。

「こんにちは」
「ああ…」

 仏頂面をした緑間が中から出てきた。そのまま無言でリビングに通される。

「これ、ご家族にどうぞ」
「なんだこれは」
「手土産ですよ。中はケーキです」

 皆さん甘いのお好きでしたよねと、ケーキ入りの箱が入った袋を渡した。簡素に礼を述べて受け取った緑間は台所に赴き、冷蔵庫を開けて箱を納め代わりにお茶の入ったボトルを取り出した。氷を入れたグラスにお茶を注ぎリビングへと戻ると、ソファーに座っている黒子の前に置く。

「ありがとうございます」
「それでわざわざ何の用だ」

 緑間は黒子の向かいのソファーに腰を下ろすと自分用に注いできたお茶を啜った。

「…たいした事では、ないのですが」

 黒子は脇に置いていたバッグを引き寄せてチャックを開けると、中から綺麗にラッピングされた小ぶりの袋を取り出す。それを向かいに座っている緑間に差し出した。

「なんなのだよこれは」
「プレゼントです。今日、誕生日でしょう、君」
「プレゼント…だと?」

  一向に受け取ろうとしない緑間にじれて、テーブルの上に置くと彼の手元まで滑らせてやった。緑間は暫く無言で包みを眺めていたが、グラスをテーブルに戻して手を伸ばした。

「ラッキーアイテムの足しくらいにはなると思いますよ」
「なんのつもりだ、突然」

 緑間の片手に調度おさまるくらいの大きさだ。ラッピングを丁寧に解く手を休めずに問う。

「火神君から…高尾君が僕は緑間君に誕生日に何を贈るのかメールで聞いてきたって話をされましてね。それでもうすぐ君の誕生日だったなって、思い出したんですよ。その後でたまたま本屋で高尾君に会ったんですけど、その時も言われました。彼の中では僕が君に贈るのは確定事項だったようですよ。根負けしただけかもしれませんね」
「なにをやってるのだ、あいつは…」
「ちゃんと高尾君からも貰ったでしょ」
「ああ…帰り際に渡されたのだよ」

 部活が終わった後の帰り際に『真ちゃんの願い事なんか叶うと良いな!』とやけににこにこしながら渡された。
 帰宅してから中身を確認したが、今流行りの飾っておくと願いが叶うという海外の人形だった。おそらく輸入雑貨店あたりで見繕ってきたのだろう。自室のラッキーアイテムになり得そうな物を納めている棚に一緒に並べておこうかと思ったが、友人からの贈り物だ、と勉強机の上の片隅に飾っておいた。
 ラッピングを解いてしまうと包みを閉じているシールを丁寧に外した。少し斜めに傾けて中身を取り出す。

「これは…ストラップか?」
「そうですよ。星座の模様が入っているでしょう。ちゃんと蟹座ですよ」

 言われて見れば表面には確かに蟹座の模様が刻んである。

「覚えていたのか、俺の星座が何だったのかを」
「中学の頃さんざん聞かされましたからね」

 すでにその頃からおは朝信者となっていた緑間から毎日のように、それこそその内耳にたこが出来るのではと思う程に聞かされ続けたのだから忘れるはずもなかった。

「そうか…そうだな。礼を言うのだよ黒子」

 僅かに緑間の頬が緩んで、硬くなっている表情が緩んだように見えた。

 少しは喜んでくれているのか、だとしたら嬉しい。素直にそう感じれた。火神や高尾に嵌められて贈るはめになったのだとしても、それを見れただけでも良かったと思える。
 この気に話してしまおうか。これを逃したら当面の間こういった機会には恵まれないだろう。

「緑間君」
「な、なんだ」

 ふいに真面目な顔つきになってこちらを見据えてくる黒子に緑間はどきりとした。視線を逸らしたい心情とは裏腹に、正面から見返してしまう。

「高尾君が、緑間君は僕が黄瀬君や火神君と仲良くしているのを見て彼らに嫉妬していると言ってました」
「嫉妬だと?」

 黒子は手に持っていたグラスをテーブルに戻した。コトリと鳴る音がやけに響いて聞こえた。

「いつもあんな態度に言動だしもしかしたら嫌われているのかもしれない。でも本当は自分のこともちゃんと見て欲しい。だけどどうしたらきっかけが掴めるのかわからない。」
「……」

 緑間は黒子の顔を見ていられなくなってきて、たまらずに手元に視線を落とした。

「高尾君から聞かされたので、実際君がどう思っているのかは知りません」

 あいつは黒子に一体なにを話しているのだ、余計なことばかりしてくれて。俯いてストラップをいじっている緑間の顔付きが段々と苦虫を潰したような表情になってくる。
 そんな緑間をじっと眺めていた黒子は深々と息を吐いた。

「めんどくさいです、君」
「は?」

 呆れかえったような声が頭上から降ってきて思わず顔を上げた。
 憮然とした表情でこちらを見ている黒子と目が合う。

「めんどくさいって言ってるんです、いちいちそんな事で嫉妬だなんて黄瀬君や火神君にもいい迷惑です。君と僕との問題なんですから、関係のない人を巻き込まないでください」
「巻き込んでなどいないだろう」
「いいえ、もう十分巻き込んでます。高尾君は火神君にもメール送ってましたよ。誕生日プレゼントの件とは別に。物好きなんだか世話焼きなんだか知りませんけどね」
「なにをやっているのだよ高尾は…」
「ちなみに今日の午後からは秀徳高校は部活が休みだという情報も彼からですね」

 頭を抱えたい衝動に駆られるが、テーブルに肘を付いて皺の寄ってきた眉間を押さえる行為で耐えた。
 学校で会ったらきつく言ってやろう。電話やメールよりも直接本人の顔を見て怒鳴ってやりたい。もっとも一夫的に怒鳴ったところでひょうひょうと受け流されてしまいそうだが。

「君の方がなにをやっているのだ、です」

 そんな緑間を眺めていた黒子が苛立たしげに言い放つ。

「めんどくさいんですよ」
「それはさっき聞いたのだよ」
「高尾君から普段の君はどんなだか間接的に聞くのもです。彼にアドバイスされたから送ったメールなんていりません」
「いやあれは…」

確かにきっかけは高尾からのアドバイスになるのだろうけれど、ただそれだけであって、あれ以降毎朝黒子にメールを送っていたのは自主的なものだ。黒子の体調が気懸りだったからと正直に言い出せなくて口籠ってしまう。

「言いたいことがあるのなら、遠回しで構わないから直接僕に話してください。高尾君を理由にしないでください、むかつきます」

 黒子は言い淀んでいる緑間に向かって柄にもなく捲し立てたが、言うだけ言って満足したのかふっと一息ついた。

「僕結構短気なんですよ」
「知っているのだよ」

 いつの間にか前のめり気味になっていた黒子は、居住まいを正すと改めて緑間の正面を見据えた。

「僕は緑間君が好きなんだと思います。だからむかついてるっていうのは、きっと高尾君に対する嫉妬からくるものだと思います。めんどくさいので諦めて認めてみました」
「黒子…?」

 呆気に取られて黒子を見返すとさっきとは打って変わって、静かで穏やかな面持ちを浮かべている。ああこんな顔を見るのはいつ以来だろうかと考えながら、告げられた内容を脳内で繰り返した。

「…好き?」
「君が好きだと言ってるんですよ」
「好きだと?」
「友人としての好きではなくて…」
「い、いやわかったのだよ」

 そう何度も言われなくても流石に理解した。自分でも今しがた告げられた言葉を確認するように繰り返し呟いていた。

「お互い様ですね」

 さっさと認めてしまえば良い。素直に認められなかっただけで、誰かに言われなくても本当は分かっていたのだと思う。
 黒子自身もそうだった。
 ぼそぼそと緑間の口元が動いているのを眺めながら、返答を促してみる。

「じれったいですよ、緑間君。違うんですか?」
「…違わないのだよ」
「ですよね」

段々と頬が紅く染まっていく緑間に満足げに頷いた。

「君は言ってくれないんですか?」

 何をだなんて愚問だろう。

「…好きだ」
「誰をですか?」
「黒子がだ。お前が好きだ」
「良く出来ました」

 本当は真正面から告げて欲しいけれど、黒子以上に照れ屋な緑間には至難の技だろう。項垂れたままでの返答だったが今はそれで良しとしよう。

 黒子はテーブル越しに身を乗り出すと、緑間の前髪を両手で左右に掻き分けて現れた額に口付けた。

「ご褒美ですよ」

自分でやっておきながら段々と照れてきてしまう。茫然としている緑間から目線を外して再び腰を下ろし掛けたところで左手を掴まれた。右肩にも手を掛けられ中腰の体制で固定される。反射的に顔を上げれば眼前に緑間の顔が迫ってきていたので、思わず目を瞑ってしまった。

「どうせなら、こっちにしておけ」

 黒子の薄い唇に緑間は己の唇を押し当てた。ただ唇を合わせただけの接吻なのに緊張してか黒子を押さえている手が強張っている。
 ゆっくり黒子から身を放した。

「緑間君少し唇荒れてますよ」
「…お前もなのだよ」

 指摘されてくすりと笑みを漏らす。

「じゃあ今度、リップでも買いに行きますか」
「そうだな」
「ストラップはちゃんと携帯に付けておく」
「僕も持ってるんで、ぶら下げておきますね」

 至近距離で囁き合うのはなんともくすぐったかった。

「せっかくだからもう一回しておきませんか」

 まだ至近距離にいる緑間に黒子は腕を伸ばして首と肩に回した。

「別に何度だって構わないのだよ」

 応えるべく緑間も黒子の身体を引き寄せる。
 テーブルの上に置きっ放しになっているストラップの入っていた小袋がカサリと音を立てた。

 

 

 

「あれー真ちゃん携帯にストラップ付けてる。今までなーんも下げてなかったのに、どうしたのそれ?しかも星型の可愛いストラップ!」

 翌週の月曜日の朝練前に部室で携帯を弄っていた緑間の背後から、高尾が手元を覗き込んできた。

「煩いのだよ、高尾」
「あ、なんか模様も入ってる。なにそれ」
「これは蟹座なのだよ」
「あーなるほどね。買いに行ったのそれ?」

 恥ずかしくなかったのかとからかってくる高尾を見下ろして、先日の黒子とのやり取りを思い出した。釘を指しておいた方が賢明だろう。

「これは貰ったのだよ。それより高尾、いちいち黒子と俺との事で口を出してくるな。火神にも色々言っているようだが、いらんことをするな」
「あ、ばれた?」
「黒子から聞いたのだよ」

 黒子の名を聞いたとたん何を悟ったのか、よっしゃ!とガッツポーズを取った高尾の後頭部を小突いてやった。

 

 

 

「お、なんだお前結局それ付けてんのか」

 黒子が肩から提げている、スポーツバッグのポケットから頭を出していた携帯を見ながら火神が声を掛けてきた。真新しい星型のストラップがぶら下がっている。

「…そうですね」
「始めっから馬鹿正直になってれば良かったんだよ」
「僕何もまだ話してませんけど」

 隣を歩きながら髪をぐしゃぐしゃと撫でてくる火神を恨めしそうに見上げる。

「なんの話だよ」
「君わかっていてわざとやってるんでしょう」
「だからなんの話だよ」

 ムカついてきたので、手刀をいつもより力を込めて脇腹に当ててやった。
 携帯電話がメールの着信を知らせてくる。きっと緑間からのメールだろう。脇腹を押さえながらもこちらをにやりと見下ろしてくる火神を無視して引っ張り出して確認すると、いつものおは朝占いの結果と今日は何時頃部活が終わるのかという内容だったので、後で確認してまたメールを送りますと返信した。

「おは朝占いは獅子座が最下位でしたし、今日は授業で沢山指されそうですね、火神君」

せいぜい頑張って下さいねと火神にしてみればちっとも有り難くない文句も付け加えておく。
 今朝はおは朝占いを見ていたので結果は知っていた。一番は蟹座で水瓶座は五番目だった。絶好調でシュートを決める緑間が目に浮かんでくる。

 放課後会ったら褒めてあげよう。そう決めて歩き出した。


 終


Mainへ