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「おー色々あんのな」 黒子も火神もこういった店には縁がなかった。物珍しげに店内を物色してまわる火神にくれぐれも商品を壊さないように、と釘を指して黒子も見てまわる 「これは牡羊座ですね」 元の位置に戻して他のストラップを確かめていくと、しっかりと十二星座分飾ってあった。蟹座のマークが入ったストラップを取ってみる。白一色のシンプルなものだった。 「お、良いのあったのか」 緑間に贈るやつ、と火神が声を掛けてきた。火神もなにか購入したようで店のロゴの入った袋を片手にぶら下げていた。 「僕緑間君に贈るの探してるって言いましたっけ」 変なところで勘が働く男だと、肩を落とした。きっと雑貨屋に行くと言った時点で気付いていたのだろう。 「違うのか」 もはや隠す意味がないと諦めたらしく、正直に答えた黒子の手元をどれと覗き込んでくる。 「星型のストラップか。なんだそのマークみたいなの」 棚から水瓶座のストラップを取り外したが、ぱっと火神は黒子の手から取り上げて目前まで掲げてしげしげと眺めた。 「ふーん悪くねぇんじゃね。お前も自分の買ってったら?折角だから揃いにしとけよ、恋人同士で揃えたりすんだろ」 火神の手から取り返そうと手を伸ばす。当然届くはずもなく空しく宙を切る。この身長差が憎たらしい。 「じゃあ俺が買ってやるよ」 にやにやと人の悪い笑みを浮かべている火神に腹が立ってくる。 「火神君に買って貰わなくても自分で買うから結構です」 むきになって思わず口走ってしまった。しかしもう後の祭りだ。引っ込みが付かない状況に溜息を吐いてレジに向かった。 気付くともう七月六日になっていた。先日購入したプレゼントは自室の机の引き出しに閉まってある。明日は土曜日で部活は午前中のみとなり午後からと日曜日はオフになっていた。今現在は予定は入っていない。いつもなら自宅にこもって休息を取りつつ読書に勤しんでいるところだ。 「…何か用か」 むっつりとした声色で緑間が応答してくる。これが黒子以外の人物ならもっと愛想よく対応しろと言いたくもなるのだろうけれど、いつもの事だと気にも止めなかった。 「明日の午後空いてますか?」 お休みの最中に悪いのでと。一言付け足しておいた。 「……わかった」 間を置いての返答が返ってきた。まだなにか言いたげに口籠っていたので聞こえなかったふりをして電話を切った。明日会って直接話せばいいのだ。 「こんにちは」 仏頂面をした緑間が中から出てきた。そのまま無言でリビングに通される。 「これ、ご家族にどうぞ」 皆さん甘いのお好きでしたよねと、ケーキ入りの箱が入った袋を渡した。簡素に礼を述べて受け取った緑間は台所に赴き、冷蔵庫を開けて箱を納め代わりにお茶の入ったボトルを取り出した。氷を入れたグラスにお茶を注ぎリビングへと戻ると、ソファーに座っている黒子の前に置く。 「ありがとうございます」 緑間は黒子の向かいのソファーに腰を下ろすと自分用に注いできたお茶を啜った。 「…たいした事では、ないのですが」 黒子は脇に置いていたバッグを引き寄せてチャックを開けると、中から綺麗にラッピングされた小ぶりの袋を取り出す。それを向かいに座っている緑間に差し出した。 「なんなのだよこれは」
一向に受け取ろうとしない緑間にじれて、テーブルの上に置くと彼の手元まで滑らせてやった。緑間は暫く無言で包みを眺めていたが、グラスをテーブルに戻して手を伸ばした。 「ラッキーアイテムの足しくらいにはなると思いますよ」 緑間の片手に調度おさまるくらいの大きさだ。ラッピングを丁寧に解く手を休めずに問う。 「火神君から…高尾君が僕は緑間君に誕生日に何を贈るのかメールで聞いてきたって話をされましてね。それでもうすぐ君の誕生日だったなって、思い出したんですよ。その後でたまたま本屋で高尾君に会ったんですけど、その時も言われました。彼の中では僕が君に贈るのは確定事項だったようですよ。根負けしただけかもしれませんね」 部活が終わった後の帰り際に『真ちゃんの願い事なんか叶うと良いな!』とやけににこにこしながら渡された。 「これは…ストラップか?」 言われて見れば表面には確かに蟹座の模様が刻んである。 「覚えていたのか、俺の星座が何だったのかを」 すでにその頃からおは朝信者となっていた緑間から毎日のように、それこそその内耳にたこが出来るのではと思う程に聞かされ続けたのだから忘れるはずもなかった。 「そうか…そうだな。礼を言うのだよ黒子」 僅かに緑間の頬が緩んで、硬くなっている表情が緩んだように見えた。 少しは喜んでくれているのか、だとしたら嬉しい。素直にそう感じれた。火神や高尾に嵌められて贈るはめになったのだとしても、それを見れただけでも良かったと思える。 「緑間君」 ふいに真面目な顔つきになってこちらを見据えてくる黒子に緑間はどきりとした。視線を逸らしたい心情とは裏腹に、正面から見返してしまう。 「高尾君が、緑間君は僕が黄瀬君や火神君と仲良くしているのを見て彼らに嫉妬していると言ってました」 黒子は手に持っていたグラスをテーブルに戻した。コトリと鳴る音がやけに響いて聞こえた。 「いつもあんな態度に言動だしもしかしたら嫌われているのかもしれない。でも本当は自分のこともちゃんと見て欲しい。だけどどうしたらきっかけが掴めるのかわからない。」 緑間は黒子の顔を見ていられなくなってきて、たまらずに手元に視線を落とした。 「高尾君から聞かされたので、実際君がどう思っているのかは知りません」 あいつは黒子に一体なにを話しているのだ、余計なことばかりしてくれて。俯いてストラップをいじっている緑間の顔付きが段々と苦虫を潰したような表情になってくる。 「めんどくさいです、君」 呆れかえったような声が頭上から降ってきて思わず顔を上げた。 「めんどくさいって言ってるんです、いちいちそんな事で嫉妬だなんて黄瀬君や火神君にもいい迷惑です。君と僕との問題なんですから、関係のない人を巻き込まないでください」 頭を抱えたい衝動に駆られるが、テーブルに肘を付いて皺の寄ってきた眉間を押さえる行為で耐えた。 「君の方がなにをやっているのだ、です」 そんな緑間を眺めていた黒子が苛立たしげに言い放つ。 「めんどくさいんですよ」 確かにきっかけは高尾からのアドバイスになるのだろうけれど、ただそれだけであって、あれ以降毎朝黒子にメールを送っていたのは自主的なものだ。黒子の体調が気懸りだったからと正直に言い出せなくて口籠ってしまう。 「言いたいことがあるのなら、遠回しで構わないから直接僕に話してください。高尾君を理由にしないでください、むかつきます」 黒子は言い淀んでいる緑間に向かって柄にもなく捲し立てたが、言うだけ言って満足したのかふっと一息ついた。 「僕結構短気なんですよ」 いつの間にか前のめり気味になっていた黒子は、居住まいを正すと改めて緑間の正面を見据えた。 「僕は緑間君が好きなんだと思います。だからむかついてるっていうのは、きっと高尾君に対する嫉妬からくるものだと思います。めんどくさいので諦めて認めてみました」 呆気に取られて黒子を見返すとさっきとは打って変わって、静かで穏やかな面持ちを浮かべている。ああこんな顔を見るのはいつ以来だろうかと考えながら、告げられた内容を脳内で繰り返した。 「…好き?」 そう何度も言われなくても流石に理解した。自分でも今しがた告げられた言葉を確認するように繰り返し呟いていた。 「お互い様ですね」 さっさと認めてしまえば良い。素直に認められなかっただけで、誰かに言われなくても本当は分かっていたのだと思う。 「じれったいですよ、緑間君。違うんですか?」 段々と頬が紅く染まっていく緑間に満足げに頷いた。 「君は言ってくれないんですか?」 何をだなんて愚問だろう。 「…好きだ」 本当は真正面から告げて欲しいけれど、黒子以上に照れ屋な緑間には至難の技だろう。項垂れたままでの返答だったが今はそれで良しとしよう。 黒子はテーブル越しに身を乗り出すと、緑間の前髪を両手で左右に掻き分けて現れた額に口付けた。 「ご褒美ですよ」 自分でやっておきながら段々と照れてきてしまう。茫然としている緑間から目線を外して再び腰を下ろし掛けたところで左手を掴まれた。右肩にも手を掛けられ中腰の体制で固定される。反射的に顔を上げれば眼前に緑間の顔が迫ってきていたので、思わず目を瞑ってしまった。 「どうせなら、こっちにしておけ」 黒子の薄い唇に緑間は己の唇を押し当てた。ただ唇を合わせただけの接吻なのに緊張してか黒子を押さえている手が強張っている。 「緑間君少し唇荒れてますよ」 指摘されてくすりと笑みを漏らす。 「じゃあ今度、リップでも買いに行きますか」 至近距離で囁き合うのはなんともくすぐったかった。 「せっかくだからもう一回しておきませんか」 まだ至近距離にいる緑間に黒子は腕を伸ばして首と肩に回した。 「別に何度だって構わないのだよ」 応えるべく緑間も黒子の身体を引き寄せる。 「あれー真ちゃん携帯にストラップ付けてる。今までなーんも下げてなかったのに、どうしたのそれ?しかも星型の可愛いストラップ!」 翌週の月曜日の朝練前に部室で携帯を弄っていた緑間の背後から、高尾が手元を覗き込んできた。 「煩いのだよ、高尾」 恥ずかしくなかったのかとからかってくる高尾を見下ろして、先日の黒子とのやり取りを思い出した。釘を指しておいた方が賢明だろう。 「これは貰ったのだよ。それより高尾、いちいち黒子と俺との事で口を出してくるな。火神にも色々言っているようだが、いらんことをするな」 黒子の名を聞いたとたん何を悟ったのか、よっしゃ!とガッツポーズを取った高尾の後頭部を小突いてやった。 「お、なんだお前結局それ付けてんのか」 黒子が肩から提げている、スポーツバッグのポケットから頭を出していた携帯を見ながら火神が声を掛けてきた。真新しい星型のストラップがぶら下がっている。 「…そうですね」 隣を歩きながら髪をぐしゃぐしゃと撫でてくる火神を恨めしそうに見上げる。 「なんの話だよ」 ムカついてきたので、手刀をいつもより力を込めて脇腹に当ててやった。 「おは朝占いは獅子座が最下位でしたし、今日は授業で沢山指されそうですね、火神君」 せいぜい頑張って下さいねと火神にしてみればちっとも有り難くない文句も付け加えておく。 放課後会ったら褒めてあげよう。そう決めて歩き出した。 |