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「おっテッちゃん」

 部活が終了してからマジバに寄るという火神と途中で別れてよく利用する本屋に立ち寄った。今日はご贔屓にしている作家の新刊の発売日となっていた。
 高尾に声を掛けられたのは、お目当ての文庫本を無事見付けて、ほくほくとした気分で会計を済ませるべくレジへと向かっていたところでだった。

「こんばんは、高尾君」
「なんか買いに来たのー?」
「これですよ」

 文庫本を高尾の前に差し出したが、あまり興味がないのかふーんと表紙を一瞥だけして視線を黒子へと戻した。
 高尾の姿を見ているうちに、昼間の出来事を思い出した。せっかくだし聞いてみるか。

「あの高尾君、火神君から聞いたんですけど緑間君の誕生日――」
「そうそう!真ちゃんの誕生日プレゼントなんだけどさあ!」

 高尾は黒子が発言し終える前に被せるように嬉々として話し出した。

「テッちゃんなにやんの?色々考えてるんだけどさぁ、どうしようかと思って」
「高尾君の中では僕も緑間君になにか贈ることになっているんですね」
「へ、違うの?」
「生憎と火神君から言われるまで考えてもいませんでしたが。」
「えーマジで!?」

 そりゃ予想外と大げさに驚いて見せる高尾に黒子は冷めた目を向けた。

「マジです。君は一体どんな妄想を繰り広げているんですか」
「そりゃもう真ちゃんのハートを射抜くが如しのプレゼントかな!」

 これは当然わざと言っているのだろうが、高尾は普段己と緑間の関係をどんな目で見ているのか。会話も殆どせずお世辞にも仲がよさげには到底見えないと思う。

「あいにく射抜くつもりはありませんよ」
「つもりなんだー。だったら実際はどうなるんだかわからないじゃん」
「揚げ足取りですね」
「なんとでも」

 高尾には適当に話を流して終わりにするという手がどうにも効かない。これが火神や黄瀬だったなら、ああそうと深く追求もせずに終わってくれそうなものを。
 取り敢えず話題を最初に戻そう。

「で、そういう高尾君はなにを贈る予定なんですか」
「俺はねーラッキーアイテムになりそうなのが妥当かなーって」
「悪くないんじゃないですか」

 化もなく不可もなく、今後の緑間の役にも大いに立ちそうだ。ラッキーアイテムは毎日違うものが選ばれている。該当しそうな品物ならいくつあっても困らないだろう。

「だからどうせだったらテッちゃんと被らないほうがいいじゃんか」
「ラッキーアイテムになり得る物なんて山のようにあるんだから、早々被らないと思いますよ。第一緑間君だって相当な量のアイテムを普段から集めてるじゃないですか」

 中学の頃緑間の家に訪れたことがあったが、自室に専用の棚まで設置してあった。置ききれない物はリビングや玄関に飾ってあったりもした。

「まぁそうなんだけどさー。あと真ちゃん占い好きだからさ、そっち方面のアイテムとか」
「緑間君は占いを見るのは好きですけど、自分ではやりませんよ」

 占い電波は受信専用で自分からの発信は今のところまだしていない。しかし緑間の占いは説得力は無駄にありそうだ。

「そうなんだよなーついでに占いの道具って結構な値段するしさ」
「ピン切りでしょうけど本格的なのは相当するでしょうね」

 高校生のお小遣いはたかだか知れている。到底手が出せそうにもないものが多そうだ。だよねーと頷く高尾もそれはさすがにわかっているようだ。

「やっぱラッキーアイテムだな!真ちゃんが持ってなさそうなやつ」

「君が良いならそれで良いと思いますよ」

 緑間が現在収集しているアイテムと被る可能性もないわけではないが、色違いのもあるだろうし予備だと言えばなんの問題もないだろう。

「で、テッちゃんは?」
「まだ言ってるんですか君は」

 そんなに緑間に誕生日プレゼントを贈って欲しいのか。
 会計を済ませて店外に連れ立って出た。途中までは一緒の道だから話しながら歩こうと促された。

「んーだってさぁ真ちゃんなんだかんだ文句言いながらもテッちゃんのことさ、普段から気にしてんのよ。口調があれだからあんま良い印象は受けてないだろうけどさ」
「もとからそうですよ、緑間君は」

 おかげでしょっちゅういらぬ誤解をされていた。損な性格だとは思うが、あれは一生治らない気もする。冷たい奴、などと陰口を叩かれるのも決して少なくはない。
 しかしそれに対してそうではないと言い改めもしなかった。

「テッちゃんとは相性悪いって日頃から口癖みたいに言ってるけど、少なくとも嫌ってはいないでしょ」
「はあ」
「そうだって。真ちゃんはテッちゃんのこと嫌いなんじゃなくて苦手なんだと思うけどなぁ」
「僕も緑間君は苦手な面があるのでお相子ですね」
「いやまぁそれは置いといて」
「真ちゃんの言う苦手っていうのはさ、好き過ぎてどうして良いのかわからないから苦手ってことにしてんじゃないのかなー」

 好き過ぎてってなんだ。藪から棒になにを言い出すのか。
 文句の一つでも言ってやろうかと高尾の顔を見上げたが、冷やかしやからいではなさそうだとその表情から悟った。彼にしては珍しく、ひどく真面目な笑みを浮かべていた。こんなにも思っていてくれる友人に恵まれて緑間は幸せ者だ。

「それ本人に言ったら、怒られますよ高尾君」

「はははーまぁ絵に描いたようなツンデレだし」

 正直に思うまま褒めたら当然だとか出来て当り前だと素直に受け取らず、そのくせ顔を赤くしていた。
 始めのころはなんて嫌な男だと心底むっとして、もう褒めてやるものかと憤慨していた。けれど同じ時を過ごす間にあれは単なる照れ隠しで、緑間なりに礼を言っていたのだろうと理解するようになっていった。

「だからさぁ贈ってやってよ。すっげー喜ぶよ真ちゃん」
「ほらこの前テッちゃんにおは朝占いのメール送ったじゃん?あれの返事くれたでしょ。真ちゃん返ってくるとは思ってなかったみたいで、届いたときびっくりしてたよ」
「短文でしたけどね」
「顔には出さないように冷静装っててたけど、内心嬉しくてしょうがなかったんだぜ、あれ。あの日放課後にあった練習試合でちょー気合い入ってていつも以上にシュート決めまくってたぜ」

 実際その試合を見てはいないがなんとなく想像はつく。おは朝占いで蟹座が一位だった日のようなものだろう。あんな短いメールでそんなに嬉しかったのか。

「…高尾君、君が緑間君と仲が良いのは重々承知していますが、緑間君が送ったメールの内容まで把握してるんですか?」

 送り先どころか内容までも知っているような話しぶりだ。

「まさかぁ。さすがにそこまで口出しはしないよ。ただなんかもんもんしてたっぽいから気になるならメール送っちゃえよってアドバイスはしたけどね」

「もんもん?」

「そ、なんで黄瀬君とはどっか出掛けたりメール交換してるのに自分とはなーんもないのかなぁ。同じキセキの世代なのにずるいなぁみたいな」
「ずるいと言われましても…」

 黄瀬とはキセキの世代の中ではわりかし親しく付き合っていたし、それは緑間もわかりきっているだろうに。今更ずるいと言われても困ってしまう
 大概は黄瀬から誘われて出掛けているのだし、メールにしても余程の用件がなければ黒子から黄瀬に送りはしなかった。内容によっては目を通しただけで返信しない場合もある。

「もっとさぁテッちゃんとお近づきになりたいしちゃんと見て欲しいんだよきっと。でもどうしたらいいのかわからなくてもんもんしちゃってるのね」

 あんな態度を取りながら、実は好意的に見ていたし親しくもなりたかったというのか。あの緑間が。

「真ちゃんあの通りの性格だしね」

しばらく歩いたところで十字路に差し掛かった。高尾とはここから左右逆方向に別れる。

「それに案外外れてないと思うんだよね」

 曲がり角に設置されている外套の下で高尾は穏やかに笑みを浮かべていた。

「テッちゃんもたまには素直になってやってよ」
「余計なお世話ですよ」
「ははは、似た者同士な面あるしねー二人とも。あ、じゃあねテッちゃん」
「はい、お休みなさい高尾君」

 お互い背を向けて帰宅するべく歩きだした。

「似た者同士…ね」

 言われてみればそうかもしれない。

 ふと火神もそう見ていたのだろうかと昼休みの会話を思い出した。緑間と高尾とマジバで居合わせる機会が普段から割と頻繁にある。同席して常に傍らで緑間とのやり取りを見ていた。案外第三者の方が自分達をよく見ている場合がある。客観的に見ている分、より悟ってしまうのかもしれない。

「テッちゃん!」

 数歩進んだ地点で背後から呼び止められた。振り返ると高尾が少し離れた位置から手を振りつつ声を上げていた。

「さっきのなんだけどさぁ、あれ仲間だとかお友達としての好きじゃないからねー!勘違いしないであげてねー」

 それだけ言うと、バイバイと足早に去って行った。

「友情としての好きじゃないってことですか」

 だったら後残るのはなんだ。
 自宅に到着するまでの間つらつらと思考を巡らせていた。玄関で靴を脱いで自室のベッドに腰を下ろすころにはなにか贈っても良いかもしれないと心が傾いていたが、その辺りでやっと理解し始めた。

「好きってそっちの好きですか」

 ひょっとしなくても火神と高尾はとっくに気付いていたのか。
 今日一日の彼らと交した会話を思い出しながら顔から火が出そうな思いで湯船に浸かっていた。いつもよりお湯の温度が熱く感じるのは、設定を高くして沸かしたからではきっとないだろう。人から指摘されて自覚するなんて。
 緑間の目を見て話せないのはなんでかなんて、わかりたくもなかった。どう頑張ったってその結論にしか至らない。その上緑間も自分を好いている、と。
 誕生日にプレゼントを贈ってやれというのだって、両想いなんだからなんの問題もない、この機会に告白でもしてきたらとけしかけているのだろう。

「明日どんな顔して火神君に会えば良いんでしょう…」

 緑間の顔をちゃんと見る以前に火神の顔も見れなくなりそうだ。悔しいので授業中居眠りしていても起こしてやらないと心に決めた。

 


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