|
※去年発行しました同人誌の再録となります。完売済みです。
アイリス
梅雨の合間の晴れ空も暫くお目に掛かれず、そろそろ青空が恋しくなってきた今日この頃。
夏のインターハイ予選で再開してからというものの、幸か不幸かやたらと部活帰りや休日に出掛けた先で黒子と鉢合わせすることが多くなった。というか、中学を卒業して以降は街中でバッタリ出会う機会などまずなかったというのにどうしたものか。緑間と行動を共にする率がやたら高い高尾が黒子を目聡く見付けては、声を掛けているためなのもあるだろう。
高尾に言わせれば「見て見ぬふりをしてただけじゃないの」だそうだ。
学区が一緒なのだから、普段から全く顔を合わせる場面がなかったというのがまずおかし
い。利用している店だってほいほい変わるものでもないし、なんだかんだで出先で出会うものだ。
「真ちゃんがわざと避けてただけじゃねー」
そう言われてしまえばそうなのかもしれないと、反論もままならなかった。もっとも、
「まぁ真ちゃんだけじゃなくて黒子君もなんだろうけどね」
との高尾の発言には自分のことは棚に上げて、苛立ってしまった。
黒子は部活帰りには火神と、休日には一人でいることが多いようだがたまに他のチームメイトや黄瀬が一緒の場合もある。
黄瀬とも中学時代黒子が部活を退部してから高校に入ってからの練習試合で再開するまでは会っていなかったようだが、それからはちょくちょく会っているようだった。お互いにオフが重なった休日には約束を取り付けて出掛けたりしているらしい。
自分との接触は避けている癖に、同じくキセキの世代の黄瀬や現在のチームメイト達。とくに今の黒子の光である火神と一緒にいるのが気に食わないとでも?
「それって嫉妬じゃないの、真ちゃん」
しかめっ面で自問自答を繰り広げていたが、それに目聡く気付いたらしい高尾から自分で気付いてなかったのかと、笑い飛ばされてしまった。
何に対しての嫉妬だというのか。黄瀬や火神に対してか。己も対等に見て欲しいという願望なのだろうか。
そうして緑間び知らぬ間に高尾は黒子と連絡先を交換し合い、頻繁ではないにしろメールのやり取りをするようになっていた。
なんでお前がと言えば、
「別に俺が誰とメールしていようが真ちゃんには関係ないっしょ。つーかそんなん言うなら真ちゃんもテッちゃんとメールすれば良いじゃん」
しかもいつの間にか高尾は黒子をプライベートでは『テッちゃん』と呼ぶようになってい
た。高尾は親しい相手にしかあだ名を付ける事はない。それほどの仲になっていたというのか。
気に食わないという感情が気付かぬうちに顔に現われていたようで、
「なに焼きもち妬いてんの?だったら真ちゃんもテッちゃんを名前呼びするとかあだ名付けるとかしてみたら?」
「焼きもちだと?ふざけたことを。だいたい黒子をあだ名だの名前で呼ぶだのあり得ないのだよ。そんな仲ではない」
「中学の頃もなかったの?」
「あるわけないだろう。黒子は始めから黒子だ。あいつも最後まで緑間だったのだよ」
「えーでも黄瀬君はあだ名呼びだったじゃんか。黒子っちって」
「いつ聞いたのだよ」
「たまーにマジバで火神とテッちゃんと黄瀬君と会うんだよね」
たまにとはいつだ。緑間はそんな場面に遭遇した覚えはない。自分が居なかったときに会っていたのか。
「別に真ちゃんを仲間外れにしてるとかじゃねーから」
「そんな事はわかっているのだよ」
高尾はそのような真似をする男ではない。普段はからからとよく笑う人付合いの良い明るい青年だ。
電波だの変人だのと揶揄する人間も少なくない中、気にもせずに接してくる。キセキの世代として特別に扱うこともなく、あくまでも同学年の部活仲間や友人としての立場を崩さなかったしそんな高尾に対して好感も抱いていた。
「だから気になるのならメールして聞いてみれば?」
そんなある日部活の休憩時間にそう切り出してきた。
タオルで滴る汗を拭う緑間に、冷えたスポーツドリンクを差し出しながら高尾も空いた方の手で同じく汗を拭っていた。礼を言いドリンクを受け取った。よく冷えていて渇いた喉を潤してくれる。
一息つくと体育館の壁に寄り掛かるように座っている高尾の隣に腰を下ろした。
「そんな下らない内容のものを送れるか」
送ったところで『君には関係ありません』と返ってきそうなのが送る前からわかっている。
「じゃあさぁ、真ちゃんお得意のおは朝占いとかは?」
お得意とはなんだ。失礼な。
額から伝ってきた汗を拭き取りつつ軽くにらんでやったが気にする様子も見られない。
「ほら、この調子だと明日も熱そうじゃん。湿度も高いだろうし」
「まぁそうだろうな」
梅雨真っただ中なのに気温だけは真夏並みだ。その上湿度も高いため不快度指数は半端じゃない。
黒子の通っている誠凛高校も同じ都内なのだから環境はたいして変わらないだろう。きっと今頃汗だくになりながら部活に励んでいるに違いない。
「俺らもそうだけど熱中症には気を付けないと駄目じゃんか」
「当然だろう」
こんな気候だからこそ、いつも以上に常に気を付けて水分補給も小まめにしなければならない。スポーツをしていようがいまいが、関係ない。
「だからさ、今日のおは朝占いの結果と熱中症には気を付けるのだよ!とかって書いて送ってやれば?」
「むぅ…」
「ほらテッちゃん中学からバスケやってる割に細くて白くて、言っちゃ悪いけど貧弱っぽくみえるじゃん。体力もないしさー」
確かに高尾の言うことはあながち間違ってはいない。中学の頃も練習について行くのがやっとで、ときに倒れる場合もしばしばあった。
さすがにあの頃よりは体力も上昇しているだろうけれど、ほんの微々たるものだろう。黒子のスペックではいくら練習を重ねロードワークをこなしても、目に見えた変化はそう表れはしない。
黒子本人がそれを一番分かっているのだろうけれど、それでももくもくと文句も言わず練習に励む姿を緑間は好ましく思っていた。
誰もその努力を認めようとせず無駄だと切り捨てても少なくとも自分は、自分だけは評価している。いつもそう思っていた。
もっとも思っていただけで黒子に伝えることは彼と道を分かつまでなかった。伝えていたらなにか変っていたのだろうか。
否、それはきっとあり得ないと頭と軽く振って思考を追い出した。
「それに面と向かってテッちゃんに言っても、そんな事は君に言われなくてもわかってます!とかで終わりな感じしない?テッちゃんも真ちゃんほどではないけど、ツンデレなとこあるしねー」
「一言多いのだよ!余計なお世話だ!」
緑間自身も多少は自覚していたし、黒子にもそういう面があるのは重々承知していた。
緑間がいくらいっても素直に受け取りはしなかった。そのくせ黄瀬や桃井からの差し入れや気遣いはすんなりと受け取っていた。
忠告の内容は同じようなものなのに、なぜ緑間の言うことは一向に聞き入れないのか不満に思うときもあった。今思い出してもムカムカしてくる。
「聞いてるのー真ちゃん」
「俺の隣でそれだけ大声でしゃべっていれば否が応でも耳に入ってくるのだよ」
「そう?あ、じゃあさ、俺代筆したげよっか?」
「は?」
「真ちゃんの代わりにテッちゃんに送るメール打ったげるよ」
「…馬鹿かお前は」
「遠慮すんなって!ちゃんと真ちゃんっぽく語尾になのだよって付けるしさ」
名案じゃね?とおどけてみせる高尾に緑間は心底呆れかえってくる。なにがしたいのだ一体。
右手に携えていたタオルを高尾の顔面に投げつけてやった。あっさりと受け止めてられてしまったが。
「断固拒否する」
「なんでよーいいじゃん。あ、真ちゃんもしかしてテッちゃんにメールすんの恥ずかしいと
か」
「そんな訳あるか。なぜメールごときで恥ずかしがらねばならんのだよ」
「だよねーさすがにないよねー」
「お前に打たせるくらいなら、自分で送るのだよ!」
そう発言したあとで気が付いた。高尾の浮かべる表情が、見る間にしてやったり!と満面の笑みを浮かべていくのに。
怒りの湧いてくるままに怒鳴ってやろうかとした矢先、休憩時間の終了を知らせるホイッスルが体育館内に響き渡った。キャプテンが集合を促している。
ナイスタイミング!と高尾がタオルとスポーツドリンクを床に置いて立ち上がり、いそいそと集合場所へと向かっていく。
向ける矛先を失った怒りは早々に治まらず、部活の間中イライラしていた。自主練習で放つシュートも普段より荒くゴールを潜っていた。
「くそっ」
まんまと嵌められてしまった。
なぜそんなに黒子にメールを送らせたいのだ。
しかしもう後の祭りだ。これで黒子にメールを送らなかったらなんで送らなかったのかとしつこく追及してくるだろうし、実際に送るまでネチネチと絡んできそうだ。
「ちゃんと送れよー」
「しつこいのだよ!」
結局部活終了後の帰り道、別れ際まであれこれとメールの話ばかり振ってきた。が、翌朝目覚めてみれば、いつにも増して蒸していた。寝汗もかなりの量をかいており、寝巻代わりに着用しているシャツもしっとりと湿っている。喉もからからだ。
制服に着替えて階下に降りると母親が朝食の支度をしていたので挨拶を告げてリビングのテーブルの椅子に腰を下ろす。
壁際に設置されているTVを見ると朝一の天気予報が流れている。今日も昨日と同じく気温も湿度も高いので、水分を小まめに補給し熱中症には十分注意しましょうとアナウンサーが注意を促していた。
母が用意してくれた食事を口にしていると、おは朝占いが始まった。蟹座の運勢はそこそこの順位だったのだが、水瓶座の順位は下から数えた方が早い位置についていた。
朝食を食べ終えて自室に戻り、今日のラッキーアイテムである木綿のハンカチを用意しているとふと昨日の高尾とのやり取りが思考を横切った。
熱中症…か。
一度気になりだすと駄目だった。
別に高尾に言われたからではない、決してないと緑間は自分に言い聞かせながら黒子にメールを送るために机の上に置いてある携帯に手を伸ばした。
携帯電話からメールの着信を知らせるメロディが流れる。朝から誰だろう、部活の連絡か黄瀬辺りだろうか。
朝練に参加するため誠凛高校へと向かっていた黒子は通学用のバックの中から携帯電話を取り出した。ぱかりと開いて確認すると予想外の人物からのメールが入っていた。
「緑間君から…ですか」
なんて珍しい。高校に入ってからは一度も送ってこなかったというのに。それは黒子も同じだったが。
「なんですかね一体」
題名が無いメールの内容は、今日のおは朝占いで水瓶座の運勢があまり良くないからラッキーアイテムでしっかりと補うようにと熱中症にならぬよう水分補給を怠るなというものだっ
た。ラッキーアイテムもしっかり記載されている。
急にどうしたのだろう。今までにだって熱中症になりそうな天気の日は何度もあったというのに。
取り敢えず、お気使いありがとうございます。君も気を付けてと手短に返信してバックに携帯を戻した。
「おおかた高尾君にでもなにか言われたんでしょうね」
おそらくこの予想は外れていないだろう。ため息交じりに呟いた。
高尾は街中で目聡く自分を見付けてはご親切に毎回のように声を掛けてくる。彼の能力はバスケットコート外でもある程度発揮されるようだった。
何度かそうやって発見されて話をしているうちに流れのまま互いの連絡先も交換してしまっていた。頻繁にやり取りはしていないが、高尾が送ってくるメールの内容は高確率で緑間についてだった。緑間君だから仕方がないと、いつも適当に返信している。
高尾とメール以外で話すときも自分達のことよりもバスケや緑間の話題が多かった。共通している点がそこなのだから当然なのだろう。しかしバスケ以上に緑間の話題を振られている。
緑間とは今はどうなのかとか、どこかで会ったり電話やメールはしているのかやらそんなに緑間と自分の関係性が気になるか。とくにここ最近よく聞かれている気がする。
良くも悪くも悪化もなにかしらの進展もないと思っているし、今後もそう変わりはしないだろう。
高尾から緑間の話を聞かされるたび、顔には出さないよう努めているがもやもやしてくる。
「なんだお前高尾に嫉妬してんのか」
以前に一度火神に言われたことがあった。下校の最中で一緒にいたときに高尾に会ったの
だ。
馬鹿なことをと適当に流し、まだなにか言いたげな火神を無視して先に歩きだした。逃げているようにも見えていたかもしれない。
その時の火神はからかいなどではなく、酷く神妙な顔つきでこちらを見下ろしていたのだ。
嫉妬だなんてそんな馬鹿な。そんな感情どうかしている。頭を振って思考を追い払うと、いつの間にか歩みを止めていた足を高校へ向かうべく前へと動かした。
「そういやもうすぐ七夕とかいうやつなんだってなー」
「そうですね、七月七日ですからあと一週間とちょっとですね」
昼休みに屋上で火神と昼食を食べていた。今日は曇ってはいたが雨は降りそうにもないし、風も多少あるから教室で食べるよりはマシだろうと、連れ立って屋上へとやってきていた。
そよそよと流れる風は湿気を含み生温くもあったが、快適な昼休みを提供するのに一役立っている。フェンスに寄り掛かって並んで座っていた火神がふと思い出したように話し出した。
黒子は昼食用のサンドイッチをすでに食べ終えてしまっていたが、隣に座る火神はまだもくもくと大量のパンを胃におさめ続けていた。
「七月七日ってさぁ」
「はい」
口の中に物を入れたまま喋り始めるので行儀が悪いですよと、傍らに置いてあった火神のパックジュースを差し出した。
素直に火神はそれを受け取るとパンをジュースで胃に流し込んで一息つくと改めて話し出す。
「緑間の誕生日なんだってな」
「え…」
言われてからはたと思い出した。確かに七月七日は緑間の誕生日であることを。
しかしそれが火神の口から出るとは思いもしなかった。
「確かにそうですけどよく知ってましたね」
「高尾から聞いた」
「高尾君から…ですか」
ああなる程とは思った。自分が日頃街中で会うのだから、当然火神もそういった機会はあるだろう。
「誕生日なにやったら良いかって聞かれたんだけど、そんなん知るかっての」
「はあ…」
親しい友人に送ることなど別に珍しくはないのだから、高尾から緑間に誕生日プレゼントを贈るのも十分あり得るだろう。
しかし親しいと言っても緑間と高尾の付き合いは高校に入ってからのほんの数カ月に過ぎない。その上相手はあの緑間なのだからそれは迷いもするだろう。
黒子は持参したジュースを啜りながら、さぞかし困り果てているだろう高尾に同情した。
「お前もなんかやんのか?」
「は?」
「高尾がそんなん言ってたぞ」
「僕が緑間君に誕生日プレゼントをですか」
呆気に取られて火神を見上げた。
「おう。お前と被らないようにしないとだの、参考に何贈るか聞いてみるかなーだのって」
高尾の思考回路の中では、もう確定事項になっているようだ。どこから湧いてきた考えなのだろう。
「なんだ違うのか?」
「そうですね、そんなの考えてもみなかったです」
「ふーん。ま、せっかくだしなんか贈ってやれば?お前らいっつもギクシャクしてるっつーかお固いっつーか冷めてるっつーかさぁ。付き合い長いのにいつまで経っても壁がある感じすんだよな。そりゃあ色々あんだろうけど」
「別に問題ないでしょう」
「そうかあ?一緒にいる俺が居心地悪くてなんかやなんだよ」
「いなきゃいいんじゃないですか」
「マジバとか買い物行ったときに会うじゃねーか」
たまたまとは言え多いと週に二、三回は出会う場合がある。高尾や緑間が通う秀徳高校の近くにもマジバはあるだろうに、なぜだか日頃利用しているのは黒子や火神を始めとする誠凛高校のメンツ行きつけのマジバのようだった。わざわざこちらのマジバに足を伸ばしているようにも思える。
高尾がそうなるようさり気なく促している気がしないでもない。メールといい緑間の誕生日の件と言い、やたら緑間と黒子の間柄にちょっかいを出してくる。単に物好きなのかお節介なのか。はたまた両方か。
「だからさぁ、良い機会だと思うんだよ。少しは緑間との関係改善出来んじゃね」
黒子としては今後もこのままの状態なのだろうと思っていたので、改善していこうなど考えてもいなかった。
これ以上の悪化はない。どん底までいかずとも、一定の距離感を保てているのだからそれで良かったのだ。
「関係改善とか、そんなの考えてもいませんでした」
「別にさぁ、仲良くなれってんじゃなくて、もっとこう、緑間の顔ちゃんと見てしゃべれるくらいにはなっても良いんじゃね」
それには流石に驚く。鈍感なようで案外緑間に対する態度をしっかり見ていたのか。
罪悪感があるとかではなく、ただなんとなく緑間の顔をじっと見ながら会話するのに耐え切れなくて、自然と目を逸らすようになっていた。
「よく気付きましたね」
「あーいつの間にかな。傍で見ててなんか気持ち悪いんだよ」
「そう言われても…」
火神の性格上、そういった光景は見ているだけでイライラしてくるのだろう。
放って置いといてくれて一向に構わないのに。黒子は飲み終えて空になったパックを手持ちぶさたに両の手でいじり始めた。
そんな姿に火神は思わず嘆息を漏らす。
「たくお前らってほんとめんどくさいのな。たまには素直になってやれよ」
「色々あるんですよ」
「ま、どーせその内高尾からも言われんじゃね?しつこく聞かれる前になんか考えとけよ」
その方が楽だろと、火神は食べ終えたパンの袋をまとめてゴミ袋用に持参してきたコンビニの袋に詰めてしまうと残っていたパックジュースも飲み干した。
「俺少しここで寝てくわ」
「僕は図書室に行きますけどちゃんと午後の授業に間に合うように起きてくださいね」「わかってるよ」
ごろりと屋上の床に横になった火神にそう注意して、黒子は自分のゴミと脇に無造作に置かれていた火神のコンビニ袋を持つと屋上を後にした。
火神と別れ屋上を後にした黒子は、途中自販機の隣に設置されているゴミ箱に昼食で出たゴミをいささか乱暴に突っ込んだ。
緑間の誕生日についてわざわざ高尾が火神にメールを送ってくるとは根回しの一環なのだろうか。次は黄瀬か桃井か、それとも直接か。徐々に外堀を埋めていくつもりなのか。
贈り物など中学の頃も黒子からは勿論のこと、緑間からも一切なかった。唯一桃井経由で特製のコロコロ鉛筆を貰ったくらいだろう。
「何かを贈り合うような仲ではないんですけどね」
緑間にしたっていい迷惑だろう。黒子から贈ったところでなんて顔をしたら良いものかと困り果ててしまいそうだ。
また逆に自分もそうなのではないだろうか。何か理由でも付けられないと素直に受け取ることなんて出来ないのではないか。
礼くらいは流石に伝えるだろうけれども、ただそれだけだ。
「ほんとめんどくせーの」
黒子が去るのを見届けると、火神は制服のポケットから携帯電話を取り出して寝転がったままメールを打つ。相手は高尾だ。
「誕生日は覚えてたみたいだけど別になんか贈るとかは考えてなかったとさ。と」
送信されたのを確認してぱたりと携帯電話を閉じた。
「気付いているんだか気付かないふりをしてるつもりなんだか」
緑間達と会うたびにいつも思う。
本人はいつもと変わらぬ無表情を装っているけれど、緑間の隣にいて楽しそうにからかっている高尾を見る黒子の眉間に僅かながらに皺がより、高尾が緑間に触れるたびにほんの一瞬黒子の口元が少し歪むこともしばしばある。
火神がわかるくらいなのだから、おそらく高尾も気付いているだろう。その上でああやって緑間に接しているのはわざと黒子の感情を煽るためだ。
「さっさと自覚しちまえよ」
緑間に好意を抱いていることに。
さっきのいじいじと空箱を弄っていた姿なんて、まさにその表れのように思えた。なんてはがゆいんだ。
緑間だってそうだ。いつもの癖で、隣に並んでいる黒子の頭をぐしゃぐしゃと撫でてやったことがあった。黒子も慣れてきたのか止めて下さいと、軽く諌める程度で止めなかったのだが自分を見る緑間のあの顔。気に食わないといった心情丸出しでこちらを見ていた。
黒子は火神のほうを向いていたためかそれに気付かなかったようだが、緑間の隣に座っていた高尾にはまるわかりだったようで心底呆れ返っていた。
黒子がちゃんと緑間と目を合わせて話そうとしないのだって、きっと恥ずかしくて見ていられなくならからだろう。恥ずかしくて相手を直視出来ないなんてどこの小学生だ。こっちが恥ずかしくなってくる。これが青い春とかいうやつだろうか。
バスケに支障が出ないなら、ツンデレ同士いくらでも好きなだけやってれば良い。
そう閉めると、携帯電話を脇に放って昼休みの惰眠を取るべく寝返りを打った。
|