※火神の緑黒観察記な感じです



空き場所

「おー黒子じゃん。おはよー」
「おはようございます、降旗君」

 朝練に向かう途中で後から来た降旗に声を掛けられた。挨拶を交わして並んで部室に歩き出す。
 途中前を歩いていた火神とも合流した。小テストや部活のことについてつらつら話していると、ふと降旗が何かに気付いたように黒子が肩から下げている荷物に目をやった。

「黒子珍しいな、今日は布バッグ持ってるんだな」
「ちょっと今日荷物多くて入りきらなかったんですよ」
「あーなるほどね」

 課後は部活動に時間を費やしたいので、課題は昼休みや帰宅してからやっているけれど提出日が重なる場合も多々あるので学校で終わらないと家に持ち帰ることになる。
 学生の本業は学業なので疎かに出来ないし、後々部活動に響いてこないとも限らないからしっかり提出しないと困るのは自分達だ。
 課題をこなすのに辞書や資料が必要となるが、使用したそれらは授業でも当然必要となるから重くてもまた家から持ってこなければならない。
 そうなれば必然的に荷物も増える。いつも肩から下げている鞄だけでは入り切らなくて予備の鞄に入れて歩いたりもする。

「辞書重いよなー」
「まぁそうなんですけど古典の提出期限が迫ってますからね」
「俺まだかかりそうー。そういや火神は進んでるのか?」
「・・・聞くなよ」

 降旗に課題の話題を振られた火神はふてくされた表情でぽつりと一言漏らした。
 それを見た黒子と降旗は進み具合をさっして呆れ顔になる。

「終わらないとまずいぞー」
「わかってるよ。わかってるけど分からねーもんは分からねーんだよ」
「お前な・・・」
「課題のこと覚えてただけましですよ、降旗君」
「うるせー!」

 ぐだぐだ話している内に男子バスケ部の部室に辿りついた。ノックしてドアを開けると既に何人かいて準備をしていた。
 挨拶をすると火神達も自分のロッカーを開けて荷物を放り込み着替え始めた。

 

 朝練が終わって部室に戻り制服に着替え直していると、隣では先に着替え終わっていた黒子が鞄を開けて荷物整理をしていた。
 てっきりぎゅうぎゅうに教科書やら私物が詰まっているものだと思い込んでいたが、そうでもないようでまだまだ入るスペースはあるように見える。

「あれ、なんだお前荷物入るスペース十分あるじゃん」 
火神に声を掛けられて、ああ、と気付いた黒子が鞄の空いたスペースを指した。

「ここはいいんですよ。ここのスペース空けてないと気になって」
「ふーん」
「なんか入れる予定でもあんのか?」
「そういう訳ではないです。癖ですかね」
「癖ぇ?」

 そういう癖もあるもんなのかと火神は首を傾げた。

「こんなに場所空けとくのがか」
「はあ」
「その布バックに入ってんのここに入んじゃねぇの」「入りそうですけどね」
「だったら入れればいいだろ。いくつも肩から下げてたら邪魔だろーが」
「そしたらこっちの鞄ぎちぎちになっちゃいますよ。余裕があった方が良いんです」

 そういうもんか。火神は自分のすっかすかな鞄と黒子の教科書やノートが綺麗に並んでいる鞄を見比べた。  常日頃から切羽詰まった生活してるよりはずっと良いのだろう。

「良いんじゃねーの。いっつも課題に追われてる火神も少しは見習えよ」

 部活前に話した内容覚えていた降旗が少しは余裕を持てよと笑いながら指摘する。

「お前も辞書の一つや二つ持ち歩けよー」
「重いだろうが、辞書」
「課題をさっぱりやってない君が言うべきセリフじゃないですね」

 痛いところを突かれて火神は押し黙る。全く持ってその通りなので反論出来やしない。

「あと何日かあるんだしなんとかしろよ、火神」
「うっせ」
「出さないと補修か課題追加ですよ」

 補修も課題追加も嫌だ。勉強自体したくないし何よりバスケをする時間が減るのが耐えがたい。

「お前・・・今日放課後空いってか?」
「今日ですか」

 しばし考え込んだ黒子は鞄のポケットから携帯電話を取り出し、ぱかりと開いていじり出した。スケジュールでも確認しているのだろう。

「あまり長くなければ大丈夫だと思いますよ。・・・古典の課題ですね」
「おう」

苦笑しながら携帯を閉じて火神を見上げた。

「シェイクで手を打ちましょう」
「分かった」

 課題は到底火神一人ではこなせないと端から分かっていた黒子はあっさり了承した。やる気があるだけましだろう。

 

 休み時間になると黒子は再び携帯を開いてメールを打ち始めた。相手は緑間だ。

「今日は火神君の課題に付き合いながら待ってます。っと」

 いまいち慣れない手つきでメールを打ち終えて送信ボタンを押した。
 放課後にいつものマジバで緑間と落ち合う約束をしていたのだ。
 恐らく火神がいるなどとは思ってもみないだろう緑間が、彼の姿を見たら状況を説明する間もなく不機嫌になるであろうことは安易に予想出来た。
 なので予めメールで伝えておく。多少はましになるだろう。
 それに火神には申し訳ない気もするが緑間との約束が優先だし、あまり長くは課題に付き合っていられないとすでに伝えてある。
 火神の課題は終わらないだろうから、その時は後は提出するだけの自分のノートを貸してあげよう。
 大嫌いな古典の課題なのにそれでもこなそうとしている火神の姿勢に敬意を称しての、ご褒美だ。
 緑間に知れたら甘やかし過ぎだと怒鳴られそうだなと苦笑した。

 放課後、約束通りマジバで火神の課題に付き合っていた。まずはバーガーを食べてからと主張する火神に量は制限するよう論した。お腹いっぱいに食べてしまったら勉強どころではなくなるのは明らかだった。
 渋っていたけれど数個だけにして課題が終わったら好きなだけ食べれば良いと譲らなかった。
 よく座る窓際の席で火神と向かい合わせに座り、頭を抱えながら古典の課題を解いている火神にアドバイスをしながら黒子はシェイクを啜った。
 ちらりと時計を見ればそろそろ緑間との約束の時間になるところだった。緑間はきっちり時間を守って来るに違いない。

「火神君・・・課題まだまだっぽいですね」
「ああ?当たり前だ。終わるかこんなもん」
「どんなもんでも良いから提出期限日までに終わらせて下さい」
「終わる気がしねぇよ」
「でしょうね」

 黒子も今日のこの時間だけで火神が終わるとは思っていなかったので、ため息を突きつつ鞄から提出用のノートを取り出した。

「このノート見てなんとかして下さい」
「まじで?」
「まじです。今回の課題ちゃんと終わってますから、どうしても無理だったらもう写しちゃって下さい」

 書き写すだけでも火神には勉強になるだろう。このままではどうせ終わらない。

「ここからここまでですね」
「良いのか!?」
「特別です。ちゃんと課題をなんとかしようと取り組む姿勢を見せた君にご褒美です」

 やったーこれでなんとかなる!と嬉々として目を輝かせる火神の後ろから緑間が近付いてくるのが見えた。
 時間ぴったりだが表情は冴えない。

「こんばんは、緑間君」
「・・・冗談かと思ったがそうではなかったのだな」
「げ!緑間!?」

 慌てて背後を降り仰いだ火神もしかめっ面になってきている。

「なんでお前がいんだよ」
「それはこちらの台詞なのだよ」

 緑間も不機嫌を隠すことなく眉をしかめて黒子の隣の席に座った。

「火神君、今日は緑間君と予め会う約束をしていたんですよ」
「ああ・・・そう」

 察した火神はそう言えばお前らそうだったなと顔を掻いている。

「待ち合わせの時間までなら構わないとは言ったがな」「それでノート貸してくれるってのか」

 邪魔すんなってことねと、納得した様子で机の上を片付け始めた。黒子のノートもいそいそと鞄に閉まった。

「ノート忘れずに返して下さいね」
「おー提出日の前の日まで終わらせるわ」
「そうして下さい。あ、バーガー買ってくるなら荷物置いていったらどうです。邪魔でしょう」
「そうだなー」

 火神は財布だけ持って席を立った。
 レジに向かう火神を見やって黒子も残っていたシェイクを飲み干した。

「火神君が戻ってきたら行きましょう」
「そうだな。だがその前にこれを渡しておこう」

 緑間は自分の鞄を開けると中から熊のぬいぐるみを取り出し黒子に差し出した。
 素直に受け取った黒子はしげしげとぬいぐるみを眺める。可愛らしい赤いベストを羽織ったぬいぐるみは両手の上に乗るくらいのサイズだった。

「今日はこれですか」
「そうだ。お前のラッキーアイテムは熊のぬいぐるみなのだよ」

 緑間は拒否せずに受け取った黒子に満足げに頷いた。

「まぁもう夕方ですけどね」
「効果は一日だ」
「なんだそれ・・・」

 紙袋をぶら下げて戻ってきた火神は黒子が持っているぬいぐるみをげんなりと見下ろした。

「なんだとはなんだ。これは水瓶座のラッキーアイテムの熊のぬいぐるみなのだよ!」
「またおは朝かよ」

 火神は紙袋を机の上にがさりと置いて財布をしまいこんだ。紙袋の中はマジバーガーがこれでもかと言わんばかりに詰まっている。
 見ているだけで胸焼けがしそうだ。

「まぁ良いや。俺帰るわ。ノート借りてくな」
「あ、はい。じゃあ僕たちも行きましょうか」

 黒子も膝の上に抱えていた鞄を机の上に乗せて立ち上がった。チャックを開けてぬいぐるみを空いている透き間に潰れないよう配慮しながらしまい込む。

「ああ・・・」

 それを見て火神は一人納得した様子で唸った。

「なんですか?」
「いや、なんでも。たいしたことじゃねーよ」
「おかしな奴だ。行くぞ黒子」
「はい。じゃあ火神君おやすみなさい」
「おう。お前等もきーつけてな」

 黒子を促し先に立って緑間が歩きだした。二人を見送ると火神も紙袋と荷物を持って店外に出る。
 緑間と黒子は火神とは逆方向に向かって歩いていた、

「黒子ん家あっちじゃねーよなー」

 てくてくと夜道を歩きながら先程の二人の様子に思考を巡らす。

 緑間は黒子の飲んでいたシェイクのカップを黒子より先に手に取りゴミ箱に入れていた。さらに黒子の荷物の一つの布バックを当たり前のように自分の肩に緑間のバックと一緒に掛けてもいたし、並んで歩く際は緑間が道路側を歩いてもいた。

 黒子は黒子でそれを当たり前のように受け入れていて一つも口出しをしていなかった。きっと日頃からああなのだろう。

「なんだよあのツンデレヤロー、ちゃんと黒子の彼氏やってんじゃん」

 火神は同性カップルに偏見はなかったけれど、黒子の相手が緑間だというのにはいまいちしっくりこない部分もあった。
 あの占い大好き電波男で良いのかと聞いたときもあった。
 でもああいった場面を目の当たりにすれば納得せざる終えない。

「しっかしわざわざ黒子のラッキーアイテムも持ってくんのかよ」

 もう今日は学校も部活も終わって帰るばかりだ。あまり意味がないような気もするしそれに関しても黒子はなにも言わなかった。

 それどころか、

「鞄の空きスペース、ラッキーアイテム入れるとこかよ」

 これはきっと当たっている。
 緑間と会う約束をしている日は黒子はラッキーアイテムをしまう場所を予め確保しておくのだろう。余計な荷物が増えたとしてもだ。
 緑間は黒子のラッキーアイテムをわざわざ持ってくると知っているから。
 増えた荷物はさっきのように緑間が持ってやっているに違いない。

「よく出来たカップルだな・・・」

 今日は金曜日で、明日明後日は久々に部活動がない連休だ。

 黒子の多めの荷物の中にはお泊まりセットでも紛れ込んでいるんだろうなと勝手に想像して勝手に納得した火神は、次回は邪魔しないでやろうと心に決めてバーガーが詰まった紙袋を担ぎ直した。


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