黒子とは違った意味で訳がわからない人間だが、案外相性は悪くないのかもしれない。

 そんな事を黙々と情事の後始末に精を出している水戸部を見上げながら思う。勿論身体の方も含むが。
 そう言えばと、気だるい身体で寝返りを打って、ベッドから降りずに床に放り投げていた鞄に手を伸ばす。気付いた水戸部がまだ休んでいるよう促してきたが無視をした。

 中を漁って紙切れを取り出す。

「これ、俺のケー番とアドレス」

 この前今度教えるって言っただろうと、水戸部に差し出した。どうせ終わった後はそのまま寝てしまって忘れるだろうからと、予めノートの切れ端に書いて鞄内部のポケットに入れておいたものだ。
 ありがとうの代わりに、ゆるく微笑んでペコリと会釈して素直に受け取ったのをみて満足する。

「別にこれと言ってやり取りするよーなもんもねーだろうけど、やっとくわ」

 もしあったとしても誘いの連絡程度だろう。

「俺寝っから。おそくなんねーうちに帰れよ」

 起きたら風呂に入るから、もう後始末はいいと付け足しておいた。ベッドにもぞもぞと潜り、毛布を被ったのを見届けると水戸部は静かに部屋を後にした。

 

 

 水戸部先輩と、自分を呼び止める声に足を止め振り向くと。黒子がこちらへと歩み寄ってきていた。

「これから部活ですよね。一緒にいいですか?」との問いに頷くと断る理由もないので、隣に並び歩きだした。

「あの…水戸部先輩、最近青峰君と会っているんですか?」

 ちょっと言い辛そうに小声で問うてきた黒子にそうだよと頷く事で答えた。 
 
この前偶然帰りに青峰と連れ立って歩いていたのを見掛けたと言う。中学時代、バスケ部仲間として親しくしていた時期も当然あったのだろうから、黒子が青峰の自宅を知っていてもなんらおかしくはない。向かっている方向からして、目的地が青峰の自宅なのだろうと推測したようだ。 そうですかと水戸部を見上げてくる顔は不安の色が浮かんでいる。

「その、先輩が誰と会うのも自由ですし何かされていると言うわけでもないようですし…。何かこう、強制されて会っている…とかでは?」

 違うよと首を横に振る。どうやら心配させていまっているようだ。無理もないだろう。そんな事はないよ、大丈夫だよと安心させるようクシャクシャと頭を撫でる。 
 
それで一先ずは安心したのか、ほうっと詰めていた息を吐いて肩から力を抜いた。

「あ、でも何か困るような事があったら遠慮なく言って下さいね」

 過去に相棒として連れ添っていた黒子には色々気になってしまうのだろう。青峰と会っても勉強やバスケや遊びに興じるでもなく、ただ一時の逢瀬を重ねているだけなのだ。ただそれだけが故に、青峰に関して知りえた情報は少ない。向こうもそうだろう。
 もしも気になる事や困った時は聞きに行くからと伝えるよう黒子に頷いた。
 男子バスケ部の部室のドアを開けると既に何人か来ていて準備に勤しんでいた。掛けられる声に仕草で返す。
 今頃青峰も部活の真っ最中だろうか。彼が言うところの“暇”が少しでも潰されていると良いなと思う。自分のロッカーを開けると着替えに取り掛かるべく制服のジッパーに手を掛けた。

 

「そういやこの前テツからメールがきて、あんたの事心配してたぜ」

 なにかしたら許さないだとさ。情事後にベッドの上で寝転がる青峰を撫でていると思い出したと話始めた。きっとあの後黒子はメールを送ったのだろう。

「なにかってつってもセックスしかしてねーけどな。お前が心配するようなことはしてねー暇潰しに付き合ってもらってるだけだって、返信はしといたけどな」

 流石に暇潰しの内容までは書かなかったようだ。元相棒といっても軽々しく教えるような内容ではないし当然か。そこら辺は緩くはないようだ。

「まぁ俺はやれれば良いだけだし、あんたに迷惑掛けるつもりもねえから不味かったら切ってかまわねーから」

 後腐れももなんもねーだろうしなとカラカラ笑う青峰に、それで良いならと頷き返す。自分との関係が終わったらまた違う相手を見付けるのだろうと思うと、少し寂しい気もするけれど。

「ははっ。まぁそん時は最後くらいはあんたの声聞かせろよ」

 その時がきたら、最後に、別れ際に自分はなんと言うのだろう。

 

 青峰の家を出たところで、「アッ」と少女の声が聞こえた。声の方を向くと、学校帰りであろう制服姿の桃井がびっくりした顔で立っていた。

「えっ、えっと…テツ君の先輩の…水戸部さんですよね」

 どうして青峰君の家から?と訊ねてくる桃井にさせどう返したものかと考えを巡らせていたら、それより先に桃井の方が気付いたようだ。マネージャーだし幼馴染とも黒子から聞いているから、芳しくない内容だが知っていても不思議ではない。 
 
ハッとした後に呆れ顔で「もー」と呟いた。

「すみません。青峰君には厳しく注意しときますから!迷惑かけちゃって…もうバンバン断っちゃって良いですからね!それで突っ掛かってくるようなら私に言って下さい!怒っておきますから!あ、連絡先!テツ君経由でも良いですけどって、テツ君青峰君のあれ知らないから駄目よね…」

 じゃあ私のでと、鞄を開けておそらく携帯電話を取り出そうとする桃井に、別にいいよと、片手を差し出して止めた。

「いえいえ、うちの学校の生徒ならまだしも、他校の先輩に何かあったら困りますから」

 そこまで言われれば無下に断ることも出来なくなって、水戸部は自分の携帯電話を取り出す。赤外線を使って連絡先を交換した。

「あの…テツ君は知って?」

 青峰と会っている事は知っているがやっている事は知らない。さてどうしたものかと首を傾げたが、先程交換したばかりのアドレスにメールを送って答えてみた。

 メールの内容を確認した桃井はホッとしたようだ。

「テツ君、青峰君のあれっていうか癖っていうか、何ていうかこう…。とにかく知らないと思うんです。テツ君が中学の頃バスケ部やめて暫くしてからだし。だからその、テツ君には内緒にしておいてもらえませんか?」

 青峰君のあれ、でも何を指すのかは十分伝わった。

 本当に何かあったら、なくてももちろん構わないけどちょっとした事でもメールを送ってくれるよう念を押してくる桃井に、分かったとジェスチャーで伝えて帰路についた。

 今度あまり幼馴染を心配させちゃ駄目だよと、メールを送っておこう。

 


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