窓辺に一つ植木鉢



「っと忘れるトコだった」

 自室の窓辺に置いた植木鉢の土が乾いてしまわぬよう、定期的に水を与えなければならない。
 いつもより長く長く思えた冬が終わり、暖かい陽光の元、こうして今年もちゃんと芽を出してくれた。だんだんと蕾も色付いてきているから、花開くまであと数日と掛からないだろう。

「今年も綺麗に咲くっスよね」

 まだ中学生だった頃、黒子に自分はチューリップのようだと言われて、通学路の途中にある花屋で買ったチューリップの球根。ワゴンセールの中から選んだ二つのそれは、花が咲いてみないとどんな花なのか分からないと店員から言われた。それはそれで楽しみの一つとなる。

 仕事もあって学校自体を休んでしまうときもある。そんな時に花を見て自分を思い出して欲しい、いつでも近くで見守っているよ。なんて言った気がする。今思えばただ目に見える繋がりが欲しかっただけかもしれない。

 だが実際はどうだろう。そんなこと一体どの口が言ったのか。気が付いたときには彼はもう、自分達の前からあたかも始めから存在しなかったかのように消えてしまっていた。何を見ていたと言うのか。一番近くにいたと、自惚れていただけの自分を呪うことしか出来なかった。

 皮肉にも、己の手元に来たチューリップは咲いてみれば白いチューリップだった。

「花言葉は失恋スか」

後日、お世話になっているヘアメイクの担当女性から聞いた花言葉。

「チューリップは愛よ、愛!」
「愛っスか〜!」
 

 花言葉なんて興味が無くて、さっぱり知らなかった。黒子はどうなのだろう。博識な彼のことだ。きっと知っているに違いない。告白されたかのような気分に陥ってしまう。想っているのは自分だけではなかった、本当にそうだとしたらなんて嬉しいことか。

「告白するときなんかには良いかもね!あ、だけど色には気を付けなきゃだめよ〜」

 髪を撫で付けながら、ニコニコと話している彼女の趣味はガーデニングだそうで。
 

「色スか?」
「そう、色。色によっても違ってくるのよね〜。チューリップ自体は愛なんだけれど ね。それぞれちょっとずつ違ってて、ま色んな愛があるってことよね」
「そっかぁ」

 白は失恋。
 まさにその通りとなってしまった。

 咲いた当初はそんな事など知る由もなく、無事黒子のも自分のも咲いたことに素直に喜んでいたし、それを口実に自宅にも誘い入れ黒子の家にもお邪魔したものだ。
 来年も再来年も咲くと良いねと笑いかければ、彼もいつもの無表情を崩して柔らかく微笑んでくれた。そんな日々がなんと懐かしい。

「黒子っち。これどうしてるんスかね」

 もう見たくもないと、鉢ごと割られ庭の陽も当たらぬような片隅に捨てられてしまっているだろうか。
 想いを捨てきれず、今年の春もまた花開かせようとしている自分はなんと未練がましく女々しいとさえ思えてくる。

 別々の高校へと進学してしまった。叶うことなら同じ高校へ進みそこでも一緒にバスケをしたかった。
 何を思い無名の新設校を選んだのかなんて知らない。
 それでもバスケを続けていれば、いずれどこかで必ず会えると信じていた。あれ程バスケを愛していたのだから、彼は。高校でもバスケ部に入部しているに違いない。

「失恋と、新しい恋っスよ

 またきっと、必ず出会える。そうしたら、

「恋し直せば良い」
          

 何度だって会う度に違う姿を見てその度に恋すれば良い。好きになれば良い。
 知らなかった彼も愛すれば良い。

「早く会いたいっスね

 そうして自分の口から想いをちゃんと伝えよう。今度は白でも黒子のもとで咲いた黄色のチューリップでもなく。

「ピンクのチューリップなんて贈ったらどんな顔されるスかね。」
 

 男に花なんてなに考えてるのかと、呆れられるかもしれないけれど。
 一本だけ黄色を入れた花束にしよう。正直な想いをこめて。

 桃色のチューリップ。花言葉は恋する年頃、愛の芽生え、誠実な愛。
 白のチューリップ。花言葉は新しい恋、失われた愛、失恋

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