「回廊」
会いに行こう。
この回廊を通って。
会いに行こう。愛しき人のもとへ。
「おい、待てよ。」
「ああ、さっきの・・・。」
「カミューだよ。オマエ名前は?」
「・・・マイクロトフだ。かみゅーか、さっきのは見事な剣技だった。」
「それはどうも。でもそっくり返すよ、その言葉。なぁ、良かったら時々相手をしてくれないか?」
「構わないぞ。望むところだ。」
出会い。
もう何年も前のこと。
互いに互いの元をたずねる度に、時にゆるりと時に足早に通った回廊。
窓から覗く景色。流れる季節の香り、彩り。
花が香り、雨が香り、木々が香り、落ち葉が香り、雪が香り、そしてまた廻る。
幾度と無く。
「マイクロトフ、いるかい?」
「カミュー!良いところに。」
「小鳥?・・・怪我をしているのか。」
「そうなんだ、木の下で蹲っていた。医務室に行こうかと思っていたんだが。
薬を塗ってくれないかと思って。人の薬でも多少は効果があるだろうと。」
「どれ、見せてごらん?・・・ああ致命傷では無いね。良いよ、俺が治療しよう」
「出来るのか?」
「ちょっとね、水の紋章を宿してみたんだ。」
「そうか!頼む!!」
「うん・・・。ほら、もう大丈夫だよ。こんなもんだろう。今まで通り飛べるさ。」
「見事だカミュー、ありがとう」
「なに、礼を言われるほどのことでもないさ。放っておやりよ。」
「ああ。そうだな」
「大丈夫そうだね。翼に力がある」
「そうだな。俺も宿すかな紋章。」
「ははっ。マイクには似合わないよ紋章。第一魔力低いだろう?」
「むぅ。まぁそうだが」
「ま、あえて宿すなら素早さが上がるとか、より剣技に磨きがかかるとか何かそう
いったものが良いんじゃないか?」
他愛の無い会話。
同じ空を同じときに見上げて。
隣に並ぶ君は何を思っていたのか。
「あのなぁ、マイク。先輩に意見するのは良いことだが時と場所を選べよ。」
「そ、そんなに目立っていたか?」
「そりゃねぇ、裏通りとは云え決して人通りも少なくも無いじゃね。」
「そ、そうか。次は場所を考えてからにしよう。」
「それが良いね。・・・お前を目の敵にしている先輩騎士がまた増えたね。」
「人の事言えるのか、カミュー。」
「そりゃ最もだ。しかしねマイク、俺は少し心配だよ。お前は周りを見なさ過ぎる。」
「団長にも言われた。気を付けているつもりなのだがな。」
「気が付いたら、周りが敵だらけなんてやめてくれよ。」
「流石にそれは無いと思うが・・・。」
「そう?なら良いけど。」
いつの頃からだろうか。
“マクロトフ”から“マイク”へと呼び名が変わったのは。
いつの間にか当たり前のように、“マイク”と愛称がなっていた。
嫌では無かった。
むしろ喜びを感じていた。
「なんだ・・・。」
「嫌かい?キス。」
「・・・嫌、では無いがなんだ突然。だいたい・・・」
「なんで唇なのかって?」
「・・・」
「唇が良いんだよ。嫌じゃ無いの?じゃあ・・好き?」
「い、いやその・・・。」
「好きだよ・・・。好きなんだ、マイク。」
「す、好きって、そのなんだ。」
「マイクは?」
「う・・・。だからその、嫌いじゃない・・・。」
「うん。」
「だからその、す・・・好きだと思う。」
「誰が?」
「カミューが、だ。」
「うん」
「カミューが好きだ。」
「うん。俺も好きだよ、マイク」
告白。
突然だったが、何故だか予感めいたものは感じていた。
色恋には殆ど無縁だったが、言われて気付かされた。
好きなんだと。好きあっているのだと。
交わす口付けに喜びと少しの切なさを感じていた。
「随分と上り詰めたものだね、互いにさ」
「不満があるのか?」
「そうだね、忙しくなってお前と会う時間が短くなってしまったことかな。」
「それはしょうがないだろう。」
「まぁ、そうなんだけど。部屋が近くなったのは嬉しいことだね。夜這いしやすい。」
「夜這いってなぁお前。」
「どうせだったら隣同士でも、相部屋だってかまわないさ。ああでも、それじゃスリル
がないか。」
「無くて良いだろうそれは・・・。」
「そう?夜にこっそり部屋を訪ねるのって良くないかい?秘め事めいててさ。」
「秘め事には変わりが無いな。」
「気付いてる奴もいるだどうけど、ばればれでもないしね。一握りの人間だろうな。」
「ばればれは勘弁してくれ。冗談じゃない。」
「どうどうと日中もくっついて歩けるようにはなるけどな。」
「俺はごめんだ。」
「つれないね。」
「おい・・・。」
「もう1回。夜はこれからだよ、マイク」
「もう1回だけだぞ。」
「さてね。」
いつしか口付けだけでは物足りなくなって。
繋がる肉体。
人から見えぬであろう箇所に散らされるその朱。
熱い吐息も、苦しげでありながらも艶やかな表情も、愛を囁く声も、流れる汗も。
全てが愛しかった。
最後に互いの部屋を行き来したのは遥か昔。
足音を殺して。
たまたま手に入った上質のワインを片手に持って。
訪れれば変わらぬ笑顔で迎え入れてくれた。
待っていた、と。
この回廊を通って部屋へ行っても、今はもうその全てが存在しない。
部屋の主は変わっている。
そしてまた自分も違う部屋へと移っている。
ここを歩くことも少なくなった。
あの部屋へ通うために歩いた回廊。
相変わらず流れる季節。
思う心も変わっていない。
変わることは決してないだろう。
そう。
ただそこに、思い人が存在しないだけ。
君を思う。
ここを通り、窓から外を眺め遠き日々を思い出す。
天高く流れる雲。
君もこの空をどこかで眺めているのか。
同じ空を眺めている、それだけでも愛おしく感じる。
いつでも繋がっている。
そう確かに感じる。
回廊を、今日も歩く。
返事は返ってくる事は無い。
それでも君を思う。
愛している、と。
Fin.
回廊のイメージが切ないのですよ。あれですよ極端な話し、♪パトラッシュと歩〜いた〜・・・♪ってあれ。ここを歩くと思い出すあの頃ですね。
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