風の香る頃〜冬〜
‘雪’
肌寒さを感じて目が覚めてしまった。
未だ覚醒しきれず、ぼーっとしている頭でゆっくりと思考と瞳を巡らせる。
僅かな光が部屋を薄暗く照らしている。
この光の明るさだと、どうやら夜明け直前の様だ。
いつもならまだ夢の中だろう。
妙な高調感を感じる朝だな。
それにしても寒い。
かなり冷え込んでいる。
熱を求めて寝返りをうち、手探りでお目当てを探す。が、
いない?
おかしい。
確か昨晩は寒い事を理由に、半ば無理矢理部屋に押し入って事に及んで・・・。
一緒に寝たはずなのに。
なのに、何処へ行ってしまったのだろう。
早起きが得意な事は解るが、いくらなんでもまだ早過ぎる気がする。
こんな寒い朝に散歩も行かないだろう。
っと。
あれ?
巡らせていた瞳にぼんやりとだが、人影が入ってきた。
どうやらカーテンを明けて窓辺に座り、外を眺めているようだった。
なんだ・・・。
「相変わらず早いな、マイクロトフ。」
突然掛けられた声に驚いたようだが、ベッドの方に顔を向けてきた。
「カミュー起きてたのか。」
「ああ、どうにも寒くてね。目が覚めてっしまったよ。」
ベッドから出ずに、上半身だけを起こす。
「寒くないのか、お前は?」
「寒いが、我慢出来ない程ではない。」
生まれ育ったロックアックスが山間部だったせいか、寒さには強いようだった。
「羨ましい事で。ところで外に何か面白いものでもあるのか?」
マイクロトフは上着を羽織っているが、見ているだけで寒くなる。
物好きに見えてしょうがない。
「雪だ。昨晩から降っているようでな、随分と積もっている。」
「雪?」
ああ、それでこんなにも冷え込んだのか。
納得がいく。
カミューは脇に置いておいた自分の上着を羽織ると、ベッドから下り自分も外を眺めた。
浮かび上がる白。
見る物全てが覆われている。
所々にある動物達の足跡。
夜明け前の薄暗さが、日の光を浴びて輝くものとはまた違う味を醸し出している。
「綺麗だな・・・。」
ほうっと感嘆の声を漏らす。
「どこへ行っても美しさは変わらないものだな。」
マイクロトフが呟くように言った。
「降る量は違うけどね。」
何げないカミューの一言に。
ふと、込み上げてくる切なさ混じりの懐かしさ。
離れてしまっても、変わらない思い。
愛する故郷。
この季節が、雪の降る頃が一番好きだった。
こうやって、ただ何もしないで白に染まった外を眺めるのが好きだった。
自らの足で踏み締め、感触を体で感じ。
時折流れる風の中に、埋もれた植物達の香りを感じて。
雪の香り。
言葉では表せない。
実際はきっと雪は香らないのだろうけど。
そんな中に身を置くと、心が落ち着き、満たされてゆくのが解った。
「どうした?ぼーっとして。」
「いや・・・ちょっと思い出してしまってな。」
「ロックアックスにいた頃か?」
「あの頃もよくこうやって雪を眺めていたな・・・と。」
揺れる瞳は雪ではなく、遠き故郷を見つめているようだった。
「帰りたくなったのか?」
思わず苦笑してしまう。
「それはない。・・・でもこの戦いが終わったら、またあの頃のように・・・。」
霜が降りて、初雪が降って。
気が付くと辺り一面雪で覆われていて。
汚れ無きものを。
瞳で白を。
体で感触と冷たさと風と香りを。
心で満たされてゆく思いを感じて。
あの頃のように戻るのは、許されない事だけど。
一度で良い。
故郷の雪を感じたい。
この切ない瞳が好きだ。
堪らなく愛しい。
嫌いなところなんてないけれど。
あるわけが無いけれど。
「さてと・・・俺はもう一眠りするよ。」
「そうか。」
「お前は?」
「そうだな・・・流石にまだ早いし俺もそうするか。」
もそもそとベッドに入る。
かなり冷えてしまっている。
出たのはついさっきなのに。
隣を見ると、マイクロトフは自分とは反対の方を向いて、早くも寝る体制に入っていた。
ふと何かを思い付いたような顔付きになる。
「・・・っ。何をするんだ。」
カミューはマイクロトフの肩に手を掛けると、無理矢理自分の方を向かせた。
「又冷えてしまったよ。暖めてくれるんだろ?」
気が付くとカミューが上から見下ろしていた。
「暖炉にでも当たれば良いだろうっ。」
絡みついてくる手足に抵抗する。
「つれない事言うなよ。昨晩だって付き合ってくれたじゃないか。それに・・・。」
耳元で息を吹きかけるように囁く。
服に手を掛け緩めるようにする。
「雪とは違ったものが満たしてくれる。心も体も。」
ぞくっと体を駆け巡る。
「くそっ。」
「なぁ・・・。」
肌に触れてくる冷えた手の感触に震えが走る。
「今度はなんだっ。」
「終わって一眠りしたら、散歩に行こうか。」
「散歩?」
「雪見がてらにさ。」
「・・・そうだな。」
のんびりと、森を街を水辺を歩こう。
2人で歩けば、1人の時とは又違ったものが見えてくるだろう。
止まる事無く移りゆく季節の中で。
風に感じる香りに。
沢山の物を共感して。
分かち合えたら
Fin