遠い音楽
遠く流れる雲は夕日に染まり、広き草原は風に揺る。
落ち葉を舞い上がらせかさついた音を立てながら
冬の到来を告げているその風は、どこか寂しげな音楽を奏でているよう。
今日も明日も明後日も止むこと無く何かを運び続けている。
一人ユーリの部屋にいた。彼は会議中で今はいない。
今日は長く掛かるとの事だったので、暫く図書館で気になっていた本を何冊か
読んでいた。ここの図書館は自宅の書斎よりも解放軍本拠地の図書室よりも当然のことながら大きく、冊数も種類も豊富である。読書好きな自分にとっては、堪らなく魅力的な場所だ。
今日のような場合は、裏の港で釣りをしながらぼーっと過ごす時が多いが最近は寒くて行っていない。晴れた日の昼間でも湖で冷やされた風が冷たく、とてもじゃないが長時間はいれない。
さすがに疲れを覚え2冊程借りて戻ってきた。座りっ放しだったため、腰が少々痛む。
「ただいま、ユーリ。」
返事もなければユーリの姿もなく未だ会議が続いているようだった。
「今日は随分と長いね・・・。」
ポツリと一人呟くと、借りてきた本を窓際の小さなテーブルに置いた。
開けっ放しの窓から流れ込んでくる風がカーテンを揺らしているが、このままでは部屋が冷えてしまうので閉めることにする。
「ただいま戻りました〜。」
元気な足音と扉を開ける音と共に、ユーリが入ってきた。
手には相当な枚数の書類。
「お帰り。今日は随分と長かったね。」
「そうなんですよ。思っていたより掛かってしまって・・・。」
書類を自分の机の上に投げ出し、椅子にどっと座り込む。
リーフは部屋のカーテンをついでとばかりに閉めてしまうと、ユーリの隣の椅子にに腰を下ろした。
「ごくろうさま。今日はさっさと食事も風呂も済ませて、早めに寝た方が良い ね。」
疲れがたまったら困るだけだしね。
「でも書類が・・・。」
気の抜けた声で返事を返してくるユーリに苦笑してしまう。自分もこんな風になったことが何度あったことか。
経験者としては疲れを少しでもとるために、休むことを無理にでも勧めたかった。
「明日までに出さなきゃ駄目なのかい?」
「いえ、とりあえず今日のは急ぐような書類じゃないから一週間以内に出せば良いそうです。」
だったら・・・。
「無理しないで休みなよ。頭もろくに働かないだろう?」
「・・・そうします。」
食事は一休みをしてからという事にした。
良いタイミングでナナミが食事の誘いにきたので一緒に向かうことにする。
「よお、お前らも飯か?」
レストランの手前で後ろからビクトールが声を掛けてきた。
振り向くと隣には相方のフリックも一緒にいる。
「そうですよ。」
「ビクトールさんもフリックさんもお風呂に入ってきたの?」
2人揃って上気した顔、肩に掛けているタオル、そして湯気がたっている。
一目瞭然。
「ああ、剣の稽古をしてたんだ。汗も結構かいたからな。」
「おかげで腹がすっからかんだ。」
「良かったら一緒に食べないか?」
もちろん断る理由も無く、窓際のテーブルの席にそれぞれが付いた。
レストラン内でも結構に大きいテーブルだが、先のことを考えるとこれでも
まだ小さいということになりそうだ。
「ご注文は何になさいますか?」
ほどなくウェイトレスの若い女性が聞きにきた。
「私はオムライスセットお願いします。」
「僕も一緒のを。」
「俺は焼き魚定食。」
「ああ、僕もそれで。」
「なんだお前らもっと食わないとでかくならないぞ〜?」
ぽふぽふとユーリの頭に手をやりながらビクトールが言う。
「お前がでか過ぎるんだよ・・・。」
さっさと注文しろよとフリックが促す。
「まずチャーハン特盛二人前と煮魚とにくじゃが、あとグリーンサラダと・・・。」
ばしんっ。
「以上でお願いします。」
リーフがメニューでビクトールの顔面を叩き、にこやかに微笑んでいた。
「くそ〜足りねぇな。」
文句を言いながらも運ばれてきた料理をもくもくと食べていた。
「腹八分目でやめとけよ。」
「それだけ食べてもまだ足りの?」
関心しながらナナミが訪ねてくる。
「生憎と足りないんだなこれが。」
既に諦めているフリックはそれに関しては何も言わない。
「そういやお前フィレナに行ったんだってな。」
「ああ、ふら〜っとね。」
ちょっとしかいなかったし。
「わ〜凄いですね!」
「どんな所でしたか?」
興味津々ナナミが聞いてくる。
「ん〜、紅茶がとても美味しかったよ。」
「それからそれから?」
「そうだなぁ・・・。」
食後のデザート等を食べながら旅先の話を暫くしていた。
食堂の客もまばらになり、ネタも尽きてきた頃を見計らって
また今度と言うことでお開きにする。
胃も程良く休まっていたので、部屋に戻ると着替えだのタオルだのを持ってお風呂へ直行した。
「ふぅ。」
一足先に風呂から上がってきたリーフは、テーブルに置いてある
備え付けの水差しから自分用のグラスへ水を注ぐと一気に飲み干した。
あまり冷えてはいなかったが風呂上がりには調度良かった。
空になったグラスを元の位置に戻し、着衣も片付けてしまうと
ベッドを整えに向かう。
朝起きた時のままほったらかしにしていたベッドは枕も毛布もシーツもくちゃくちゃになってしまっていた。
「さっぱりした〜。」
「少しは疲れ取れたかい?」
ユーリは上がってくるなり整えたばかりのベッドにぼふっと転がった。
グラスにさっき飲んだ水を注いで差し出す。
「あ。ありがとうございます。」
起き上がると自分と同じように一気に飲み干してしまう。
空になったグラスを受け取り元に戻してふと気が付く。
「まだ髪、濡れてるよ。」
困った子だね。
「そうですか?」
「風邪をひいてしまうよ。」
ユーリのタオルでがしがしと少々乱暴に拭く。
「良、こんなもんかな。」
「すみません、お世話掛けちゃって・・・。」
「気にすることないよ」
僕が好きでやってるんだから。
「さて、寝ようか。」
タオルを掛けてランプをベッドの脇のサイドテーブルに移動する。
「そうですね・・・。」
もそもそと潜り込むユーリに続いて自分も入ると明かりを消すためにランプに手を掛けた。
「明かり消すよ。」
「はいどうぞ〜。」
返事をする声から既に半分眠り始めている様子。
「・・・リーフさんはいろんな所に行っているんですね。」
思い出したかのようにユーリが呟いた。
「そうだね。結構いろんな所に行ってるね。」
「僕の知らない世界のことも沢山知ってる・・・。」
「君だって、僕の知らない事を知ってるだろう?」
「そうですか?」
「そうだよ・・・。」
「その話しはまた明日・・・ね?」
毛布を肩まで掛けてやりそっと言い聞かせるように囁いた。
「はい・・・。お休みなさいリーフさん・・・。」
最後の方は消えてしまい口を動かすだけものとなった。
「お休み、ユーリ。」
明かりを消すとカーテンの隙から僅かな月光が漏れてくる。
風が窓をカタカタと鳴らしている。
今日はちょっと雲が多かったけどこの風が
運んでいってくれるだろう。きっと良い天気だな。
お弁当を用意して貰って見晴らしの良い所にでもピクニックに行こうか。
その時にまた話せば良い。
いくらでも。
時間の許す限り。
自分の行ったいろいろな国の事を。
この子が持っていない知識を。
知ることは善悪に関係なくとても大事なこと。
知らないよりは知っておいた方が良いし、損も無いと思う。
だから君の知っている僕の知らないことを僕にも話して欲しいな・・・。
遠い音楽を聞きながら・・・。
2828番を踏んで下さった、M☆Okise様のリクエストで坊×主でした。遅くなって大変申し訳ないです(涙)。因みにこれの元ネタはシナリオの授業で書いた、遠い音楽から想像した話しです。
M☆Okise様、どうも有り難うございましたvv