「秋空」

 

 吸い込まれてしましそう。青く深く高いあなたに。

 連れて行かれてしまいそう。どこか遠い私の知らぬ場所へ。

 不思議なあなた。もうすぐそこにいるのに、決して手に触れることはない。

 気高く強く優しく時に弱く。

 見守って・・・時に突き放して。

 あなたのように私はなりたい。

 

 

 草花が揺れる。少し肌寒く感じる風に。

 原っぱに横たわって空を眺めている少年が居る。 

 何をするわけでもなく考え体るわけでもなくただただ眺めている。

 ゆっくりと一つの足音と影が近づいてくる。

 「なにしてるのさ、テッド。」

 「・・・リーフ。」

 リーフはテッドのすぐ横に腰を下ろし足を投げ出した。

 「空を眺めてたんだ。」

 「空?」

 リーフは空を見上げた。

 秋の空だ。どの季節よりも高く青く澄み渡った空。 

 「こうしてる とさ、なんか吸い込まれそうな感じがしてくるよ。」

 「ふーん。」 

 そう言うとリーフも同じように横になる。

 手足を投げ出して、目を開けた。

 「座って眺めるのと全然違うね。・・・綺麗だ。」

 「ああ・・・。不思議な感じ。優しくって温かくって、でもちょっと切なくって。なんでかなぁ。」

 「さぁ、何でだろうね。」

 ゆっくりと流れ行く雲。その白は青く澄んだ秋の空に良く映える。  

 まさに雄大な景色と言うに相応しい。 

 「誰かに似た感じがするとか。」 

 「誰かって?」

 「う〜ん。お母さんとか。」

 「お母さんねぇ。」

 懐かしい言葉だ。久しぶりに聞いた。自分で言うのはもっと久しぶりだ。

 「お母さんか・・・。」

 もう顔を思い浮かべる事が出来ない。あまりにも共に過ごした時が前過ぎて。

 でも確かに言われてみればそんな感じがするとテッドは思う。

 もう顔すら思い出す事が出来ないあなた。

 優しくって温かくって・・・。

 「そうだな。なんか母なる大地って言うよりも、空の方が母って言葉合ってる気がするんだけどなぁ  。そう思わない?リーフ。」 

 「言えてるかも。」

 ふとリーフの手と触れた。

 「あれ?温かいねテッドの手。」

 「リーフが冷たいんじゃないのか?」

 「そうかなぁ。」

 自然と手を繋いでいた。暖かさが手を伝って流れてくる。

 何かを思いついたかのようなテッドは、ティルの手を自分の方に引き寄せた。

 「なに?テッド。ってうわっなにするんだよ!」

 テッドはリーフの手の甲に口づけていた。

 唇からは離すが繋いだままの状態。

 「いや・・・。なんとなく。」

 「な、なんとなくでするわけ?」

 「良いじゃん、この位。べつに減るもんでもないし。それに温かかっただろ?」

 悪びれた様子も無く平然と答える。

 「そりゃ温かいけど・・・。」

 リーフの顔を見ると微かに頬を赤らめていた。もっと苛めてみたいという感情が煽られる。

 テッドは繋いだ手を離すと起き上がり、 リーフの顔の横に手を置き、上からリーフを見下ろす。

 「なに?・・・テッ・・・。」 

 最後の語尾は塞がれて発する事が出来なかった。

 何が起こったのか混乱していていまいち掴めない。

 温かい・・・。それだけは理解出来た。 

 テッドがゆっくりと離れてゆく。

 「楽しいなぁ、リーフは。」

 リーフは暫く呆然としていたが、その言葉で我に帰る。

 「・・・ははっ。はははは・・・・。」

 引きつったような声で何故か笑い出した。と言うか笑うことしか出来ない。

 「・・・リーフ?」

 笑いが止まると見る見るうちに顔が赤く染まっていく。

 怒りと羞恥の混ざった赤だ。 

 「テッ・・・・テッドのばかぁ〜っ!!」

 飛び起きると脇に置いていた棍を手に取り振り回し始めた。

 「うわっリーフちょっと待てって!」

 半分本気で掛かって来るのを躱しながら逃げていく。

 「待てと言われて待つわけがないだろ〜っ!!」

 帰宅するまで攻防は続いたという。         

 

 

 もう触れているかもしれないあなた。

 どこまでも青く澄み渡り、優しく、時に切なく。  

 あなたに見守られて。

 幾度も巡る時を今日のように過ごせたら。

 ささやかな願いを胸に秘めて。

 

 

 FIN