「あなたの香り」


「なぁ・・司。」

結構前から考えていたけれど、いざ言おうとなるとなかなか口に出ない。

なにやってんだ、俺。

「うん?」

ええいっ!

「その・・・さ。一緒に・・一緒に住まないか?」

「え・・・?」

紅茶をカップに注ぐ手を止めて、キョトンとした顔で、見つめ返してくる。

顔が熱くなっていくのがわかる。

たまらくなって、視線を外してしまった。

「いや、だから・・」

「うん。」

司が言いかけた俺の言葉を遮った。

・・・。

「え・・・?」

「うん。良いよ、一緒に・・住もうか。拓実」

コトンと、静かにお茶のポットをテーブルに置くとゆっくりと、いつもと変わらない、穏やかな笑顔で真っ直ぐに見返しくる。

微かに頬が染まっている。

「ホントに?」

確認せずにはいられない。

「本当だよ。でももう・・・半分。ううん殆ど同居・・じゃなくて同棲しているのと変わらない気もするけどね。」

「司・・・。」

言われてみればそうかもしれない。

仕込で遅くなることがあっても、お互いの部屋に寄ることは多々あった。

そのまま泊まってしまって、朝一緒に通勤することもあった。

私物も気が付けば普通に置いてあったりもする。

「拓実こそ本当に良いの?」

「当たり前だろ!つーかさ・・」

「あっさり、返事したの思ってもみなかった?」

その通りだ。

多少なりとも考える時間を要求してくるか、このままでも良いよと断られるかと思っていた。

「なんとなく・・ね。近いうちにそうなる気がしたんだよ。」

「そ、そっか。」

司も自分と同じように考えていてくれたことが、たまらなく嬉しい。

肩に腕を回して引き寄せて、ぎゅっと抱きしめる。

「ありがとな。すっげえ嬉しい。」

「拓実・・・。」

そっと司が、抱きしめ返してくる。

「こちらこそ・・。僕も嬉しいよ、拓実。」

 

 

次の休みには引越しの準備に掛かっていた。

司との関係がばればれだったマスターと店の連中にはその事はいち早く、報告した。

「それはそれは、おめでとう御座います。」

何かあった時に、連絡が取れなくなっては困る。

「引越し手伝おっか?三原さん。ねぇ一ノ瀬。」

「あの・・・はい。何でも手伝いますから・・・俺。」

茶化したような口調の智裕と、真面目に返事をする進哉。

「駄目ですよ。お二人の共同作業なんですからね、お邪魔しては。」

と、やんわりとした口調のマスター。

本っ当に良い職場に恵まれてるよな、俺たち。

 

荷物が一通り片付くと、司が紅茶を淹れ始めた。

俺は、キッチンに立つ司の脇を邪魔しないように通ると、例底を開けて中からケーキの入った箱を取り出した。

いったんテーブルに置くと、今度はナイフと小皿とフォークを取りにまた戻る。

箱のふたを開けると、甘い香りが漂ってきた。

「どうしたの、それ。」

紅茶のポットを持ってきた司が向かいに座って、それぞれのカップに注ぐ。

「ああ、これな。マスターが引越し祝いにって。わざわざ工房の連中に頼んで作って貰ったんだって。」

「工房に頼んでくれたの・・・。」

見事な生チョコケーキだった。

「よし、と。誰とは言ってなかったけど多分福島さんかな。」

「何かお礼をしなくちゃね。」

「そうだな。」

切り分けたケーキを小皿に盛って司の前に置く。

「頂きます・・。」

んじゃ、俺もと。

「凄く美味しい・・。」

うっとりとした表情で司が呟く。

「ああ。流石な味だ。」

甘すぎずちょっとほろ苦いチョコレートクリーム。

しっとりとしたスポンジ。

伴って甘い香りが香ってくる。

「でもね・・・。」

司はケーキを口に運んでいた手を休めると、俺の顔を見て微笑んだ。

「拓実の作ってくれたのが、何でも一番だよ」

「司・・・。」

満たされていく。

「俺もさ。司が淹れてくれた紅茶が一番だよ。」

「有難う・・拓実。」

 

 

「食事は俺が作るよ。」

それはもう当然のこと。

美味しいっつって食ってくれる司の顔も大好きだ。

「じゃあ僕は・・・。洗濯は僕がやるよ。」

「洗濯?」

ああ、そういえば・・

「うん。好きなんだ。柔らかくて暖かい感触とか。」

うん。前にも言ってたな。

干した後のベットの寝心地が凄く好きだって。

「晴れた日に干した洗濯物の香りも好き。お日様の香りがして。」

確かに、あれは良いよな。

「お日様の香りって、拓実の匂いだよね。」

「そ、そうか?」

体臭とかって、あんま気にしたこと無いけどそうなのか?

「そうだよ。太陽みたいな拓実の、お日様の匂い。凄く安心する。元々お日様の匂いって好きだったけど、拓実のことが、好きになってからはもっと好きになったよ。」

胸に広がる甘い痛み。

嬉しい、じゃない。もちろんそれもあるけれどそれ以上に。

泣きたくなるほどの幸せ。

幸せだ。

「拓実?」

「あ、ああ。いや・・・幸せだなってさ。」

「僕も幸せだよ。拓実とこうしていれて、凄く幸せを感じる。」

腕を伸ばして引き寄せて抱きしめて、口付けて。

甘い、チョコレート味のキス。

「2人でいたら、ずっと幸せでいられるな。」

「そうだよ。」

幸せな毎日が送れるんだろう。

「二人でいたら、そこが楽園だよ拓実。」

 

 

どこだって良い。

二人でいたら、幸せだから。

なんだって乗り越えていける気がするから。

花も咲かせられる。

そこが俺たちの楽園だ。


部屋とYシャツと私がふと脳内をよぎり、拓実×司でそんな感じに書けたらなとした結果がこれです(笑)
洗濯物をぎゅっとして拓実の香りだ〜。というのを書きたかったのですけれども。書いて無いですね・・・。